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第13話 領民を増やそう!①

◇◇

 

 翌朝――。

 朝食を取り終えたところで、俺はみんなの前で宣言した。


「いったん島を出ようと思う!」


 顔を真っ青にしたミントがふらりと倒れそうになるのをクルルが懸命に支えた。


「ミントお姉ちゃん! しっかりして! ヒューゴおじちゃん! どういうこと? 王様をやめちゃうの?」


「あ、いや勘違いしないでくれ。用事が済んだらすぐに戻ってくる」


「用事? どんな用事なの?」


「それはだな……」


 いや、待てよ。

 ここで『幼馴染のアナを迎えにいくためだ』と言ったらこの場が大荒れになるのは目に見えている。

 特にリリアーヌが心配だ。


「なんじゃ? わらわは別にかまわんぞ。ヒューゴと一緒なら地獄の果てまでもついていこう。それに余計な『虫』が寄ってこようものなら容赦はせぬ。滅してやるのじゃ」


 うむ。ダメだ。

 絶対に『アナをお嫁さんにするために迎えにいく』なんて言えない。


「ヒューゴさん。何をしに島を出るのでしょうか? 教えてはいただけませんか。でないと私不安で……」


 ミントの尻尾がしゅんと下がる。彼女に瞳を潤ませて見つめられると、胸が締め付けられる。

 そこで俺は『アナを迎えにいく』ということを隠して、実際に島を出たらやろうと考えていたことを口にしたのだった。


「島に住んでくれる領民を集めるんだ!」


 と――。


◇◇


 領民を集める、というのは決して思いつきではない。

 俺が国王になってから数日たったが、一向にニャモフ族は島へ戻ってこないし、交易の船だってまったくこないのだ。

 このままでは本当に4人だけで暮らすことになる。

 それでは国とは言えない。

 ニャモフ族は300人ほどこの島に暮らしていたそうだ。

 せめて同じくらいの領民は欲しい。

 

 それにアナを迎えにいく口実も欲しかった。

 彼女一人だけを領民に加える、なんてあからさまにおかしいからな。

 だが領民集めの前に、大きな課題があることをすっかり忘れていたのである。

 それをクルルの鋭い一言で思い知らされた。


「ところでヒューゴおじちゃんはどうやって島を出るのー?」

「うっ……!」

「ヒューゴ。心配するでない。わらわの魔法で……。んぐっ!?」


 俺はとっさに彼女の口を手で封じた。

 だって『わらわの魔法で好きなところへ連れていってやろう』なんて言い出そうものなら、明らかに『リリニャンお姉ちゃんは何者なのぉ?』というクルルのツッコミが待っているに違いない。

 ただでさえ、この前の水かけ合戦で『水の龍』を作ったことで怪しまれているのだ。

 これ以上、彼女の超人的な能力を二人に見せるのは得策ではない。

 

「も、もちろん俺に考えがある!」

「ふーん。どんな考えなの?」


 クルルめ。ぐいぐいくるな。

 時折、「この子は本当に幼女なのか?」と疑いたくなる時があるが、きっとなんでも疑問に感じたことを口にする性格なのだろう。 

 ただ俺はこの返しを想定していた。


「スキルを使うんだ」

「スキル?」

「ああ、『トキドキワープ』ってスキルだ!」


 『トキドキワープ』はその名の通りに、『時々ワープができるスキル』である。

 『クルクルプン』の効果の一つである『バーシブット』の対象が術者1人なのに対し、『トキドキワープ』はパーティーごとワープできる。他にワープできる魔法はないため、究極の移動魔法とされている。

 ただし『時々』が示す通り、効果が出るかどうかは運次第。しかもどこにワープするかも運次第だ。

 さらに言えば、1日に1回しか使えないという制約もある。

 戦闘時にパーティーが全滅の危機に瀕した際に、パーティーごと離脱させるためにあると言っても過言ではない。

 だがたいていは『どこにもワープできなかった』で終わるのは想像に難くない。

 

 しかし俺には限界突破した運の良さがある。

 確実に故郷のサザランドへワープすることはできるだろう。

 そのためには『戦闘』の状態にする必要があるんだよな。

 ちょっと危険だが仕方ない。

 ――危険を冒してでもチャンスをつかむのがロマンじゃ。

 ってじいちゃんも言ってたし。

 

「なあミント。そう言えば水かけ合戦で勝者した方に、抱擁してくれるんだったよな?」

「ふえっ!? あ、あれはクルルが勝手に言いだしただけで……」


 ミントが顔を真っ赤にしてうつむく。

 

「あはは! ミントお姉ちゃん! ヒューゴおじちゃんにぎゅーってしてあげなきゃダメだよー!」

「ちょっとクルル!」

「ミントさん。ここでぎゅーってして欲しいんだ」

「えっ? ここで? そんな恥ずかしいです」

「あはは! じゃあミントお姉ちゃんはどこでぎゅーってするつもりだったのぉ? もしかして暗がりで二人きりになって、とか?」

「こらっ! クルル! もう……。仕方ないです。分かりました」


 恐る恐る近づいてきたミントに対し、俺は両手を広げて迎え入れる。

 そして彼女は震える手を俺の背中に回した。

 ふわっとしたいい匂いが鼻をつき、柔らかな感触が全身を包み込む。

 俺も彼女の背中に手を回し、ちょっとだけ力を入れた。

 

「んあ……」


 ミントの甘い声が耳をくすぐった。彼女の胸の鼓動が高鳴っているのが、くっついた体から伝わってくる。ふさふさな尻尾がゆるやかに揺れていた。

 ……と、その時だった。

 

「おのれぇぇ。ヒューゴォォ。わらわという者がありながら、他のおなごにうつつを抜かしおってぇぇ」


 おどろおどろしいリリアーヌの声が聞こえてきたのだ。

 よしっ! 想定通りだ!

 俺はさっとミントから離れるとリリアーヌに対峙した。

 彼女の目は赤く光り、黒の炎を身にまとっている。

 

『リリニャンとの戦いです。相当お怒りですので、瞬殺にはお気をつけください』


 その通りだな。もちろん躊躇している暇なんてない。

 俺は大声で魔法を唱えた。

 

「トキドキワーーープ‼」


 唱えた瞬間から視界がぐにゃりと曲りはじめた。

 おお! これがワープか!

 バーシブットは空中に飛ばされたが、ワープは空間移動のようだ。

 

「じゃあ、みんな! しばらくの間、さらばだ!」


 ……が、想定外のことが起こったのだ。

 

「な、なんじゃ!? 視界が歪んでおるぞ!」

「め、目が回るよぉー!」

「あわわ。ひゅ、ヒューゴさん、これはどういうことでしょうか」


 なんとリリアーヌたちの視界も歪みはじめているというではないか!

 ということはみんなでワープするということなのか!?

 にわかに混乱しているうちに視界が真っ白になり、意識が遠のいていった。

 

 ――アナになんて説明しようか?

 

 だがもう一つ想定外なことが起こるなんて……。

 思いもよらなかったのである。

 



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