第1話 王様になりたいのに、ジョブ『遊び人』はないわー
よろしくお願いいたします。
王都から遠く離れた田舎町サザランド。
その町には小さな道具屋がある。
そこの次男坊の俺、ヒューゴ・ブレインは、幼い頃から夢を抱いていた。
――王様になりたい!
どこの国の王に?
どうやって?
大きくなるにつれて窮屈な現実が夢を遠いものに変えていった。
極めつけは魔王の出現だ。
世界中の人々は勇者の登場に熱狂。
しがない道具屋の次男坊の、しょうもない夢の話など聞く耳を持たなかった。
しかし俺だけはあきらめていなかった。
18歳で学校を卒業すれば『ジョブ』がもらえるようになる。
『ジョブ』とは適性のようなもので、ジョブに応じてスキルや魔法を覚えていく。だからそれに適した『職業』に就くのがセオリーだ。
例えばジョブが『戦士』であれば剣技や体術などを覚えるから『王国兵』や『冒険者』の職業につき、ジョブが『魔法使い』であれば火や水の魔法を覚えるから、『宮廷魔術師』や『魔法便利屋』の職業につく、といったところだ。
もし『ジョブ』がカリスマ性と統率力に長けたものだったなら、王様になれるかもしれない。
一縷の望みを胸に秘めながら、俺は学業に励み、学校を卒業した。
そして今日。
ジョブをつかさどるロージアン大聖堂という場所に行くことにしたのである。
ここで『ジョブを決める女神様』からジョブをもらえるのだそうだ。
◇◇
同じようにジョブを希望する人々の列に並ぶこと6時間。
ようやく順番がきた。
「はい、つぎー」
やる気のない女の子の声。
俺はノックをして部屋に入った。
そこにげんなりとした顔の金髪幼女が、大きな椅子に腰かけていた。
肩肘をついて足を組んでいる。見るからして態度が悪い。
「んで、君が本日503人目の求職者かい?」
「503人目かは知りませんが、求職者であることは確かです」
「口ごたえはいいんだよ。口ごたえは……」
ああ、仲良くなれるタイプじゃないわ。
きっと彼女が女神フローリアだろう。
女神っていうから心優しい美女を期待していたのだが、とんだ勘違いだったようだ。
「あなたがヒューゴ・ブレイン?」
フローリアは俺と履歴書を交互に見比べている。
「はい、そうです」
「……写真も実物も冴えないわね」
「は? 何か言いました?」
「いえ、こっちの話よ」
まあ、無駄話に付き合うつもりはない。
俺は単刀直入に願い事を告げた。
「俺は王様になりたいんです。どうかぴったりなジョブをください」
「はぁ……。みんな好き勝手言うのよねー。考えるこっちの身にもなって欲しいものだわ」
彼女はテーブルの上に無造作に伏せてあった大量の紙のうち2枚をめくった。
「はい、出ましたー。あなたがなれるのは『遊び人』か『ひきニート』でーす」
「いやいや! ちょっと待って! ジョブが『遊び人』はないだろ! それに『ひきニート』って無職一直線じゃんか!」
「文句あるなら帰ってもらってもいいのよ」
フローリアはしっしと手を振って追い返す仕草をしている。
どうやら取り付く島はなさそうだ。
「……もういい。じゃあ『遊び人』で」
「ふん! 最初から素直にそう言えばいいのよ」
フローリアはぺったんこな胸をはって仁王立ちした。
ぶっちゃけてすげーむかつく。が、それを口にしようものなら『ひきニート』まっしぐらだ。
彼女は嫌々そうに俺のおでこに小さな手を載せた後、お尻をフリフリさせた。
「この冴えない男に新たなジョブを与えたまえー」
「明らかに悪意丸出しな呪文だな。おい」
「儀式おしまい。今日から『遊び人』として生きなさい」
「はあ……。ありがとうございました」
部屋を出ようとしたところで、入れ違いで次のジョブ希望者が入ってくる。
するとフローリアの甲高い声が響いてきた。
「きゃああ! イケメンじゃなーい! え? 何? 自分にぴったりのかっこいいジョブがお望みですって? うん! いいわ! 聖戦士か賢者はいかがかしら? それとも僧侶になって私のパートナーとして大聖堂で働くという手もあるわ! そうなったら公私のパートナーとして一生私のそばに……。きゃああ! 最高!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺の時とずいぶん扱いが違うじゃんか!」
「ああ、あんたまだいたの? いいから早くいきなさい。文句があるならジョブ取り消してもいいのよ」
6時間も並んだ挙句、無職に戻されるのは嫌だ。
俺は引き下がり、
「いつか見てろよ! あっと言わせてやるからな!」
という捨て台詞だけ吐いて、大聖堂を後にしたのだった。
でもまさかフローリアも思わなかっただろうよ。
後になって本当に「あっ」と言わされることになるなんて――。