九条大河の手紙(2024年編集)
~ 警視庁捜査一課 応接室 ~
九条大河から依頼を受けた、尾形弁護士が、佐久間に手渡したのは、角3封筒であった。封を開けると、中には、長3横封筒があり、更に開けると、中身の手紙が入っている。
(………)
(………)
九条大河にも、弁護士にも、興味のない山川が、口を挟んだ。
「何なのでしょうか?随分と、手の込んだやり方ですな?この手紙を、何故、弁護士が手渡しを?郵送で、済ませれば、良いのに」
「まあまあ、山さん。批判は、中身を読んでからでも、遅くはないよ。では、読み上げるよ」
『 親愛なる、佐久間警部さま
私は、九条大河。本名は、川上真澄。三十九歳、独身よ、驚いたかしら?
この手紙が、あなたの元へ届き、あなたが読む頃には、もう、私は、いない。
きっと私は、捜査一課の天井から、この風景を、覗いている事でしょう。
美人薄命とは、誰が言ったのかしら?
あなたは、知らないと思うけれど、私は、あなたをよく知っている。
私の作品には、あなたをイメージして、書いた作品が、幾つか、存在するわ。
あなたが、まだ若かりし頃、特命捜査対策室の捜査員として、未解決事件の
継続捜査で、下山刑事と、コンビを組んでいた事や、科捜研の氏原と、薬物
の謎を解き明かす事件を、モチーフにした。ストーカーに、間違われる位、
あなたの活躍を、見届けたつもりよ。
何故、九条大河が、ここまで、あなたに固執するのかって?
端的に言うと、あなたに、九条大河を捕まえて欲しいの。
正確には、九条大河の、最期のミステリーが、業界随一であると、私が認めた、
佐久間警部に通じるか、力比べがしたくなったの。
藪から棒にと、あなたは、思う事でしょう。
私には、残りの寿命が見えた時、心の葛藤に気が付いた。
そして、心の葛藤が、あなたと勝負せよと、訴えた。
私は、この作品を、未完のまま、敢えて、この世を去ります。
あなたとの勝負結果が出て、完結するように、最終章を空けておいたの。
きっと、あなたは、物語のラストを、誰よりも、感慨深く紡いでくれる。
何人か、犠牲者が出るけれど、あなたが、途中で、この物語を終わらせたら、
あなたの勝ちです。最期の時まで、私の思惑通りに、事が運べば、私の勝ち。
どちらに転んでも、結果は、知り合いが把握出来るように、手を打ったので、
安心して、謎を解いてください。
ところで、私の作品は、何作品を、お読みになっているのかしら?
わたしのシリーズは、全部で、四十八作品、存在しているわ。
これが、謎を解くうえでの、大ヒント。
この後に、出てくる詩を解き明かし、私の犯行を、止めてみなさい。
私のイメージでは、一ヶ月から二ヶ月周期で、人が死ぬ。
時間差を設定したのは、私の作品を読む、猶予期間をあげるため。
これなら、公平で、あなたも、捜査に集中出来るでしょう?
これだけは、きちんと、言わせてちょうだい。
九条大河は、決して、愉快犯ではありません。
警察は、事件が起きないと、捜査が出来ないでしょうから、近日中に、
日本のどこかで、一人目が死んで、あなた宛に、連絡が入りますわ。
九条大河の生涯、最期として、最高のミステリーを、世に放ちます。
どうか、全身全霊を掛けた、ミステリーの謎を解き明かしてください。
あなたには、その力が、唯一備わっていると、私は信じてます。
親愛なる、佐久間警部さま
どうか、この作品を、あなたの主観で、後世に、語り繋いでいってください。
あの世で、あなたをお待ちしています。
佐久間警部の事を、誰よりも、こよなく愛す、九条大河より 』