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紅の挽歌 ~佐久間警部への遺書~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
戦いの始まり
10/28

見えない影の強襲(2024年編集)

 ~ 東京都 新宿区 ~


 尾形弁護士の事務所を出た途端、背後から感じる、強烈な殺意に、佐久間が気が付いた。山川に、耳打ちした佐久間は、気付かぬ振りをして、様子見する事にした。


「山さん、では、捜査一課に戻ろうか」


「そうですな、戻って、読書でもしましょうかね」


 都営地下鉄に乗車しても、依然として、不穏な気配が続く。


(…警部、確保しますか?)


(…いや、泳がせておこう。敵さんは、尾形弁護士の事務所付近にいたんだ。十中八九、九条大河の、関係者だろう)


(……了解です)


 大手町で下車し、地上に出たところで、気配が消えた。二人は、そのまま、庁舎に入り、捜査一課に戻ってから、尾行の件を議論する。


「警部、警察組織(我々)が尾行されるなど、相手は、相当なもんですな?」


「うん、間違いなく、玄人(プロ)を使ってきたね。弁護士事務所での会話も、盗聴されていたかもしれない。となれば、尾形は、危険な橋を渡って、情報提供してくれた事になる」


 山川は、首を傾げた。


虚言(あれ)がですか?私には、錯乱した尾形が、支離滅裂な事を、言い始めたとしか、理解出来ませんでしたがね」


(山さんには、そう見えたのか。…残念だ)


「山さん、そうではないよ。支離滅裂な事に、聞こえたかもしれないが、あれは、隠語だ。今から、きちんと説明しよう。早速、捜査員を集めてくれ」


 二十分後、主要メンバーが揃った。


「佐久間警部、何かあったんだな?」


「尾形弁護士事務所で、有益な情報を、得ました。全員で、情報共有しましょう」


 佐久間は、ホワイトボードで、新情報を書き足していく。


「尾形弁護士は、九条大河からの依頼で、襟裳岬の被害者、加納謙一に接触して、手紙を渡した事を、認めました。また、それ以外にも、新事実があるので、書き出します」


【尾形弁護士の動き】


 ○佐久間への情報提供(九条大河からの手紙)


 ○加納謙一(四十八歳)への発信(北海道地方へ誘導)


「守秘義務を主張する、尾形でしたが、最終的には、事の重大さに、気が付いたようで、次の内容を、隠語として、発しました。その内容を、解釈したものが、矢印の部分となります。山さんは、よく理解するように」


 ○ 加納謙一への接触は、否定も、肯定も出来ない

   ⇒ 接触はしているが、口に出す事は、守秘義務に反する


 ○ 一連の原因者、その氏名は、明かせない

   ⇒ 九条大河である事は、認める


 ○ 八名と接触し、ある物語を語った事、ある時期毎に、決まった人間による、

   ある物語を解く為の、指南をする事は、絶対にない

   ⇒ 八名の対象者に、グループ分けと、時期を示して、

     その時期毎に、割り振られた対象者が、決まった場所で、

     殺害される事を示唆している


 ○ある物語 ⇒ 最期のミステリー


 ○ 依頼のために、関係ない編集長や、副編集長、評論家、有望な作家と、

   面会はしても、ある物語を語るのに、監視や盗撮、盗聴をけしかけ、

   脅す事など、絶対にしない。

   ⇒ 対象の八名は、編集長・副編集長・評論家・作家で構成されている

   ⇒ 時期毎に、単独、もしくは、複数で、詩の設定に沿うように、

     誘導されていると、予想する

   ⇒ 不要な接触を避ける為に、監視・盗撮・盗聴を行う旨を、

     八名に対して、通知、もしくは、脅している可能性あり


「九条大河は、まず、最期のミステリーを解く者として、私を選びました。そして、殺人舞台の対象者として、加納謙一を含め、計九名を、選択したと思われます。九条大河は、詩の順番に拘り、時期を指定して、残りの八名を、おそらく、作品に準して、殺すと考えられます。この八名は、既に、尾形弁護士の説明を受けていて、その時期まで、待機しているものと、判断します」


「対象者同士の接触は、本当に、ないのかね?」


「私が犯人なら、大勢の対象者を、絶対に一緒にしません。犯行計画が漏れる、恐れがあるからです。ただ、尾形の言い回しから、一堂に会した感を、覚えました。ある物語を語ると、言っていたので、九条大河の課題を、解き明かすのだと思います。全員が、その条件を受け入れたと仮定すると、課題を解いた者に、均等に報酬金を払うとか、遺産の一部を与えるとか、対象者たちが喧嘩をしないで、飛びつくような、破格の条件を提示したうえで、グループ分けして、参加させる。破格の条件には、当然、リスクが付きまといますが、欲望に目が眩み、我慢すると思います」


「対象者の接触を、佐久間警部なら、どう防ぐかね?」


(………)


 佐久間は、左手で、顎先を撫でるように触った。


(………)


(………)


「私が、犯人ならこうします。…情報漏れするリスクを前提に考えると、対象者に、余計なストレスを掛けぬよう、努めます。期間を分ける場合、どの時点で謎を解いても、解いた人間には、均等に、報酬金を支払う約束をします。次に、監視関係ですが、公平を期すため、対象者以外の人間を第三者とし、対象期間中のみ、第三者による監視・盗撮・盗聴を行う事を、事前に通知し、同意を得ます。どんな人間でも、期限付きでのリスクなら、案外、我慢出来るものです。あとは、スポンサーが、対象者の雇用主に、手を回し、裏で金を握らせ、期間中に、互いの接触がないような、配慮をすれば完了です」


 安藤は、納得したようだ。


「なるほどな。その手なら、不平不満もなく、対象者同士で、先を争う必要もない。自分の番になったら、全力で、難題に臨める。……ミステリー作家というものは、賢いな」


 捜査員の中には、話の展開が早すぎて、思考が追いつかない者も、見受けられる。山川も、半分程度しか、理解出来ないようだ。


「山さん、後で、もう一度説明するよ」


「すみません、お願いします」


 佐久間は、説明を続けた。


「どの人間が、どの作品の対象者なのか、流石に、聞き出せませんでしたが、八名が、対象者であると、分かっただけでも、収穫でした。候補作品の中から、九条大河と、因縁があった人物を割り出して、未然に防ぎたいものです。急がないと、尾形弁護士も危ない。弁護士事務所を出た時に、強烈な殺気を、感じました。この様子から、既に、弁護士事務所内に、盗聴器があっても、不思議ではありません。しかも、その殺気は、大手町に着くまで、続いていたので」


(------!)

(------!)

(------!)


「九条大河は、玄人(プロ)でも、雇っているのか?」


「間違いなく、玄人だと思います。経験豊富な山さんが、気が付かなかったのですから。九条大河は、生前に、相当、準備をしたのでしょう。ミステリーに対する執着心を、強く感じます。それだけに、尾形が心配です。情報を漏らした事が、筒抜けならば、相当ヤバい。警護する、正当な理由が付けば、事に当たれますが、まだ予想の範疇で、警察組織(こちら)は、身動きがとれません。それでも、出来れば、今夜からでも、警護をつけて、保護下に置くべきだとは、思いますが」


(………)


 安藤にも、思うところもあるようだ。


「……良いだろう。尾形には、佐伯と佐藤、お前たちが交代で、警護にあたれ。不審者が近づいた場合、発砲も、許可する。やっと掴んだ手掛かりを、失う訳にはいかんからな。…ところで、九条大河の、背後関係は、何か、掴めそうか?」


 佐久間は、首を横に振った。


「そちらは、全くダメです。謎が多すぎて、出版社ですら、関係者を、全部、洗えていません。捜査の最短は、今のところ、候補作品から、追うしかありません」


「…時間が幾らあっても、足りないか。…ならば、この…」


 安藤が、次の一手に、言及しようとした矢先、内線で、緊急連絡が入る。


「佐久間警部!尾形が、弁護士事務所前で、何者かに射殺された模様です。今、第二機動捜査隊が、現場に急行し、初動捜査を開始すると、連絡が入りました」


(------!)


「…佐久間警部」


「…敵の方が、上手だったようです。弁護士事務所を出てから、まだ一時間しか、経っていません。敵の行動が、組織並みに早い。この分では、捜査一課(我々)も、組織の体制強化をして、臨まなければ、勝てないかもしれません。取り急ぎ、現場に急行します。戻ってから、善後策を練りましょう」


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