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紅の挽歌 ~佐久間警部への遺書~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
九条大河の思惑
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予期せぬ一報(2024年編集)

 ~ 東京都 警視庁捜査一課 ~


 九条大河の捜査を開始して、既に、一ヶ月が経過している。


 犯行声明に感化され、当初は、殺気だって捜査を開始した、捜査一課だったが、未だに、聞こえぬ凶行に、佐久間は、捜査規模を縮小すべきかを、安藤と議論していた。


「佐久間警部、犯行声明が来てから、もう一ヶ月だ。他の捜査も山積みだし、捜査員を他の強行犯に、回したいんだが。……警察庁(うえ)からも、『警視庁捜査一課は、何をしている?』と、圧力が掛かり始めてな。昨日の合同(身内)会議でも、『一課は、遊んでいるのではないか?』と、指摘されたよ。警視総監(布施さん)は、事情を知っているから、何も言わなかったが」


(………)


「やむを得ないでしょう。確かに、捜査員たちの緊張感が、薄れてきたのも事実です。捜査員の中には、『佐久間に踊らされた』と、舌打ちする者もいるでしょう。何より、私自身が、『あれっ、おかしいな?』と、思うくらいですから。ただ、私が、九条大河の立場なら、このタイミングで、事を仕掛けますが」


(…一理ある。……あるが)


「緊張が解けたタイミングか。言わんとしている事は、分かる。だが、九条大河は、既に死んでいる。どうやって、犯行を起こすと言うのかね?予告タイマーが、ある訳でもなかろう」


 安藤の反論に、佐久間も同意見だ。


「課長の仰る通りです。九条大河は、死んでおり、警察組織(我々)の動きを察知出来ません。でも、九条大河の遺志を引き継いだ、共犯者がいるのかもしれません」


(…共犯者か)


 その時であった。


 一本の電話が、総務課経由で、佐久間宛に入ったのである。


「佐久間警部、北海道警察本部の浦河警察署より、電話が入ってます。二番に、お願いします」


(北海道?)


 思わず、安藤と顔を合わせた。


 北海道警察本部とは、現在、捜査提携はしていない。安藤も、『早く出ろ』と促す。


「もしもし、捜査一課、佐久間ですが」


「あっ、佐久間警部ですか?私は、北海道警察本部、浦河警察署の楠木と申します。実はですね、本日未明に、管内の襟裳岬で、水死体が上がりました。崖から落ちた形跡があり、鑑識官の話では、遺体の損傷から、発生時刻は、昨日の夕方ぐらいとの、見方をしております」


(………?)


「話が、見えなくて、申し訳ありませんが、道内の事件で、何故、警視庁捜査一課(こちら)に?」


「ああ、すみません、話が見えませんよね?所持品を調べたところ、財布から、佐久間警部宛の連絡先が、入ってたんですよ。金銭は、濡れていましたが、連絡先だけは、パウチされて、防水処理がしてあります。パウチって、ご存じですか?」


(………)


「確か、透明なフィルムみたいなもので、印刷物を、全体で覆うものでしたか?」


「そうそう、正に、それです。浦河警察署(我々)も、『何故、警視庁の、警部宛の連絡先を、所持しているのか?』って、話題になりましてね。警視庁で、追っている事件(ヤマ)かと、思いまして、取り急ぎ、電話したんですよ」


(まだ、話が少し見えないが。…もしかして)


「それは、助かります。えーと、被害者(ホトケ)の身元は、分かりますか?」


「ちょっと待ってください。…免許証を読み上げます。被害者は、加納謙一、四十八歳。住所は、東京都杉並区二丁目です。警視庁(そちら)で、身元照会をお願いします」


 安藤が、佐久間に、何かを伝えようとしている。


(------!)


「もしもし、すみません。少々、お待ちを」


北海道警察本部(道警)は、何だと?」


「襟裳岬の、崖から落ちた、水死体の所持品に、私宛の連絡先があったそうです」


(------!)


「これが、九条大河の言っていた事じゃないのか?日本のどこかで、一人目が死んで、佐久間警部宛に、連絡が入る。崖から落ちた、というのも気になる」


(……課長も、同意見か)


「私宛の、連絡先というのが、妙ですね。念のため、現地確認しましょう」


 佐久間は、カレンダーを見ながら、回答した。


「情報感謝します。人物照会を掛けますが、明日にでも、浦河警察署(そちら)に伺って、詳しく聞かせて頂けますか?警視庁捜査一課(こちら)事件(ヤマ)で、該当するかもしれません」


「それは、助かります。では、明日の何時頃、浦河警察署(こちら)に?」


「襟裳岬ですよね。遠そうなので、早めに、向かおうと思います。夕方には、着けるかと」


「私は、何度か、警察庁に行った事があります。最短でも、七時間程度は、掛かったと思います。最寄りの、様似バス停から襟裳岬まで、JR北海道バスで、約一時間くらい掛かるんですが、様似で足止めを食らいますから、時刻表を便りに来るのでしたら、乗り換えが時間が、合わないので、一日半掛かってしまいます。様似まで来たら、連絡をください。署の人間が、迎えに行くよう手配します」


「ありがとうございます。では、明日」


 電話を切ると、山川が、嬉しそうに駆け付ける。


「警部、私も、同行します」


「うん、よろしく頼むよ。課長、そういう訳で、山さんと行ってきます」


 安藤の、表情が硬い。


「その水死体は、いつ頃、発見されたんだ?」


「発見自体は、本日未明ですが、鑑識官の話では、昨日の夕刻頃に、転落したようだと。詩の一節にも、該当するかと」


(…蒼い時間に、君は、崖から落ちるだろう。…か)


「九条大河の予告通り、一小節目は、遂行されたという訳だ。一体、死人が、どうやって?佐久間警部の推理通り、共犯者がいるという事か?」


 安藤は、下唇を巻き込んで、噛むような仕草を見せる。


「出張を許可する、存分に行ってこい。山川、佐久間警部の助力(サポート)をしっかりと、務めろ。ただし、横柄な態度は、厳禁だ。北海道警察本部(道警)に、絶対に、迷惑を掛けるな。被害者の照会作業は、日下たち(こちら)で、進めておく」


 安藤は、『山川が同行する』と分かった瞬間、山川の粗暴が、佐久間に迷惑を掛けないかと、一瞬迷った。


 佐久間が、一緒に頭を下げる。


「山さんなら、大丈夫ですよ。道案内も、バッチリですし。照会の方は、お願いします」


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