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始まりを告げる炎

なろうでは始めての投稿になります。

見切り発車なところはありますが、自分の好きなことだけ書いていければいいなと思います。

よろしくお願いします。


 なにがどうなって、こうなったわけ?


 慣れ親しんだ森の中を髪を振り乱して走りながら、私は自分の陥った危機的状況に、今にも心が折れそうだった。

 まだ日も高いこの時間、生まれ育ったこの森に魔物が出るなんてことは無かったのに、背後に迫る恐ろしい気配はどう考えたって魔物の物。

 熊や狼なら対処の仕方は聞いてるし、逃げる方法だってちゃんと森の中に用意されている。けれど、魔物から逃げる方法なんて知らない。

 村に住む誰一人として、魔物と対峙した者なんていないからだ。それなのに、どうして私は今、魔物に追いかけられてるわけ?

 お婆ちゃんに頼まれた薬草を摘んで、ついでに木の実を拾い集めていただけなのに。私が何かした?サラシャール16歳、お天道様に顔向け出来ないことはしてきてないはず。なのに、なんで!

 お父さんもお母さんももういなくて、だから育ててくれたお婆ちゃんにはいっぱい恩返ししたいのに、死んじゃったらできないじゃん。もう泣いてしまいそうだ。

 なんとかして生きる道を模索するけど、どう考えても生き残れる希望が見当たらない。


「やだっ…だれ、かっ……たすけてっ……た、すけてっ…」


 走り疲れて干上がった喉からは掠れた声しか出ない。それでも助けを求めずにはいられなくて、血の味のする喉から必死に声を絞り出す。

 どれだけ助けを求めても、森の中に自分以外の人は見当たらない。こんなに天気が良くて、木の実だってたくさん実ってるのに、どうして誰もいないの。いつもなら、木の実の取り合いで煩いくらい賑やかなのに、今日はリスやウサギすら見かけない。

 八つ当たりにもにた苛立ちに唇を噛み締めて、零れそうな涙を堪えて走る。


「なんで……なんでっ…いやっ、こないでっ…」


 時折当たる細い枝先が頬や腕をかすって、小さな痛みと共に血を滲ませた。その微かな血の匂いが、一層背後の獣の気配を濃厚にさせる。

 身体のあちこちが傷だらけで、どこもかしこも痛い。それだけ必死に走ってるのに、魔獣の足に人間の足が勝てるはずも無い。

 気付かれる前に逃げたアドバンテージなんか、もうとっくの昔に無くなっている。あの爪が、地面を抉る巨大な爪が今にも私の背中を切り裂く。そんな考えが頭に浮かんで、ギュッと心臓が縮み上がる。


「だめっ、絶対だめっ!……帰るのっ、おば…ちゃ…とこ……帰るの!」


 一度浮かんだ死の映像は根が生えたように、心から離れてくれない。死のイメージが心を縛って、身体まで縛ってしまう。必死に動かしていた足が、とうとう力尽きてしまった。

 ドウッと音を立てて身体が地面へ倒れ込む。


「かはっ……」


 受け身も取れずに倒れた衝撃で、一瞬呼吸が止まった。痛みにチカチカする目を擦って背後を振り返れば、必死に引き剥がした魔物の姿がそこに見えた。


「やっ、いやっ……来ないで……いやっ……」


 ガウガウと牙を剝き出しにして涎を垂らす、狼に似た魔物の目に睨み付けられて、私に出来ることと言えば這って逃げるくらいしかない。

魔物を刺激しないようにジリジリと後退る。

でも、そんな浅はかな考えなんてすぐに消えてしまった。

先頭の一番大きな狼がゆっくり身を屈めて、獲物である私へとピタリと照準を合わせてきた。筋肉がしなり、強く地面を蹴った足が高く跳躍し、喉笛目掛けて飛び掛ってくる。

 命の危機に全身の毛が総毛立ち、ぶわりと汗が噴出した。



「いやあああああ―――――――っ!…」



嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……。


死にたくない、まだ、死にたくない!

絶対的な死の気配に、全身から悲鳴が迸る。

恐怖に頭が真っ白になって、ガクガクと震えが走る。それでも死にたくなくて、死に抗う絶叫を上げた瞬間。

ドンッと何かが爆発するような音が聞こえた。なに?と思う自分の手が、燃えていた。

掌が、腕が身体が、見える範囲全てが赤い炎に包まれていた。なんで?なんで私が燃えてるの?どうして?これは魔物の姿を魔法なの?

天を穿つ勢いで燃える炎と、その向こうに見える魔物。


「うそ、いや、なんで……いや……いやああああ!」


全身を炎に包まれて、パニックが頂点を突き抜けた。

絶叫と共に炎は膨れ上がり、遠巻きに私を見ていた魔物の姿を飲み込んだ。


「ギャインッ…」


 飛び掛ってきた魔物を先頭に、残りの魔物もあっという間に炎の餌食になっていく。

炎が渦を巻いて木を燃やしていく。

魔物に喰われる恐怖が終わったと思ったら、今度は燃えて死ぬなんて。

助けて、まだ死にたくないの。目の前で消し炭になった魔物の姿に、ポロポロと涙が零れ落ちる。

あんな風に燃えて死ぬなんてやだ。おばあちゃんの所に帰りたい。


「やだやだやだあ……いやああああああ!あっ……」


くらりと身体が揺れて、ゆっくりと倒れ込んでいく。器を越えた出来事の連続に、精神が悲鳴をあげる。

私は炎に巻かれながら、16年の生が終わるのを感じて意識を手放した。




さて、始めてしまいました。

なろうさんでもよろしくお願いします。

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