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紅の挽歌 ~佐久間警部への遺書~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
変えられぬ結末
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荒野への疾走(2024年編集)

 ~ 十七時四十二分、東京都新宿区 尾形弁護士事務所 ~


 現着した先で、待ち受けていたのは、他ならぬ、群衆だ。繁華街の為、パトカーでも、足止めを食らう。


「それにしても、群衆のマナーは、何とかなりませんかね?パトカーが来ても、知らん振りだ。これでは、近づけませんぞ」


(…報道陣は、まだ、嗅ぎつけていないな。…山さん、どうした?たるんでいるぞ)


 愚痴ばかり言う、山川を車内に残し、佐久間は、さっさと、パトカーを降りると、現場へ急行する。山川も、慌てて、後を追いかけた。


「お疲れさまです!」


 事務所付近では、既に、第二機動捜査隊と鑑識官が、初動捜査で、薬莢を回収しているところだ。


「色々と、すまないね。被害者(ガイシャ)は、やはり、尾形弁護士で、間違いないのか?」


「残念ながら。事件当時、側にいた同僚からも、裏が取れています。事情を簡単に聴取しましたが、警部が来られると聞き、最低限にしておきました」


「うん、助かるよ。…尾形は、どこだ?」


 鑑識官は、建物脇の路地を、指差した。


(…あそこか。弁護士事務所の前だと、聞いていたが)


 佐久間は、弁護士事務所と、被害箇所の位置関係を、一瞥すると、路地に向かった。変わり果てた、尾形の姿が、痛々しい。


 合掌して、詫びた。


(あの情報を流せば、こうなる事は、分かっていたのに、敵の動きが、早すぎた。…本当に、申し訳ない)


 合流した山川と、状況を確認する。山川は、佐久間に、遅れを取った自分に、反省を色を見せるが、佐久間は、何も知らない振りをして、接した。


「山さん、尾形は、この路地に入った瞬間に、背後から撃たれたのだろう。ゴミ箱に、もたれながら、絶命しているから、即死だな」


「犯人は、どの位置から、撃ったのか。検証してみます」


 手袋を装着し、念入りに身体を探るが、目立った外傷は、銃痕だけだ。ブルーシートで、視界を隠すよう指示してから、衣服を剥いだ。


(…背後から、心臓を目掛けて、二発か)


「鑑識官、写真を頼む。刺された、形跡は無し。薬物投与は無いと思うが、念のため、司法解剖を、頼んでくれ。現在進行形の事件(ヤマ)で、事件関係者(マルタイ)の男だった。『最優先で行って欲しいと、佐久間に言われた』と、頼む時に、伝えるんだ」


「承知しました」


「回収した薬莢を、見せてくれないか?」


「少し、お待ちください。呼んできます」


 別の鑑識官が、佐久間に手渡した。


「鑑識官、この薬莢は、どの分類に入る?ピースメーカーか、コルトパイソンか?」


「おそらく、コンバットマグナムか、44マグナムかと。施条痕を、照合しておきます」


(…マグナム系か。S&W製ならば、暴力団関係者だと思ったんだが。違うとなると、少々、厄介だな)


「後で、報告を頼む。側にいた、同僚は、どこにいる?事情聴取したい」


「事務所に、いるはずです」


「山さんは、第二機動捜査隊から、初動捜査を引き継いでくれ。日下と手分けして、他の物的証拠がないか、念入りに洗うんだ。私は、事情聴取に回る」


「分かりました」


 弁護士事務所に入ると、すすり泣く、受付嬢が目に入る。発砲事件の為、顧客たちは、姿を消し、狼狽えた弁護士たちが、ロビーに集合している。佐久間を見た途端、動揺する者、無反応な者、敵視する者、様々だ。


「警視庁捜査一課です。尾形弁護士と一緒だった方、事情を、詳しく伺いたい」


 高級そうな、壁時計の白い柱の下で、項垂れて、座っている男性が、反応した。


「須藤友昭と、言います。何から、お話すれば?」


「まず、犯行に遭った時刻と、どの場所で、どのように狙撃されたか、詳細をお願いします。気が動転しているのは、仕方がありませんが、極力、正確に話してください」


(………)


 須藤は、頭を抱えながらも、可能な限り、思い出そうとしている。裁判では、原告や被告の、様々な局面を闘う弁護士も、実際の犯行現場を、目の当たりにして、苦悶の様子である。


(…苦しくても、思い出すんだ。お前は、弁護士なのだろう?)


 佐久間は、静かに、発言を待った。すると、須藤が、口を開く。


「…犯行時刻は、十七時過ぎだったと思います。正確な、分秒までは、ごめんなさい。十七時を回ったので、休憩しようと、近所の喫茶店に、向かうところでした。事務所を出て、尾形さんは、両手を、ポケットに入れて、歩いていたんです。路地に入ると、銃声が聞こえ、咄嗟に、『ヤバい』と思いました。隣の尾形さんに、『戻りましょう』と、声を掛けたのですが、尾形さんが、崩れ落ちる姿を見たところで、記憶が、吹っ飛びました。スローモーションで、尾形さんの背中から、血が、ブワッと、弾けるというか、吹き出すというか。…それ以上は、怖くて、目を背けました。汚いと、非難を受けるかも、しれないですが、『自分も、同じように、死んでしまう』と思ったら、自分の身を守るのが、精一杯で、尾形さんを、助ける事も、安否を確認する事も、出来ませんでした。その後は、両手で頭を守り、その場に伏せていた。……これが状況です」


(よく頑張った)


 佐久間は、須藤の肩に、手を置いて、労った。


「十分です。あなたの、勇気ある証言で、十二分に、状況整理が出来ました。誰だって、その状況下であれば、自分を守る行動をするでしょう。それが普通です。決して、自分を、卑下しないようにしてください。あなたは、何も間違っていません。ごく普通の対応をして、奇跡的に助かった。それだけで、十分ですよ。ゆっくりと、身体を休めてください」


(------!)


 須藤は、佐久間の言葉で、緊張が解けたのか、はばからず、泣き崩れた。正義感の強い男なのだろう、保身に走った自分に、葛藤していたに、違いない。


「この場にいる、全員に申し上げる。お聞きの通り、須藤さんは、人として、恥じる行動をした訳では、ありません。見えない銃弾に、身を守る事は、当たり前の行動です。どうか、彼を責めたり、卑下する事は無いよう、警視庁としても、お願いします。そして、警察組織(我々)は、犯人の確保に、全力を尽くします」


「あの、尾形さんは、誰かに、恨みを買って、狙撃されたんでしょうか?」


「捜査してみないと、断言出来ません。私怨によるものなのか、愉快犯の犯行なのか、検証していきます」


「こんな事を、刑事さんに、聞くのは、筋違いかもしれないですが、尾形さんは、この弁護士事務所の、代表者でした。明日からの営業は、どうなってしまうんでしょうか?」


「筋違いでは、ありませんよ。明日を心配するのは、当然です。その点は、これから、警視庁内部で議論した上で、早々に、回答します。どちらにせよ、間もなく、報道陣が、大勢押しかけるでしょう。全国のニュースで、中継もされるでしょうから、接客など、当面は出来ません。事務所の経営に関するものは、行政組織が、介入する事は、ありませんが、捜査協力を求めていきますので、新体制が決定次第、捜査一課に、連絡だけお願いします。当面の間は、規制線を継続して、事態の沈静化を図りますので、各自、裏口から、帰宅されるなり、自由に行動頂いて、結構です。この建物は、警視庁で、監視・保全をしておきますので、安心してください」


 一通りの説明を済ませ、正面玄関から外に出ると、初動捜査の引継ぎも、終わったようだ。


「警部、現場引継ぎと、保全指示、完了しました」


「ご苦労だったね、ありがとう。ちょうど、こちらも、終えたところだ。後は、日下に任せよう」


「はい、日下に、伝えてきます」 


 こうして、検分を済ませた佐久間は、いち早く、捜査本部に戻る事にした。


 尾形の仇を、討つのは、当然なのだが、次の犯行を、何としても、阻止しなければならない。



 ~ 警視庁捜査一課 ~


「遅くなりました」


「お疲れだったな、首尾は、どうだった?」


 安藤は、明朝の出張を、控えているにも関わらず、捜査状況を心配し、佐久間の帰りを待っていた。


「見事にやられました。事務所を出て、早々に、強襲されたようです。時間的にも、捜査一課の動きを、見計らって、行動したのだと、確信しました。何者かに、呼び出されたのではなく、たまたま、喫茶店に向かうところを、犯人は、見逃さなかった。尾形は、即死です。使用した拳銃の特定と、司法解剖を、最優先で行うよう、依頼しました」


「拳銃は、何を使用したか、見当はついたのか?」


「コンバットマグナムか、44マグナムかと」


「何だって?」


(課長も、違和感を覚えたか)


「狙撃されたと聞いて、まず、脳裏に浮かんだのが、尾形が、現在、担当している裁判です。仮に、暴力団関係者なら、S&W製だろうと、想定していましたが、的が外れました。愉快犯による、偶発的な犯行か、私怨による犯行なのか。タイミング的には、九条大河に関する、機密情報を、私に話した事で、関係者に消された。この可能性が、一番高いのですが、決めつけは、危険なので、慎重に、精査したいと、考えます」


「次の犯行は、待ってくれないぞ」


「重々、承知しております。尾形が、殺された事で、反省点が、見つかりました」


「反省点?」


「はい。私の中で、尾形は、この事件の、影の重要参考人(キーマン)でした。九条大河の計画を、対象者に伝え、死地に向かわせる、張本人だからです。謎を解くうえで、尾形の素性を暴く事で、九条大河の背後関係を洗い、一網打尽出来るだろうと、高を括る部分が、少なからず、ありました」


(………)


「高を括っていたが、方針変更せざるを得ない、そう言いたいのだな?」


「仰る通りです。重要参考人と思った者が、早々に、トカゲの尻尾切りにされた。この事で、『事件は、序章に過ぎない』と、考えを改めました。当面は、次の犯行を、どう防ぐかを考えます」


(負けず嫌いだな、反省すると言いながら、既に、朧気ながら、次の手が、見えているのだろう)


「出張中、捜査一課の事は、全て任す。……指揮を、頼んだぞ」


「…承知しました、鋭意努力します」


 安藤の帰宅を見送った佐久間は、屋上で、一本目のタバコに火をつけると、思考を巡らせた。


(…次の犯行か。思惑が正しければ、ここで、止められるはずだが)



『崖へと続く荒野では、馬で走るが、

 間に合わず、夢と一緒に折れるだろう』



 一小節目の詩から、『崖』の単語が、続いている。荒野を連想した時に、『オホーツクに消えた女』ではなく、『荒野への疾走』という作品が、『二小節目の本命ではないか』、と感じていたのだ。


 千葉県成田市が舞台である、この作品は、印旛沼と、県立印旛沼公園に面した、とある農家を、題材にしたものであり、平穏な一家を、悲劇が襲う。ある日、一家全員が、一夜で失踪し、何十キロメートルも離れた所で、妻の惨死体だけが、発見されるところから、物語が始まる。物語が進展していく中で、明らかになる犯人と、一家の関係。また、一家の正体も、誰もが予想しなかった、展開を見せる、本格ミステリー仕立てだ。


 広大な印旛沼から、北西方向に進むと、起伏の激しい、吉高の険しい大地と、丈の深い、湿林が存在し、主人公の行く手を阻む。また、印旛沼の北東部、船形干拓では、土手沿いに、馬が走るイメージが、ぴったりである。失踪する一家を捜索しながら、主人公の探偵に、降り注ぐ厄災。一命を賭し、犯人を欺くため、死んだと見せかけて、地下に潜り、車で追えない場所を、馬で疾走しながら、犯人を追い詰めていく場面には、目を見張る。また、時間差トリックを駆使して、一家全員が、別々の場所に監禁され、裁かれていく非情さにも、目を離せない。失踪と、疾走を掛けた洒落っ気も、作者の、作品に賭ける、気質と気概が、大いに伝わり、完成度が高い。詩の表現と作品内容が、あまりにも、一致しているのだ。


(作品は、間違いないはずだ。問題は、時期と対象者だ。尾形が残してくれた情報から、九条大河と、確執があった人物である事は、明白だ。出版元を割り出して、早々に、決着をつけたいが、初版・重版・復刻版の、どの担当者が、該当するかまでは、追えきっていない。想像以上に、敵の動きが早い。…このままでは、ジリ貧だ。何とか、突破口を見つけなくては)


(………)


(………)


 五本目のタバコに、火をつける。


 (かじか)む手に、息をかけ、構想を練っていく。


 明日から、捜査員を何名投入し、捜査指揮をどう執ろうか、迷うところだ。


(分かっているのは、作品内容と、地名だけだ。対象者どころか、どのような、状況に陥るのか、まだ、想像が出来ていない。この状況下で、捜査規模を大きくしても、代償が大きすぎる)


 何より、千葉県警察本部の管轄下でもある。確たる根拠を、提示出来なければ、当然、捜査協力を、得られないどころか、失笑されるだろう。


(推測だけで、千葉県警察本部(県警)が、動くとは、到底思えない。……さて、どうするかな)


 六本目のタバコに、火をつけた。

 

 捜索場所、捜査規模、捜査手法、そして対象者。全ての判断が、佐久間を悩ませていた。



 ~ 一方、その頃、同時刻、千葉県成田市北須賀 ~


「間違いなく、この北須賀に、お宝が、あるはずだ。一億円・著作権・編集長の椅子を、纏めてゲットだぜ。しかし、チョロいよな?九条大河の作品に、俺が関わったのは、この作品だけだし、誰かと、間違えたんじゃねえのか?」


 馬場 (きみお)は、ある中堅出版社の、副編集長である。


 馬場の上席には、定年間近の編集長が、何年も居座り、支部局が少ない為、異動が殆どない。そのせいで、いつまで経っても、万年副編集長として、色褪せた日常を送っていた。


 繰り返す単調な日々。そんなある日、尾形弁護士から、あの呼び出しがあった。


 あの日から、千載一遇の好機に、胸が高鳴り、四月を心待ちしていた。毎日、何度も暦を数え、時が過ぎるのを待った。編集長からの、嫌みにも耐えた。会社を辞めようかとも、考えたが、一億円を手にする迄は、リスクが高い。それに、著作権を手に出来れば、無条件で昇格し、嫌な上司に、仕返しが出来る。それだけを、糧として、踏みとどまったのである。


 渇望した四月に入ると、一秒でも早く、探索を開始したかったが、年度替わりで、編集長から、膨大な量の仕事を振られ、やっとの思いで、それらを処理し、現地入りが、叶ったのである。


 仕事を終えた馬場は、休暇願いを、定時で帰宅した、編集長のデスクに叩きつけ、出版社を後にする。最寄りの、首都高速道路に飛び乗ると、千葉北JCTで、東関東自動車道入りし、ひたすら、成田インターを目指す。成田空港道路から、寺台IC交差点を通過し、土屋交差点に差し掛かると、渋滞を避ける為、裏道の旧道に入った。


(思った通り、この道は、変わっていない)


 裏道の旧道を、成田湯川駅方面に進むと、某有名人の邸宅が、視界に現れる。馬場は、懐かしさを噛みしめながら、邸宅を通り過ぎると、赤坂交差点に、差し掛かった。


(電力会社の鉄塔は、覚えているが、この都市計画道路は、初めて通るな。ここら一帯、区画整理されたのか。それに、ショッピングモールも出来たんだ。昔は、田園風景だったのに、成田市も、立派になったじゃないか)


 昔の、方向感覚を頼りに、都市計画道路を抜けると、見慣れた風景が広がる。印旛沼である。


(------!)


「北須賀だ!!!」


 二十二時を過ぎているが、疲れなど、一瞬で吹き飛んだ。馬場には、成田市北須賀の、土地勘があり、九条大河が隠した、お宝の場所も、想定がついていた。というのも、他言していないが、馬場は幼少期、北須賀地区の隣接、船形地区に住んでいたのだ。高校一年生の時、自分の住む土地が、鉄道事業計画で、用地買収される事になり、相場の倍の値段で、売れた。そして、土地交換で、都内の一等地に、安く、移り住む事が出来たのだ。成金上がりと、言われるのが嫌で、昔から金持ちだったと、自分を偽った事もあった。元々、成田市は自分の庭であり、北須賀地区や船形地区は勿論、八代地区や松崎地区、押畑地区までも、鮮明に覚えている。


 馬場が、慢心するのも、その裏付けが、あるが為である。


「親の財産も、そろそろ、底をつく。だが俺は、自力で、億万長者になるんだ!」


 船形交差点から、成田市道北須賀大竹線を南下すると、甚兵衛機場の水門が、見えてきた。


(やっぱり、思った通り、変わってない。正に、この地は、宿命の地だ。九条大河は、本当に、何にも分かっていない、愚かな女だ。地元なら、小学生だって、知っているぞ。お宝といえば、北須賀。北須賀といえば、お宝。埋蔵金は勿論、不法投棄のゴミも、有名だしな。…まあ、風景が変わったといえば、変わったのかも、しれないな。水門は、昔は、ここまで立派じゃなかったし、側に、鉄道も走っていなかった。だが、俺には、分かる!あの高架橋の、下まで行けば、必ず、例のお宝がある。何せ、あの場所には、昔、埋蔵文化財の調査で、秘宝が眠っていたと、立て札が建ったくらいだ。逆に、あそこを除けば、お宝を隠せるとしたら、吉高大桜の、真下しかない。この場所が外れても、吉高に行けば、良いだけだ)


 人気のない、深夜の堤防を、懐中電灯を照らして進む。三百メートル程、進んだであろうか?以前とは違うが、それらしき、目的の場所に、辿り着く。高まる鼓動を、抑えながら、慎重に、懐中電灯で、辺りを照らす。


(………)


(………)


(------!)


(見つけたぞ!!!)


 少し、朽ち果てているが、立て札は、今も変わらず、ひっそりと建っている。


 その横で、古びた小箱の表面が、うっすらと露出している。


(あからさまだろ?小学生が、悪戯したら、どうするんだ)


 馬場は、心配そうに、小箱を開けてみる。


(------!)


(何も、入ってないぞ。やはり、悪戯されたのだ)


 自棄になり、馬場は、小箱を足元に、恨みを込めて投げつける。小箱は、蓋が外れ、壊れてしまった。だが、壊れた箱の底に、何かがあるようだ。


(ん?これは、……二重底か?)


 恐る恐る、二重底を確認すると、九条大河が書いたと思われる、小説の一部が書かれたメモが、出て来た。


(------!)


 発見の瞬間、全身の血が沸き立ち、髪の毛が、逆立つ。これまでに無い、高揚感が、爪先から駆け巡った。


「人生、勝ち組だ!!!」


 その刹那だった。


(------!)


「ゴキッッ!!」


 眼前の立て札と、高架下の落書きが、直角に曲がる。


 馬場が見た最期の景色は、永遠の闇へと変わる。


 馬場 公、享年、三十歳。


 大いなる野望と、枯渇した夢は、あっけなく、幕を下ろした。


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