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紅の挽歌 ~佐久間警部への遺書~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
佐久間の罠
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新しい明日(2024年編集)

 全国を舞台とした、連続殺人事件から、半年が経過した。


 九条大河こと、川上真澄は、世間には、事実を公表せず、実名のまま、心機一転、ミステリー作品を手掛けていく事になった。


 川上真澄は、柴田が所属する大有出版と、専属契約を結び、新たな道を踏み出した。


 柴田も、川上真澄と同じく、法廷で情状酌量が認められ、二年三ヶ月の執行猶予がついた。佐久間をはじめ、警視庁と愛知県警察本部が、連名で、庇った事が大きかった。


 二つの国家機関が庇うなど、前代未聞であり、報道陣の反響が大きかったが、異例の箝口令が敷かれ、川上真澄の未来を期待する報道陣は、どの局も、公表に踏み切らなかった。検察側も、控訴する事は、避けるべきだと判断し、最短で結審されたのである。


 佐久間は、愛知県警察本部に、警視総監からの円満解決の謝辞を届け、その足で、久しぶりに豊田市を訪れると、縁側で、和尚と茶を楽しんだ。



『 紅の夕陽が、再び昇るとき

  新たな夜明けとなるだろう 』



「和尚、九条大河の詩は、本当に素晴らしいですね。本当に、その通りになりました」


「お前さんの、お陰じゃて。お前さんの助けがなかったら、儂らは、地獄を彷徨ったじゃろう。今日は、ちょうど真澄も、婿殿も、顔を出す。会ってやってくれ、きっと喜ぶぞ」


「そうですか、それは、楽しみです。お言葉に、甘えようと思います」



 ~ 約一時間後。豊田市大樹寺 ~


「佐久間警部!…心から、会いたかった!」


(------!)


 川上真澄のお腹が、幸せを告げる。それを知った佐久間は、表情を緩ませて、手を握った。


「本当におめでとう、よかったですね!」


 柴田も、嬉しそうに、会釈する。


「佐久間警部、お久しぶりです。ありがとうございます!」


 川上真澄は、佐久間に、吉報を告げる。


「加藤さんは、あれから、憑き物が取れたように、仕事を頑張っていると、主人と私宛に、手紙を貰いました。中林さんと、元気でやっているそうです。何でも、社長肝いりで、新しい部署を、立ち上げたみたいで、部下の為にも、上と戦い、下を背中で引っ張って行く、佐久間警部の様な、リーダーになりたいと、書かれていたから、主人と二人で、喜んでいます」


「加藤さんとは、完全に和解したんです。同じ女性を愛した仲間として、これからも、隔たり無く付き合っていくつもりなんです。真澄にも、言い聞かせました。『君は、浮気じゃなく、二人の男を、同時に愛してしまっただけ』だとね」


「心の枷が、その一言で取れました。だから、生涯、主人一筋ですわ」


「丸く収まって、嬉しい事が続くのは、幸せです」


(………)


 川上真澄が、ほんの少し、表情を曇らせる。それを柴田は、見逃さず、そっと支えた。


「…佐久間警部。私、時々、まだ悪夢を見ます。作品のせいで、犠牲になった人達を考えると」


(………)


「確かに、悲しい事件でした。彼らの分まで、今度こそ、道を踏み外す事なく、お子さんと、懸命に生きてください。それが、供養となるでしょう。…あなたは、幸せになって良いんです。ねっ、和尚?」


「その通りじゃ。翔子も、それを望んでおる」


「……うん。ありがとう、父さん。それに、佐久間警部」


 佐久間は、満面の笑みを浮かべた。


「人は、誰もが、自分だけの人生を、自分でしか出来ない、やり方で、物語を作っていきます。過去は変えられないし、未来も分かりません。でも、人生の分岐点では、誰もが悩み、周りの意見を聞いたとしても、決めていくのは、自分でしかありません。間違ったと気が付いても、受け入れるしかない。だから人は、その刹那を、必死に生きるんです。まだ見ぬ明日を、楽しむ為にね」



『 紅の挽歌 』



 一人の天才小説家が、世に放った、未完の大作ミステリー。


 謎を解く側も、謎を放った作家も、過去のしがらみ・運命に、縛られた作品だった。


 非道な者の手によって、血塗られた事件へと発展したが、天才作家の、締めの詩の通り、関係者の総力を挙げて、明日の扉を開き、人の絆を取り戻せた、不朽の名作となった。


 この物語は、生涯、関係者の中で生き続けていくだろう。


 佐久間は、この事件を通じて、人の縁とは、実に不思議で、代え難いものだと、痛感した。


 川上真澄の、無邪気な笑顔に、安堵した佐久間は、より縁が深くなった、大樹寺の空を見つめ、明日の平和を、切に祈った。


 見上げた空は、どこまでも澄み渡り、静かに、今日の終わりを告げようとしていた。


 小説を書き始めたのが、昨年の1月。この作品は、確か、昨年の4月でした。


 この作品は、自身初のミステリー作品で、勢いだけで、完結させた思い出があります。


 文字数も50,000文字程度と少なく、事件背景はもちろん、佐久間警部の推理よりも早く、人間があっさりと犠牲になっていき、「佐久間警部、全然ダメじゃん?救えてないじゃん?」とダメだしされた事を覚えています。


 その後、何作品かリリースし、少しずつですが、感情描写や行動心理など、自分なりに表現手法が増えたなと思えたので、再度加筆しようと、決断しました。


 今回、加筆したことで、ボリューム的には前回の倍になり、昔の方が、簡素で面白いと、お叱りを受けるかもしれませんが、自分なりには、納得出来たので、良しとしようかなと考えています。


 続・紅の挽歌もリリースしていますが、正直、この作品とは違い、悲しい展開が待っているので、個人的に削除しようか、真剣に悩む毎日であります。山川、氏原、川上真澄など、登場人物が固定化する一方で今後、新たなジャンルをどう切り開いていくかを、今後煮詰めてから、執筆を開始したいなと思いつつ、頭の片隅に、既にイメージがあるため、もしかしたら、明日にでも、書き始めるかもしれません。


 私の作品は、あくまでも、犯人を追い詰めていく展開ですが、逆の発想で、犯人目線で、犯行当初から逮捕される瞬間まで(犯人が『うわー、もうこれ逃げられない』と観念する心理まで)書いてみたいなとも思っています。


 佐久間警部の子供たちが、時折登場しますが(他の作品ですが)、何十年か経過した後、佐久間警部がどこまで昇格し、子供たちが、どうなっているのかも、考え始めています。警視総監を父に持つ、二人の子供が、昔の佐久間警部を彷彿させる攻め方で、事件を解決する話や、二人で力を合わせ、やっと佐久間警部の力に匹敵する話、姉は警察組織、弟は個人探偵で、ギリギリ、生計を立てつつ、姉が難事件に遭遇した時に、姉が苦労している裏で、佐久間警部並にプロファイリングし、影ながら、姉を助ける話など妄想が膨らみます。


 ですが、それはまだ、佐久間警部を書き終えていないので、もうしばらく経ってから、書き始めると思います。


 長々と、思いつきで、後書きを書いてしまいました。


 この作品は、ある意味、本当に色々な方から読まれており、私にとっても生涯の宝物でございます。前回とは違い、少しだけレベルアップいたしました、この作品をどうか末永く、色々な方に読んで頂きたいと切に祈りつつ、締めさせて頂きます。


 これからも、佐久間警部をよろしくお願いいたします。

                          3月1日 佐久間 元三

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