それは、信じた証8
すいません、昨日は投稿できませんでした。
(何が起こっている…)
瞬きをしたつもりはなかった。目を逸らしたつもりもなかった。だが、状況はフェリシテが理解する事を許さないと言わんばかりに二転三転してく。
それも、素早く高速に。
「黒い触手?なーんか見覚えがあんなぁ」
フェリシテを襲った時より速く、その速すぎる速度から破裂音を響かせながら左から右から、正面から後ろから、上から地面の中から。増え続ける黒い触手がフェリシテもろとも割り込んだ者を削り喰い殺さんと襲ってきていた。
もちろん、それをフェリシテは認識できない。
突然自分の周囲で赤黒い炎が発火したと思えば、その炎は黒い触手を消し炭にしている。
「まさか、まだ生きていたとはな」
「あ?誰だてめぇ…
あっ!いや、待て待て。あぁ…流暢に喋る豚と黒い触手…てめぇあれか俺に丸焼きにされかけたオークキングか!」
「大魔王様への反逆者め。
我が今一度殺してくれよう」
「ヘハハハハ!あんま笑わせんなよ!
’今一度’って言葉の意味、てめぇの大好きな飼い主に聞き直してこい。
三秒で焼豚にして飼い主に送り届けてやるよ」
周りの魔物達を食い散らかし蠢く触手の中から出てきくるノーヴァは、青筋を立てながら巨大な鉈を触手の中から引きずりだし振るうが、ソミラはそれを軽々と受け止め更に煽っていく。
その間でも、フェリシテの周囲では発火現象が続き起こっていた。その目で追う事すらできない攻防にフェリシテが割り込むなんて事はできず、唯一分かっている事は自分はノーヴァに遊ばれていたということ。
それを目の間で行われている攻防を見ながら思い、圧倒的な力の差を埋める方法だけを必死に考える。
振り下ろされる大鉈の軌道を誘導するように受け流し、隙を狙う様に蠢き空気の破裂音を響かせながら接近する黒い触手は、それが当然であるかの様に一定の領域に入ると燃え尽きる。
フェリシテは、この場から少しでも動けば死ぬのが分かる。身体が重く、立っているだけで辛いが…今、この場が一番安全なのだと理解する。
-
「エンベル王!」
「どうした」
エンベル達は、フェリシテ達から少し離れ様子を伺いつつ触手の攻撃を逃れた魔物達を狩っていた。
黒い触手の攻撃とエンベル達の奮闘により、死者を出しながらも魔物達は確実に数を減らしていく。
積み上げられた屍の上を乗り越えて来たトレントを斬り伏せたエンベルの元に、ボロボロになった軽装の者が息を切らして走ってくる。
エンベルの側に跪いた軽装の者は、エンベルからの許しを得ると叫ぶように周囲に聞こえる様に言った。
「正面!南!東!魔物の第二波が来ました!
数は、発生時の倍以上!応戦はしていますが劣勢です!
被害も増え続け…何より、魔物が倒してもその場から新たに湧き出てきています!」
「……正面の状況は」
「ハッ!ギルド長が指揮を取り、魔法により土壁を即興で造り上げ魔物の動きを制限しながら各個撃破で対応しています!
ですが…」
「抑えきれないか…」
「ハッ!」
報告を聞いたエンベルは、ソミラを一瞥しつつ近くで既に息のない騎士の武器を引き抜き民兵を襲おうとしていたシルバーウルフに投擲をして処理する。
エンベルは、自分の浅はかさと弱さに嫌気がさしていた。
スタンピードの規模を見誤った事に、これならばと余裕を見出した事に…そして彼女に頼らなければならなくなった現状に。
「ここを任せる」
「ハッ!」
報告をしてくれた者にそれだけ告げると、エンベルは少し離れ魔物の屍に囲まれているアミリア達の元へと歩き始めた。
正確には、その屍の山を作り上げたメイドの元へ。
「休憩ですか?エンベル王。
お飲み物は何に致しますか?」
討伐数を数えれば彼女がトップだろう。それでも涼しい顔で魔物を撃ち抜き、的確に一撃で殺してくメイドは、近づいてきたエンベルに対しスカートの端を持ち上げ小さく一礼をする。
その姿は、返り血一つ付いていないメイドは明らかに異質で、場違いな美しさをエンベルに押し付けてくる。
そのメイドの態度に、エンベルは苦い顔を浮かべ悔しそうに頭を下げて言った。
「貸し一つ…」
「二つですね」
エンベルのその様子に驚いているアミリアとカーレが座るテーブルに、新しく紅茶を用意していたメイドは頭を下げるエンベルを冷たく見下ろし返す。
「…頼む」
「交渉成立です。
本当に、本当に残念ですね。
あの時、貴方がフェリシテ君を斬り裂いていれば…いえ、あれはフェリシテ君が作った繋がりで命が救われたと喜ぶべきなのでしょうか…。
どちらにしても、貴方達が一発でもフェリシテ君を攻撃してくれれば私は私の私情でリスコッチェ国を消す事ができたのですが。
残念です。えぇ、本当に。
ですが、約束は約束です。
私が私情でソレを破っては怒られてしまいます。それは私の私情よりも優先して回避したい事ですから…」
淡々と語る無表情のメイドの顔に皹が入り始める。そして、花弁が散る様に皹から一枚一枚崩れ落ちていく。
その下には別の顔。
髪も崩れ溶け落ち、真っ黒の長い髪が風に靡く。
その変わっていく姿にアミリアは見惚れてしまう。
彼女の周りを踊る様に散り落ちていく氷。キラキラと光が反射し、まるでそこだけ別世界の様な冷たい空気がゆっくりと、ゆっくりとその場を侵食する。
「いいでしょう。
貸し二つで手をお貸しします。
もっとも私は貴方達に貸しを作る事すら嫌なので、私にではありませんが。
うだうだ言っても仕方ありませんね。フェリシテ君も限界の様子。
もう少し見ていたい気もしますが…今日の所は我慢ですね」
彼女が手を一度だけ叩き鳴らし、パンッと乾いた音が響いた。
それだけ、たったそれだけで騒がしく血生臭かった戦場が静まり返る。
時が止まったように呼吸の音すらも一瞬で凍りついた。
-魔物紹介-
シルバーウルフ
結構大きめな狼。人間なんて、簡単にパックンできちゃう。
群れを作る習性あり。
コーアント
硬い、凄い数、でかい。
某防衛軍の蟻ぐらいのでかさ。
群れの習性あり。
フォレストスパイダー
蜘蛛。すんごいでかい。
見た目は、ゴライアスバードイーターと言う蜘蛛を巨大化させて、つぶらな瞳を八つ付けた感じ。
群れの習性は無いが子沢山の為、一匹見つけたら周囲に沢山居る事が多い。
トレント
動く木。群生地があり、まとまってひっそりと生きている。
凶暴性は低いが、怒らせると袋叩きにされる。
長生きすればするほど密度が高くなり固くなる。




