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王子無双


 フフンと勝ち誇ったように笑うギーアスターと、苦虫をかみ殺したような顔をしたクライフの間に、暢気な声が割り込んできた。


「で、殿下?…」


 突然聞こえた声の方へ視線を向ければ、そこには見目麗しいキラキラした少年が座っていた。

 そこには先ほどまで黒いローブの人物が座っていた椅子である。が、今そこにいるのは、日の光を浴びてキラキラと煌く金の髪に、澄んだ青空を切り取ったような青い瞳。白磁の肌に、まだ少年らしさを残した口元。大輪の薔薇ですら恥らうと言われる美貌の少年は、この国の第一王子、ユリウス・レオンハルト・オルランディア。18歳であった。


「どうして殿下がここへ?」


 王家の訪問があるなどとは聞いていない。ウォルターを見やれば、彼もまた驚いた顔をしている。


「すまんな、クライフ。俺が無理を言って付いて来たんだ」


 悪びれもせず微笑む姿は、我侭を許されなれた者のソレだ。


「無理以前の問題かと…」


王位継承権第一位の王太子殿下が、伴も連れずに臣下の家へ赴くなど、あってはならないことだ。常に護衛騎士を帯同し、身辺の警護には気を配るもの王族の勤めなのだから。このように、お忍びの訪問など、受けるほうの身にもなってもらいたいものだった。


「一昨日の昼、魔力の暴発があったという報告は聞いているかクライフ」

「はい、殿下。東北に2リーズ程(1リーズ=3.3㎞)行ったクレインヒル村の、森での暴発と聞いております。森には殆ど被害は無く、狼に似たルフィーズと言う魔物の残骸が三体」

「そうだ。そして、それを行ったのが、16歳になったばかりの村の娘だ。天を穿つほどの火炎を吹き上げ、魔獣を三体消し炭にしてしまうほどの威力。それでいて、森には被害らしい被害は殆ど無かった。まぁ、何本かの樹は一部焦げたらしいけどな。どうだ?なかなかの素質だと思わないか?」

「それは、確かに…」


 頷いたら逃げられない、自覚はあったものの、王子の言葉に興味を引かれたのも本当だ。

 炎の魔法と言う物は、取り扱いが難しい。魔法は全てにおいて取り扱いが難しいものだが、取り分け炎の魔法は難しいとされている。

 水の魔法は扱いを間違えれば己が水を被って濡れることがある、風の魔法も突風に飛ばされたりして、怪我をすることもある、もちろん炎の魔法とて例外ではない。魔力を扱いきれなければ、己が火傷するだけでなく、周りまで燃やしてしまう。

 危険とも言えるくらい扱いの難しい、炎の魔法を暴走させた結果。被害が無かった上に、本人に火傷の痕がないということは、炎の魔力との同調率が高いのか、魔力の扱いが上手いのかそのどちらかだろう。


「ふむ…」


 弟子は欲しくない、自分のパーソナルスペースに他人が入ってくるのは苦痛でしかない。魔法の研究の時間を割かれるのも業腹だ。平民だろうが貴族だろうが他人を受け入れるデメリットなら、朝まででも語れると思うエルウィンだが、それ以上に娘の持つ未知の力に興味が沸いた。


「どうだ、クライフ。その娘を育ててみないか?」


けしかけるような王子の言葉に頷きかけて、やはりプライドが邪魔をする。一度は嫌だと言った話を、簡単に覆すのは悔しいと思ってしまう。


「そうだな、この娘は16だと言う。2年の猶予をやろう、その間に使える魔術師に育てられたら、賢者の塔の鍵を、お前にくれてやろう。どうだ?」

「賢者の塔!」


 それまで暖簾に腕押し、糠に釘で、反応らしい反応を見せなかったエルウィンが、初めて顔色を変えて反応を見せた。

 賢者の塔は、その名の通り賢者の住む塔だ。200年前より賢者の称号を賜るほどの知恵者が現れていない為、中に入れるのは王族のみとされていた。もちろん、王族でもトップクラスの者だけしか入れない。その賢者の塔の鍵を褒美にくれると言う。この国に住む魔術を嗜むものなら、誰もが喉から手が出るほど欲しい代物だ。

 その証拠に、椅子を蹴倒しかねない勢いで立ち上がったギーアスターのみならず、ハルトムート長官ですら穏やかな瞳をギラリと光らせている。


「殿下、それは些か軽率な発言ではありませんかな?賢者の塔の鍵を餌にとは、褒められた行為ではありますまい」

「そうは言うが長官、使われずにしまいこまれておくだけなら、無いものと同じではないか?知識や知恵は、受け継がれ研鑽されてこそなのだと私は思う。あのようにかび臭い塔にしまいこんでおいたら、そのうち塵になって風化してしまう」


 一瞬だけ王者の風格を見せた殿下は、最後はまた茶化すように言葉を締めくくった。


「では、その栄誉をエルウィン殿だけに与えるというのは、いけません」

「それは何故だ?そなたたちがクライフに平民を弟子とせよと押し付けているのだろう?そんな重荷を押し付けておいて、褒美がでるのは不公平とは随分と可笑しな話ではないか?」


国内随一の魔術師も、王子のこの言葉には一瞬口を噤んだ。


「長官の弟子も貴族の子弟であろう?」


 嫌味を込めたその言い方に、白い眉毛がピクリと動いた。


「そうでしたな。私の弟子も貴族の者ばかりです。確かに、クライフ殿にだけ面倒ごとを押し付けるのは卑怯でございますな。では、私も平民の中から弟子を探して殿下の御めがねに叶うように育ててみましょう。そうすれば、私にも賢者の塔への道が開けましょうか?」

「何を仰られるのですか長官殿。魔術師の力は血に宿るもの。尊き貴族だからこそ使える魔法を、平民ごときに教えるなど分不相応にすぎましょうぞ」


 長官の言葉に激昂したギーアスターが、今度こそガタリと椅子を蹴倒して立ち上がった。

 王子と長官の、不快気な表情には些かも気が付いていない。


「ならばお前はこの話に乗らなければいいだけだ。平民であろうと、魔法を使える者が増えれば国は富み、死なずとも良いものを助けることができるのだぞ?それでも、貴族だけに秘匿しておくことに意味があるとは思えんが」

「っ…」


 悔しげに唇を噛み締めるが、王太子殿下相手にこれ以上の発言は不敬と判断したのだろう、人知れずウォルターが立て直した椅子に腰を降ろして口を閉じた。


「のうエルウィン殿、殿下の為にもその娘御を、弟子として育ててやってはくれんかのう?」

「お師匠様…」


 王位継承権第一位の王太子に、国内随一の魔術師にここまで言われたら、断ることなどできはしないだろう。よしんばエルウィンが断ったとしても、罰を与えるような事はしないだろうが。


「お引き受けするのに、条件がございます」

「なんだ?申してみよ」

「はい、私がこの娘を弟子として2年お預かりし、出来不出来を殿下に披露するのであれば、ギーアスター殿にも何も教えられていない子供を一人、弟子として育てていただきたく思います」


 意趣返しをするつもりはないが、自分だけが弟子を抱えて苦労するのは納得がいかないエルウィンである。


「もちろんギーアスター殿の弟子は、貴族の中から選んでいただいて結構です。この条件、呑んでいただけますかな?ギーアスター殿」


明らかに挑発を含んだ瞳で椅子に座った男を見下ろせば、ギリと噛み締める音が聞こえそうなくらい、歯を食いしばる姿が映った。


「良かろう、魔術師とは貴族にのみ許された称号なのだと、貴殿に教えてしんぜようではないか」

「よし!これで話は決まったな。では、クライフ。この砂糖菓子を土産に用意せよ」


 ご執心だったプラムの砂糖漬けを土産に貰って、王太子殿下はご機嫌で帰っていった。


王子様無双です。

そして、嫌味の応酬です。

書き手としては楽しいです(笑)

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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