第11話 『水道』を作ろう!②
◇◇
石の甕を王宮に置いた後、サラサラ川に戻ってきた俺たち。
「ククク。ヒューゴよ。わらわに勝負を挑もうなど1000年早いわ」
リリアーヌが余裕の笑みを浮かべて挑発してくる。
そりゃそうだろうな。
水で龍を作れるんだから。
だが俺には秘策がある。
「さあ? やってみないと分からないぜ」
俺の右手にはクルルから借り受けたおもちゃの水鉄砲。
これでリリアーヌと戦うことにしたのだ。
「あはは! ルールは簡単だよー! いっぱい濡れた方が負け! 勝った方をミントお姉ちゃんがぎゅーって抱きしめてくれるんだって!」
「ちょっと! クルル! そんなの聞いてない!」
ミントのぎゅーか……。
あの幸せな感触をまた味わえるなんて……。
「おい、ヒューゴ。何をにやけておる?」
「べ、別ににやけてないし!」
「許さぬ……」
――ゴオオオオ。
リリアーヌが漆黒の炎に包まれ、水柱が高々と上がった。
この勝負の前までなら恐怖を感じていただろうが今は違う。
むしろもっと怒って欲しい。
そこで俺は水鉄砲をミントに向けて放った。
――ビュッ!
「きゃっ! ヒューゴさん!?」
再び彼女のシャツが透ける。
それを目にしたリリアーヌが怒りを爆発させた。
「ヒューゴォォォ! わらわをそんなに怒らせたいかぁぁ!」
――ズバアアア!
水柱が龍に変化した。
『リリアーヌとの戦いの開始です。ただし水でしか攻撃できませんのでご注意ください』
ついに戦闘の始まりだ。
俺は水鉄砲を両手で握りスキルを使った。
「ビック・オア・スモール! あの龍をぶっ倒すくらいにでかい水鉄砲になってくれ!」
「フハハハハハ! そのおもちゃでわらわのドラゴンを倒そうというのか!」
「ああ、その通りだ。だがそのためには準備が必要なんだ。ちょっとだけ待ってくれないか?」
「ふん! よかろう。まあ、何をやっても無駄だがな」
「そんなのやってみなきゃ分からないって言ってるだろ」
そうだ。
何事もやってみなきゃ分からないんだ。
それでも俺は信じている。
自分の力とスキルを。
クルクルプンでモンスターの大群を倒した時も、セクシーポーズでリリアーヌを仲間にした時も。
すべてゴミだったはずのスキルが俺を助けてくれたんだ。
しかも今回は俺だけを助けるためじゃない。
今まで辛い思いをしてきた女の子……ミントを助けるためなんだ。
だから絶対に成功する!
成功させて見せる!
頼んだぜ! 俺の『運の良さ』よ!
――ピカッ!
水鉄砲がまばゆい光に包まれる。
「なに!?」
さしもの超魔王リリアーヌと言えども、驚きをあらわにしている。
無理もない。
なぜなら手のひらサイズだったおもちゃがみるみるうちに巨大化していったのだから。
太さは巨木の切り株ようで、長さは俺の背丈と同じくらい。
サブンと川の中に入れて水を筒の中に注入していく。
その様子にリリアーヌがニタリと笑みを浮かべた。
「ククク。ヒューゴよ。そんなでかい水鉄砲の中に水を入れたら、お主のような貧弱な者では持ち上げることができまい」
確かにその通りだ。
水鉄砲の重量は変わらない。しかし水が入ればその分重くなるのは当然だ。
だがそれはあくまでスキルを一つしか使わなかった場合のこと。
つまりもう一つのスキルを使えばいいということだ!
「ヘビー・オア・ライト!! 水鉄砲よ! 軽くなれ!」
再び光に包まれる水鉄砲。
両手に感じられていた重みがなくなっていく。
「よし! これなら運べる!」
巨大な水鉄砲を川から取り上げる。
河原に転がっていた石や岩を使って川べりに固定し、噴射口をリリアーヌに定めた。
それは『水鉄砲』というよりは『水キャノン』と表現するにふさわしい威容だった。
「さあ、これで勝負だ。リリアーヌ!」
「ククク。大きくなったところで所詮はおもちゃにすぎぬわ! くらえ!」
――ズバアアアン!!
水の龍が大きな口を開けて俺に向かって突撃を開始した。
「うりゃあああ!」
俺は思いっきりレバー押し出す。
――ブシュゥゥゥ!
勢いよく噴き出した水が、まるでビームのように龍へ向かっていった。
――バシャアアアア‼
派手な音を立ててぶつかったかと思うと、水鉄砲から放たれた水のビームが龍の頭を貫いた。
「な、なにっ!?」
龍の勢いは止まり、水のビームは一直線にリリアーヌに向かっていく。
そして……。
――ドシャアアアアッ!
リリアーヌに直撃した。
「そんなバカな……」
紫のドレスと黒髪をびしょ濡れにして、茫然と立ち尽くしているリリアーヌ。
一方の俺はほぼ濡れていない。
勝負の結果は誰が見ても明らかだった。
「あはは! ヒューゴおじちゃんの勝ちぃ!」
ぴょんぴょんと俺の回りをクルルが跳ねる。
ミントも嬉しそうな笑顔を浮かべて拍手していた。
「ぐぬぬ。わらわは認めんぞ! わらわが情けをかけなければ、そのような巨大な水鉄砲は作れなかったではないか!」
リリアーヌは悔しそうにしている。
俺は小さく笑みを作って、川からあがってこようとする彼女に手を差し伸べたのだった。
「ああ、その通りだ。全部リリアーヌのおかげさ。ありがとな」
彼女が眉をひそめる。
「むっ? なぜ礼を言われなくちゃならないのじゃ?」
彼女の右手をぎゅっとつかんだ俺は、力強い口調で答えた。
「これで『水道』を作れるからだ!」
「水道?」
「ああ、水の道を作る」
「どこに?」
リリアーヌの問いかけに、俺は空を指さした。
そして高らかと告げたのだった。
「空だ!! 空に水道を作る!!」
◇◇
本物の水道を作るのは無理だ。
ならば空に『水の道』を作る――。
つまり巨大な水鉄砲で川の水を王宮まで飛ばすことを思いついたのだ。
水が切れるたびに川までやってくる必要はあるが、それでも巨大な甕を担ぐ必要はない。
ミントの細い体にかかる負担は大きく軽減されるのは間違いない。
しかしはるか彼方まで水を飛ばせるほどに強力でなくてはならない。
そこで超魔王リリアーヌに勝負を挑んだというわけだ。
――彼女の作る水の龍に負けない水鉄砲が作れれば、きっと空に『水道』を作れるはず
その目論見は見事に当たった。
川べりに固定した超巨大な水鉄砲から放たれる水のビームは王宮まで届くことが分かった。
でも大変だったのはこれからだったんだよな……。
――ヒューゴ! 水が全然違うところに行ってしまっておるぞ!
そう。石の甕が置かれた王宮の中庭に狙いを定めるのが難しかったのだ。
しかも角度をつけるすぎると水が広い範囲に散らばってしまうことも分かった。
そこで俺は王宮とサラサラ川の間を何度も行ったりきたりして実験を繰り返したのである。
だが一度も成功することなく数日たった。
そしてついに甕の水がなくなってしまったのだった。
◇◇
俺たちはサラサラ川へやってきた。
甕は王宮に置いてある。
つまり成功させることに賭けたわけだ。
「ねえねえ! クルルがやっていい?」
巨大な水鉄砲を前にしてクルルが目を輝かせた。
「ああ、頼むよ」
「わーい!」
既に水鉄砲は水でいっぱいにしてある。
あとはレバーを押し出すだけ。
「ねえねえ! ミントお姉ちゃんも一緒にやろう!」
「え? 私も?」
「うん! こっちきて!」
クルルに手を引っ張られたミントが困った顔をして俺に視線を送ってきた。
俺が笑みを浮かべて小さくうなずくと、ミントもまたうなずいた。
「いっせーの、せっ、で押すんだよ!」
「う、うん!」
左側にミント。右側にクルルが立つ。
俺とリリアーヌは少し離れたところで、彼女たちの背中を見つめていた。
果たしてうまくいくのか――。
祈るような気持ちで拳を握りしめる。
すると耳元でリリアーヌが意外な言葉をささやいてきたのだった。
「努力は嘘をつかぬ。人間と違ってな」
目を丸くして彼女を見た。リリアーヌも俺に視線を送ってくる。
その瞳は世界を恐怖に陥れる超魔王とは思えないくらいに優しさに満ち溢れていた。
「いっせーの! せっ!」
クルルの掛け声と同時に勢いよく水が飛び出す。
――ブシュゥゥゥ!
「いっけえええええ!」
クルルの大声に応えるように、水の道は美しい放物線を描きながら王宮へ向かっていった。
「方向はばっちりだ。あとは距離だな」
ここからでは成功したかどうか分からない。
だから俺たちは戻ることにした。
そして王宮で俺たちを待っていたのは……。
「わあああ! 大成功だよー!」
水がいっぱいに入った石の甕だった。
さらに。
「ねえ、見て!」
水が通ったあとの空には、虹が七色に輝いていたんだ――。
『おめでとうございます。モチモチオハダ王国のレベルがアップしました』
『レベルアップボーナスとしてトキドキワープのスキルを手に入れました』
【モチモチオハダ王国】
国レベル:3(↑2UP!)
人口:4人
収穫力:5
防衛力:1
技術力:1
交易力:0
観光力:12(↑2UP!)
鉱山:0
国の規模:極小
水道:〇(×→〇)
電気:×
鍛冶:×
特徴:
・超魔王が領民として住んでいる
・空飛ぶ水道が見られる(←New!)