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混世界  作者: 慧瑠
彼女が見た夢
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親方!空から!

ま、間に合った…。

リュコスは、椅子に座って時間が来るのを待っていた。

そこは、最初に待たされた場所と同じ刀の女性の近くにある椅子であり、視線を少し横にずらせば刀の女性も薙刀の女性も門番をしている。


現在リュコスは薙刀の女性に言われたとおり、太夫道中が始まるのを待っていた。


「やっぱり美味い」


手土産に持たされた複数の包みを一つ開け、饅頭を食べてリュコスは時間を潰す。


暇。という感覚よりかは、饅頭が美味い。という幸福感に満たされていたリュコスはどれほど待ったか覚えていない。

数十分か、はたまた一時間か…もしかしたら、数分か。

時間を忘れてしまう程の饅頭を堪能していると、リュコスが出入りに使った扉を含めた大門が音を立てて開き始めた。


「見かけだけだと思ってたが…開くのかアレ」


片面の端にあった普通の扉を使っていたリュコスは、動くとは思っていなかった門の全体が開き始め驚いていた。


ぼーっと開いていく門を見ていると、一定のテンポで音を響かせながら黒水太夫が女性達を連れ一歩一歩悠々と歩いて出てきた。


「ほぉ…」


リュコスは、先程とは圧倒的に違う黒水太夫に感銘を受けた様な声を漏らした。


先程も綺麗な着物を身にまとっていたが、それとは圧倒的に違う。

帯を前に垂らし、華やかな装飾が揺れる着物に、黒水太夫の本質を邪魔せず引き立てる様にされた化粧。

周囲の女性達も、黒水太夫を際立たせる様に配色された着物を纏い傘を差したり、少女等が花やボンボンの様な物を持ち黒水太夫を囲み歩いていた。


高嶺の花。


その言葉通り、先程まで話していた黒水太夫が遠く高く手の届かない所を歩いているように感じる。


「太夫、綺麗でしょ~」


「あぁ…確かにあれは惹かれる」


リュコスは、いつの間にか隣に移動してきていた刀の女性に答えながらも視線は黒水太夫から外せずにいる。


リュコスの視線に気付いた黒水太夫と視線が合い、微笑まれた事でリュコスはハッとしてお辞儀をすると、黒水太夫は優しそうな笑みを浮かべ小さくリュコスに手を振る。

黒水太夫の周りに居た女性達が不思議そうに首を傾げ、黒水太夫の視線を追いリュコスに集まった。


「うっ…」


興味津々といった刺さる視線に、リュコスが困ったような焦ったような顔をすると黒水太夫は満足した様子で何事も無かったかのように道中を始めた。


黒水太夫が動き始めた所で、女性達の視線が外れ緊張が解けたリュコスが、ふと上を見上げると艶夢よりは低いがそれなりの高さのあるビルの天辺にある大型テレビに目がいく。


気にして見てはいなかったが、記憶が正しければ広告が映っていたはずの液晶には、画面端に'LIVE'の文字と共に黒水太夫が映し出されていた。


周りを見渡せば、広告が出ていた液晶は全て黒水太夫の太夫道中が映し出されている。


「すげぇな…」


「太夫道中は、常夜之夢の名物でもあるからな」


「確かに、あれは魅了されても仕方ない」


引っ張られる様に視線を移動させれば、先を歩いている黒水太夫の姿が見える。

目を閉じずとも、脳裏には黒水太夫の姿が浮かぶほどに印象的だったリュコスは、部屋でのやり取りが一緒に浮かび気付けば苦笑いをしていた。


(あれを落とすって難易度高すぎだろう)


黒水太夫の将来の旦那が苦労するであろう事を予想して、健闘を祈りつつ荷物を原付のメットインに詰める。


「それじゃ、そろそろ帰ります」


「お疲れ様でした」


「お気をつけて、帰りは先程渡した地図通りに行けば人混みに捕まる事もないでしょう」


「はい。

お土産とか色々ありがとうございます」


リュコスは礼を言うと、薙刀の女性に貰った地図に従い裏路地へと入っていった。



「しかしすげぇな」


裏路地を歩いていたリュコスは、黒水太夫の位置が分かるほどに賑わっている声に関心しながら右へ左へと進んでいく。


数十分ほど歩くと、路地の先に見覚えのある道が幾つか見えるようになってきた。

もうすぐ夢橋に着くだろうと考えたリュコスが足を速めると、リュコスの耳に太夫道中で賑わう声とは違う声が聞こえてきた。


「―――!」


「ッ―――」


リュコスが耳をすませばハッキリと聞こえるわけではないが、何やら慌ただしさだけはしっかりと伝わってきた。

嫌な予感がしたリュコスは、原付を押しながら駆け足気味で路地から表の道へと出ようとしたが…ふと、影が差す。


「ん?」


その影が気になってしまったリュコスが上を見上げると


「は?」


文字通り、空から女が降ってきた。


「ちょ、まあぁ!?」


咄嗟に原付から手を離し、空から落ちてくる女性を受け止めようと手を出したリュコス。だが、女性はリュコスの考えとは違い、空中で足の裏と背中から何かを噴射させ体勢を整えると華麗に着地し唖然としているリュコスを見た。


「まさか、こんな所に人が居るとは」


唖然としているリュコスを見て、女性も少し驚いた表情で言葉を漏らした。

そして、すぐに周囲を確認すると、何かを察知した様子で一方を見つめ慌ただしく移動しようとする。

しかし、女性は急に力が抜けた様にその場で倒れ込んでしまった。


「お、おい…大丈夫か?」


「……外…へ…」


戸惑い心配するリュコスに対し、女性はそれだけ言い残すと完全に意識を失った。


「外って…」


どうすべきか一瞬悩んだリュコスだったが、急に敵意を感じて気絶している女性を立て直した原付に乗せると全力で夢橋へ向かって走りは出した。

話しのペースがスローですかね…?

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