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第12話 吸い寄せられる唇に身を任せて……

◇◇


 水の問題が解決したことでミントの負担が大きく減った。

 さらに言えば、それまで彼女から感じられた『心の壁』も取り除かれたようだ。

 だが解決すべき問題は、まだ残されている。

 それは……。

 

「ヒューゴ。今宵こそはわらわと『子作り』をしよう!」


 夜な夜な部屋にリリアーヌが忍び込んでくることだ。

 今夜もまた同じだった。

 だが当然俺にその気はない。

 

 『超魔王リリアーヌとの戦いです。元気な赤ちゃんが楽しみです』


 だからライブラリーはどっちの味方なんだっつーの。

 まあ、いい。

 とにかく『戦闘』であることが分かればこっちのものだ。

 

「スキル! 『ダンダン・スリーピー』!」


 俺がモチモチオハダ王国の王になった時に『ボーナススキル』としてゲットしたものだ。

 相手を確実に眠りにいざなうことができるという究極の睡眠魔法。だから一度の戦闘で1回しか使えないし、相手も1人に限られる。

 そして『効果が現れるまでの時間』は完全にランダム。

 つまり『だんだん眠くなる』ということ。

 長ければ1日、短ければ3秒で、平均すれば半日かかる。

 言うまでもないが1回の戦闘で半日も費やすことはありえないので、普通はゴミスキルと言える。

 だが俺の場合は違う。

 

「くっ! ヒューゴ、汚いぞ! それをやられたらぁ……。むにゃむにゃ」


 運の良さがチートなので常に3秒で効く。

 

「すぴー……。すぴー……」


 リリアーヌはぐっすり眠った。

 ふぅ。これで今夜も平和な夜を過ごせそうだ。

 ふと彼女に目が移る。

 

「こうして寝顔だけ見れば普通の女の子なんだよな」


 だが、もし俺の『セクシーポーズ』の効果がなかったら、彼女は今でも好き勝手やっていたに違いない。

 多くの人間を苦しめて、世界を恐怖と混とんに陥れていたかもしれない。

 

「とてもそんなことをするようには見えないんだよな」


 現にぶーぶー言いながらも、ミントやクルルとは仲良くしている。

 特にクルルからはなつかれていて、彼女もまたまんざらでもないようだ。


 ――わらわとヒューゴの間にもクルルのような女の子が欲しいのう。


 なんて言ってたこともあったけ。


「俺たちの子か……。ありえないよな」


 ではなぜ彼女は平和を脅かしたいのか。


 超魔王としての使命だから?

 もっと他の理由が?

 

 俺には分からない。

 けど理由なんて知る必要はないのかもしれない。

 こうして世界の果ての孤島で静かに暮らしていれば、彼女が暴走することはないのだから。

 

「それにしても気持ちよさそうだ」


 口を半開きにしながら寝息をたてている。

 形の良い胸が呼吸のたびに上下動いていた。

 

「ん?」


 下唇の右下に小さなほくろがあるのを見つけた。

 すると自分でも不思議なことが起こり始めたのだ。

 なんと自然と顔が彼女に近づいていくではないか。

 

 ――ほくろをもっと近くで見たいからだよな。

 

 そんな言い訳を自分に言い聞かせるのが精いっぱいだった。

 まるで吸い寄せられるように彼女の唇に俺の唇は接近していった。

 あと小指の先一つ分の距離……。

 

「ヒューゴさん?」

「のあああああっ!」


 背後からかけられた声に俺は飛びのいた。

 ミントがすまなそうにうつむいている。

 ちなみに彼女には、

 

 ――リリニャンは不眠症でね。俺が催眠術をかけてやらないと寝れないんだ。

 

 という適当な言い訳をして、眠ったリリアーヌを部屋まで運ぶ役目をお願いしている。

 超魔王とはいえ女の子の部屋に入るのは気が引けるからな。

 そして俺が声をかけたら部屋の中に入ってきてくれと頼んでいたのだ。

 

「ご、ごめんなさい! あまりに静かだったから心配になってしまって……」

「い、いや、いいんだ。ちょうど今、寝たところだ」

「今の声で起こしてしまったでしょうか?」

「問題ない。耳元で叫んでも起きないから大丈夫だ」


 ライブラリーに確認しているから間違いないはずだ。

 次の朝がくるまでは、何があっても起きない。

 

「じゃ、じゃあ、いつも通りに運んでくれるかい?」

「は、はい」


 リリアーヌを軽々と担いだミント。

 ところが彼女はすぐに部屋を出ていこうとしなかった。

 

「……あ、あのぉ……」

 

 何か言いづらそうにもじもじしている。


「ん? どうした? 言いたいことがあるならはっきり言ってかまわないよ」


 そう背中を押すと、彼女は消え入りそうな声で問いかけてきたのだった。

 

「ヒューゴさんとリリニャンさんは、あの……その……。こ、こ、恋人同士なんですか?」

「は?」


 思わず固まってしまった俺に対し、彼女は真剣な表情で続けたのだった。


「だって今もキスしようとしてたじゃないですか!」

「ま、待て。あれはキスじゃない。ちゃ、ちゃんと眠ったか確かめただけだ」


 口から出まかせを言う。だが彼女の追及の手は休まらない。

 

「それにいつも一緒にいるし」

「彼女が勝手についてきているだけだ」

「……ヒューゴさんはリリニャンさんに優しいし」

「だから誤解だって。俺と彼女は単なるパーティーだ」

「ふーん。怪しいです」


 むくれるミントを見て、一つの疑問が浮かぶ。

 

「どうしてそんなことを聞くんだ?」

「え? そ、それは……」


 明らかにミントの顔が真っ赤になったのが、暗がりでもよく分かった。

 そこで俺は気づいたんだ。

 彼女の気持ちに――。

 

「わ、私は……」


 胸の鼓動がこっちまで聞こえてきそうなくらいに彼女は緊張している。

 大きな瞳が潤んできた。

 二人で見つめあっているうちに、今度はミントのふっくらした唇に吸い込まれそうになっている自分に気づいた。


「ミントさん……」

「ヒューゴさん、私……」


 徐々に近づく二人の距離。

 そっとミントが目を閉じた。

 そして彼女の唇が俺の唇に触れようとした時……。

 

「ミントお姉ちゃぁん。遅いよぉ……」


 クルルの声が聞こえてきたのである。

 クルルとミントは一緒の部屋で寝ている。

 ミントが部屋に帰ってくるのが遅かったため、怖くなってここまでやってきたのだろう。

 俺たちは慌てて離れた。

 

「ご、ごめんね! クルル! リリニャンさんを部屋まで運んだら戻るから! 部屋で待ってて!」


 リリアーヌを背負ったミントが足早に立ち去っていく。


「おやすみ、ヒューゴおじちゃん」

「おやすみ、クルル。足元に気を付けるんだぞ」

「はぁい」


 クルルが眠い目をこすりながら部屋へと戻っていったことで、俺は一人になったのだった。

 

「ふぅ……」


 ドサッとベッドに身を預ける。

 今夜は色々と危なかった……。


 未だにリリアーヌの唇に吸い寄せられた理由は分からない。きっと眠る間際に彼女が変な魔法をかけたんだろうな。

 でなければ超魔王にキスしようとするなんてありえない。


 でもミントはどうか。

 いくら鈍い俺でも今夜のことで彼女の好意に気づかされた。

 確かに彼女はすごく魅力的だ。

 でも俺には……。

 

「アナ……」


 まぶたを閉じると、幼い頃の幼馴染の姿が浮かぶ。

 

 ――もし俺が王様になったらアナは俺の国で暮らすんだ!

 ――俺のお嫁さんになるんだから!

 

 一刻も早くあの時の誓いを俺は果たせねばならない。

 なぜならこのままだと俺は……。


「よし! アナを迎えにいこう!」


 そう決意して深い眠りについたのだった――。



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