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第24話 エルフの涙②

◇◇


 島を出てから2日後。

 バルチアという大きな港町に到着した。

 多くの船が行き交いする港があり、交易の拠点としても知られている。

 そこで俺たちは、この町を拠点として交易を営んでいるノーマン商会を訪れたのだった。

 

「ようこそいらっしゃいました。ご用件は何でしょう?」


 かっぷくの良い人間のおっさんがいぶかしい顔つきで俺たち三人を見比べている。

 彼はノーマン商会のボスで、名はバレットという。

 彼が俺たちを怪しむのは当然だろうな。

 普段はビシッと決めたビジネスマンを相手にしているのに、ここにいるのは冴えない青年なのだから……。

 

「うちはそこらの道具屋とは違いましてね。おたくらのような方々が気軽に訪れるような場所じゃないんですよ。たいした用件がないならお引き取り願いますか」


 言葉は丁寧だが、ところどころにとげがある。

 簡単に言えば「鬱陶しいから早く帰ってくれ」と言いたいのだろう。

 だが俺も小さいとは言え、道具屋の息子だ。

 こういう時に相手を黙らせる方法を知っている。

 それは……。

 

 ――ジャラッ!


「おお! そ、それは……」


 金だ。金は口ほどにものを言うってじいちゃんから聞いたからな。

 大量の金貨を机の上に並べたのだ。

 その数およそ1000枚。

 これだけあれば町のど真ん中に大きな王宮を建てることも簡単にできる。

 バレットの目と顔の色が明らかに変わった。

 

「ああ、これは俺の所持金のほんの一部だからな。何ならあんたにくれてやってもいいと思ってる」


「なんと!」


 声が裏返ってるぜ、おっさん。

 それにもう手を出そうとしてるし。

 そんな彼をリリアーヌが鋭い目つきで睨みつけた。

 ビリビリとした殺気がこっちにまで伝わってくる。

 当然、バレットも気づいたようだ。

 すぐに手をひっこめた。


「あ、いや、ははは……。これはすみません。と、ところでご用件をおうかがいしてもよろしいでしょうか」

 

 今度は上目づかいで見つめてくる。

 それまで軽蔑の目を向けてきた相手が、服従を示してくるのだから気分は悪くない。

 もう少し優越感に浸っていたところだが、ここで余計な時間を食っている場合じゃないからな。

 

「俺はモチモチオハダ王国の王、ヒューゴだ。ノーマン商会と交易の契約を結びたい。これはその着手金だ」


◇◇


 金の力って偉大だな。

 交渉はとんとん拍子で進んで、数時間後には大量の食糧と日用品をつめこんだ船がモチモチオハダ王国に向けて出航することになった。

 多少割高になってしまうが、危険な航海を経て物資を届けてくれるのだから仕方ない。

 いつかはドワーフと一緒に特産品を作って、ノーマン商会を通じて商売がしたいな。

 そうすればモチモチオハダ王国はさらに豊かになるに違いない。

 うむ、我ながらいい考えだな。

 などと自画自賛しているうちに、バレットが話しかけてきた。

 

「ところで薬はいかがしましょうか?」

「薬?」


 薬と言えば、ポーションや万能薬が一般的だ。

 高いものほど効果は高い。一般的に道具屋で売られているのは、銅貨1枚ほどの安いものである。

 

「実はディオ・カンパニーの新作が評判でしてね」

「ディオ・カンパニー……」


 ディオと言えばマロン村のドワーフたちに魔王へ提供するための武器を作らせていたゴブリンの商人のことか。

 嫌な予感が胸をよぎる。

 リリアーヌも俺と同じ心持ちのようで、眉間にしわを寄せている。

 そんな俺たちの雰囲気など気にもとめず、バレットは饒舌に語り出したのだった。

 

「この小さなカプセルを飲めばあらゆる病気やケガが治るそうなんですよ。私も『そんなのウソだ』と信じていなかったんですけどね。実際にディオ・カンパニーの社員が病院で実践してくれたんですよ。そうしたら薬を飲んだすべての患者がたちまち元気になったではありませんか! いやぁ、ビックリしましてね! これ1粒で金貨1枚と値は張るんですが、ヒューゴ様やそちらの『王妃様』に何かあった時のために常備しておいても損はないかと」


 それまで不機嫌そうな顔をしていたリリアーヌの顔がぱぁっと明るくなった。

 だが彼女より先に口を挟んだのはベルだった……。

 

「もうっ! おじさんったらぁ! 勘違いしないでよねぇ。私は『まだ』王妃じゃないのよ! ただのお友達。でもこの先何があるか分からないって意味では、未来の王妃様の可能性は捨てきれないわよね。でも、あたしってほら。ピュアだから。そういうのは時間をかけて……って、え、なに? わあああああ!」


 目を赤く光らせたリリアーヌがむずっとベルをわしづかみにすると、そのまま遠くへ投げ飛ばした。

 ひゅーっと音を立てながら空の彼方へと消えていく……。

 あーあ、これでまた迷子でもなったら、知らんぞ。

 

 あきれた顔をしている俺にバレットがもう一押ししてきた。

 だが、その薬の名を聞いた瞬間に、俺は固まってしまったのだった。

 

 

「んで、いかがします? ヒューゴ様。この『世界樹の蜜』をお買い求めいただけますか?」





商業用の原稿がにっちもさっちもいかなくなってきましたので、ちょっと更新ペースを落とします。

ご了承くださいませ。

この作品はのんびりと気ままに書いていきたいので、長い時間をかけて完成させたい物語となります。

これからもよろしくお願いします。

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