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第18話 領民を増やそう!⑥

「た、た、大変だぁー! と、父ちゃんが!!」


 血相を変えて宿の中に飛び込んできたコッポ。

 俺たちは何事かと互いに顔を見合わせた後、すぐに外へ出た。


「こ、これは……」


 村と外を区切っているのは簡素な木の柵。その柵の向こうに鉄の甲冑に身を包んだ騎士たちが大挙として押し寄せているではないか。

 その中にコッポの父、ギノが縄でぐるぐるに巻かれて歩かされている。


「ここの村の長はおるかぁ!」


 栗毛の馬にまたがったひときわ豪勢な鎧の青年が空気を震わせるほどの大声を上げた。

 ドワーフたちは村の広場でひとかたまりになっており、そこから白髪で立派なひげを生やした老人がゆっくりと村の入り口の方へ歩いていく。

 俺たちは黙ったまま彼の様子を見ていると、ティーモがこっそりと耳打ちしてきた。


「あのお方が村長のモンブランさんです」


 ずいぶんと美味しそうな名前だな、というツッコミはさておき、自分の背丈の3倍はありそうな馬上の騎士に対しても、毅然とした態度で臨んでいるのだから、彼はかなり肝がすわっているんだろうな。


「貴様が村長か?」

「いかにも。わしがマロン村の村長モンブランじゃ」

「俺はアメギス帝国のカルー! マーティス皇帝陛下の従弟である!」


 アメギス帝国か。確か国レベル98は世界一だったよな。

 世界一の軍事力を誇り、『世界の平和を守る英雄の国』を自称していたっけ。

 魔物の討伐や世界のトラブルを解決することで、国レベルを上げてきたそうだ。

 なんでも世界一じゃないと気が済まない国民性らしい。


 そんな自尊心のかたまりのようなお国柄だから、ジャイス公国出身の勇者を毛嫌いしていて、自分たちだけで魔王を倒すための研究まで行っているらしい。

 魔王城の隣のマロン村にまで軍勢を差し向けてくるのだから、魔王のことなんて恐れていないんだと思う。


「ほう。カルー将軍と言えば、帝国で3番目に大きい軍団、『ハヤブサ軍団』を率いておるお方と聞いたことがございますぞ。そんな高貴な方が、どうしてこのような田舎に?」

「ふん! 胸に手を当ててよく考えてみたらどうだ?」

「はて……?」


 モンブランは腕を組んで考え込んでいる。

 カルーは横に立っていた騎士に向かってあごをくいっと上げて何か合図を送った。


 ――ガシャッ。


 モンブランの目の前に数本の剣が投げられる。そこには『栗』の紋章。つまり『マロン産』を意味していた。


「これらはすべて魔物から押収したものである」

「ふむ。おかしいですなぁ。これらすべて我等が作ったものですぞ。なぜ魔物の手に渡っていたのでしょうな?」

「とぼけるなぁ!」


 カルーが腰の剣を抜いて叫んだ。周囲の騎士たちも一斉に武器を取る。

 一触即発の空気にあってもモンブランはまったく動じていないようだ。


「申し訳ございませんが、我等の作った武器はディオ殿に納めております。あとのことはディオ殿にすべて委ねておりますゆえ、なぜ魔物にこれらの武器が渡ったのかは彼におたずねくだされ」


 カルーは冷たい視線をモンブランに向けたまま、小さく口角をあげた。


「そのディオが教えてくれたのだ。『マロンで作られた武器が魔物の手に渡っている』とな」

「…………」


 モンブランの顔色が明らかに青くなっているのが、遠くからでもよく分かった。

 コッポが「ディオの野郎! 裏切りやがったな!」と声をあげたが、クルルが素早くその口をふさいだ。


「ディオは今、勇者パーティーの一員として世界を旅している。一人欠員がでたので、その穴埋めとしてな」


 あ、それ俺の穴埋めです。と心の中で名乗っておく。


「その旅の途中で帝都に立ち寄り、皇帝陛下への手土産としてこれらの武器が献上されたというわけだ。『世界の平和をおびやかすドワーフたちがいる』と」


「…………」


 モンブランの沈黙にもおかまいなしに、カルーはますます饒舌になって語り続けた。


「そもそも我らアメギス帝国は、下賤の種族であるゴブリンのディオが勇者のパーティーメンバーに加わるのを反対していた。いつ魔王側に寝返るとも限らないやからを認めるわけにはいかないだろう。しかしディオは皇帝陛下にひざまずき、『これからも帝国と陛下の目となり、耳となります』と誓ったのだ」


 なるほど。ただでさえゴブリンという種族は好かれていない。なぜなら『いつでも魔王側へ寝返りそうだから』だ。

 さらに言えば皇帝マーティスは『人間至上主義者』。つまり人間以外の種族を認めていない。現にアメギス帝国の国民は奴隷も含めてすべて人間だけで構成されているらしい。


「陛下はディオの殊勝な姿に感動してな。彼を勇者のパーティーメンバーとして認めた。そのうえで、ディオはこう続けたのだ。『これからは帝国と勇者が手を結び、世界をおびやかすものがあれば、ともに戦いましょう』と」


 ああ、そうきたか。

 勇者レオンたちが手強くなった魔物たちに苦戦しはじめていたのは、俺がパーティーメンバーだった頃からの悩みだった。だから彼らにしてみれば、アメギス帝国の軍事力の助けを借りたい。


「皇帝陛下は『これからも定期的に情報提供をしてくれるならば、帝国軍は勇者パーティーを支援しよう』と約束されたのだ!」


 勇者たちが情報提供してくれれば、アメギス帝国としても、自分たちの足を使わずに魔物やトラブルを発見し、解決することができる。そうすることで効率よく国レベルを上げられる。


 つまり勇者パーティーとアメギス帝国はウィン・ウィンの関係になったわけだ。

 

 そのきっかけを作るためにディオは『マロン村を切り捨てる』という手に出た。

 つまり『マロン村のドワーフと魔王がつながっている』というデマを皇帝に密告した。


「狡猾な男よのう」


 リリアーヌが顔をゆがめたのも無理はない。俺だって反吐が出そうだ。

 だが今ここにいない男のことを罵ったとしても、マロン村の領民たちが救われるわけはない。


「さあ、観念しろ! この裏切者どもめ! 貴様らを全員とらえ、監獄島にぶち込めとの命令だ! 抵抗すれば容赦なく斬る!」


 監獄島とはアメギス帝国の領内にある孤島だ。

 そこには『脱出不可能』とされる難攻不落の監獄が建てられており、帝国が『敵』と認めた人々が収監されている。

 ここに入れば一生出れないという噂だ。


「ヒューゴさん、どうしましょう?」


 ミントがうるうるした目で俺の顔を覗き込んでいる。

 さあ、どうしたものか……。

 と悩んでいるうちに、さらなる混乱が村を襲うなんて――。


「あははは!! それは困っちゃうなぁ! だって武器が手に入らなくなっちゃうじゃん!」


 甲高い声が空から響き渡る。

 目を上空に向けると魔物たちの大群で空が埋め尽くされているではないか……。


 その中央にいたのは、魔王エリンだった――。

 



 



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