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紅の挽歌 ~佐久間警部への遺書~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
終焉のとき
25/28

私怨の泉5 自己防衛の先(2024年編集)

 ~ 警視庁 捜査一課 ~


 尾形弁護士事務所で、物的証拠を押さえた捜査一課は、重要な局面を迎えるにあたり、今後の捜査について、念入りに確認している。


「尾形弁護士と、山本弁護士の役割について、おさらいしておこう。真犯人の性格を掴むうえで、大事な事だから、見落とさないよう、注意してくれ」


 佐久間は、ホワイトボードに、新事実を加筆していく。


 ○尾形、山本の役割1

  九条大河からの依頼で、小説を完結させる為、対象者候補を選定

  一堂に会し、情報伝達のブレを無くす

  (全員が、同じ情報を得る目的で、招集した)


 ○尾形、山本の役割2

  未完部分の一部分を見つけた報酬として、対象者全員に、

  一億円払うと、約束した

  対象者が複数の場合、著作権の権利は、一月五日に、

  抽選のうえ、九条大河の死去を発表した、同一会場にて、

  権利授与者を発表すると、全員に約束した


 ○尾形、山本の役割3

  企画に参加する条件として、参加者全員から、監視・盗撮・盗聴の

  同意を得たうえで、探偵を雇い、実行させた

  (合意形成があったと、主張する為のもの)


 ○尾形、山本の役割4

  裏切り者が出た場合の、迅速な報告と対処

  (他の参加者への接近禁止など)

  企画実施中の、対象者に対する、監視・盗撮・盗聴・誘導

  (違反行為の監視)

  企画待機者の、監視・盗撮・盗聴

  担当順番になったら、時期を定めて実施すると、説明していた

  (実際は、説明会直後から、開始していた)


「監視・盗撮・盗聴が、八割以上を締める。これは、何を指すか、分かるか?」


「尾形と山本で、九条大河の為に、舞台を整えた。そう解釈出来ます」


「そうだな、他には、何かあるか?」


「実際の監視や盗撮は、探偵だと思うのですが、彼らが、実行役なのでしょうか?」


「いや、探偵には、大事な任務を与えない。そう考える方が、妥当だろう。幾ら金を積まれても、人殺しなど、請け負わないはずだ」


「だとすれば、尾形と山本が、実行役なのでしょうか?それとも、別人による、単独犯でしょうか?」


「私の予想では、単独犯ではないと思う。これまでの事件で、確たる証拠が、見つかっていない。自分たちの痕跡を、完全に消している点を考えると、用意周到だ。犯行も、おそらく、対象者を追って殺害したのではなく、自分たちの領域に、対象者が来るよう誘い込み、粛清して、直ぐに撤退。これは、単独犯では、かなり難しい。組織的なものに、近いような気がするんだ。逆に、複数と見せかけ、単独なら、相当な手練れだ。ただ、固執した考えは、危険だ。柔軟に考えよう」


「愛知県では、どのような捜査を?」


愛知県警察本部(県警)に、捜査依頼を行う。私が選んだ人選、かつ、少数精鋭で行こうと思う。土地勘も、愛知県警察本部の方が、上だからね。警視庁捜査一課(こちら)は、九条大河のパソコンに、偽情報を流してくれ。加藤康成の動向について、警察組織(我々)が把握する、宿の情報を流すんだ。おそらく、山本が雇った探偵が、偽情報を鵜呑みにして、接触するだろう。その機を逃さず、その場で確保したい。それには、探偵が接触するまでに、加藤の、身柄を押さえるんだ」


「上手く、行くでしょうか?」


「私の予想では、愛知県警察本部(彼ら)が、いち早く、加藤の在りかを、突きとめるはずだ」


「プルプルプルプル」


(内線だ)


 総務課から内線で、至急の連絡が入る。愛知県警察本部が、加藤の所在を掴んだようだ。


(------!)

(------!)

(------!)


 これには、安藤も、脱帽せざるを得ない。


「佐久間警部、何故、所在の把握時期まで、分かったんだ?」


 佐久間は、微笑する。


「同僚の中林から、加藤の手紙を預かった時に、『私怨の泉』の内容を、加藤は、よく理解していて、真犯人の予想に反して、抗う姿勢を感じました。その時点で、加藤の所在を、特定する日を予測したんです。ここまで、ぴったりとは、正直、自分でも驚いていますが。話を少し戻します。犯行の予測をした、加藤は、必然的に、ある行動に出る。一体、何をするだろうか?山さん、どう思う?」


 山川は、左手で、顎先を撫でるように触った。


「…なるべく早く、現地入りして、周辺の地理を把握する」


「まずは、五十点。では、井上、お前はどうだ?」


「長期滞在するので、安宿を探します」


「三十点だな。あと、二十点。分かる者は、いないか?」


(………)

(………)

(………)


 一課内は、途端に、静まりかえった。佐久間は、仕方なく、解説を始めた。


「キーワードは、犯行手法。つまり、加藤が、どのように、殺されるかだ」


(------!)

(------!)

(------!)


「確か、焼死です」


「そう、焼死なのだよ。作品の内容を、知り尽くしている加藤は、直ぐに現地入りし、安宿を探したはずだ。そして、焼死を恐れるあまり、自己防衛を取ると、考えられる」


「自己防衛ですか?」


「日下、お前なら、どう防衛する?」


「…窓を突き破って逃げます」


「気が付いた時、部屋中が、炎に包まれていたら、どうだ?」


「一面、炎の場合は、消火器を探します」


「その通りだよ。おそらく、加藤は、消火器を持ち込む、手を打ったはずだ。でも、宿主からしてみろ。客が、長期滞在するからと、消火器を持ち込んだりしたら、どこから見ても、挙動不審じゃないか。手紙を読んで、加藤の性格を知った私は、直ぐに、愛知県警察本部に依頼したんだ。大樹寺付近の安宿で、不審な行動を取る者がいないか、手当たり次第、聞き込みする事と、消火器を販売している店舗に、意見照会を掛ける様にね。だから、これだけ早く、足がついたのだよ」


 種明かしが終わり、捜査員の溜息が漏れる中、佐久間は、全員に喝を入れる。


「良いか、皆。捜査一課の者なら、先を読め。相手の性格と、行動予測を考えろ。目の前の事象に囚われず、視野を、広く持てるようになれ。そして、全国どこの機関にも、捜査協力を求められるように、横の繋がりを大事にするんだ。我々、公務員は、組織的には内向的で、よそ者に対して頭を下げたり、下に見られるのを、極端に嫌う。だが、そんな安っぽい、自尊心は捨てろ。捜査の為には、地面を這いつくばってでも、(じつ)を取れ。結果は、必ず付いてくる」


「はい、頑張ります!」

「了解です」

「承知しました」


 安藤は、佐久間の檄に、満足している。


(…自分なら、『こう、鼓舞しよう』と思った矢先に、汲み取ってくれる。上司想いの、優しい部下を持った)


「では、行動を振り分けるぞ。私と山さんは、明日から、愛知県警察本部と合同で、加藤の確保に当たる。同時に、罠に掛かった探偵を、速やかに拘束したうえで、事件当日には、真犯人の確保に、全力で臨む。井上班の六名は、山本を使い、加藤と安宿の、偽情報を流してくれ。大樹寺を中心に、真逆の方向を、配信する様、注意してくれ。高田班の八名は、現在拘束中の、弁護士たちを支援してくれ。家族への連絡等、何とかしてくれと、依頼を受けると思うが、暗号を使うかもしれない。直接は、絶対に話させてはならない。課長は、お手数ですが、改めて、愛知県警察本部に、捜査協力をお願いします。また、明日から、我々二人が、十二月二十五日まで、滞在する旨も、お伝えください」


「分かった、捜査規模が、想定よりも、大きくなる場合は、更に手を打ってやる」


「承知しました。皆も困った場合は、課長に指示を仰ぎ、その指示に従え。今回は、合同捜査チームによる、総力戦となるだろう。心して、任務に当たれ。……以上」


 賽が投げられる。


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