静かに怒りは火を灯す
すいません。
また、遅れています。
「それにしても、何故リュコス君に連れられて来たんですか?セーフモードだったようですし」
「ちょっと外に出ようとしまして、追いかけられて逃げた先に彼が居たんです。
セーフモードだったのは…お恥ずかしい話、逃げる時に無理をしてしまいまして…エネルギー残量が無くなりかけてしまったんです。
現在もエネルギーは少量ですが、こうして話している分には問題ありません。
徐々に回復していますし、昼前には最大量の回復が出来ると思います」
「そうですか。
茜さんの話しを聞く限り…常夜之夢は物騒になったんですねぇ。
外に出ようとするだけで、代償に片腕が必要になると」
黙示は笑みのまま、本来そこにあったであろう腕の部分を見て言った。
それを聞くと、茜は気まずそうな顔で黙示の様子を伺っている。
「あー…マスター、俺聞きたい事があったんすけど」
「どうしました?」
その様子を見ていたリュコスは自分まで気まずくなり、とりあえず話しを逸らそうと黙示に声を掛けた。
黙示は、茜からリュコスの方を向く。その後ろでは茜が一息ついて、無くなった腕が繋がっていた肩口をさすっている。
それを横目にリュコスは、懐に無理矢理入れられた紙を取り出し黙示に見せながら聞く。
「常夜之夢で、檻影の夢部って人から貰ったんスけど」
「夢部君ですか…また、厄介な方に会ったんですね」
黙示は、リュコスから紙を受け取り中を確認しながら苦笑いで答える。
紙の内容は至って普通の連絡先だったが、その紙からは常夜之夢独特の甘い匂いが漂い黙示の鼻腔を少しだけ埋めた。
その甘い匂いに、懐かしさを感じている。
「気になるのは、夢部君が茜さんを追っていた理由ですね。
夢部君と言うよりは檻影が、ですか。
まぁ、夢部君の言う所の'親方’が茜さんを狙っているんでしょう。
それでも分かりませんね…。
常夜之夢での茜さんの立ち位置は太夫も親方も手出しをする様な事は無いはずですが」
考えても茜が狙われていた理由が分からない黙示は、後ろから困り顔で黙示の背中を見ていた茜に視線を移す。
そんな茜は、黙示と目が合うと諦めた様に一度、大きく息を吐き黙示が求めている事を話し始める。
「隆さんから『黙示は頑固者だ。そして、自分の大切な人の為なら手段を選ばない。そんな危ない空気を持つことがある。
だから、相談する時は考えて選んで気を付けて相談しろよ。なんせ先輩である俺はアイツの大切な人の一人だから』と言われてました。
だから、本当は相談するつもりは無かったんですよ?
今回も外に出たかったのは、一人で考える為に行きたい所があったから…。
隆さんとの約束の為に」
「先輩は、自分を買い被り過ぎですね。
恥ずかしくは無かったんでしょうか」
無意識に呟いていた黙示の言葉に茜は、何を思ったのか柔らかい笑みを見せ話しを続ける。
「そして、私はいつもの様に外へと出ようとしました。
常夜之夢では、そこで働く限り外には干渉できない、出れないという規則があるんです。
でも、私は立場上例外で関係はありません。
だからいつもの様に、外へと出ようとしました。きっとそのタイミングを狙っていたんでしょうね…。
檻影の子達に囲まれて、拘束されかけましたが結構無理をして逃げました。
多少の損傷は構わない様な攻撃をしてくる檻影の子達の中から一人が飛び出した子が居ました。
突然の加速に反応が追いつけず、無理矢理回避した先に夢部君が待機していた様で片腕を切り落とされたんです。
これが、腕が無い理由。
そして、黙示さんの質問の答えですけど…心当たりはあります。
最近、黒水ちゃんに内緒で男性陣の統括をしている通称'親方'の玄二君が、何かを造ろうとしているみたい。
それで、私の心を狙っているんだと思うわ」
「心って…惚れた相手を襲うのは逆効果だろ」
茜が話した内容にリュコスが若干引いていると、黙示は目を閉じながら自分用に淹れたコーヒーを一口飲み何かを考えていた。
少しして、コーヒーを飲み終えた黙示がゆっくりと目を開き茜の切り落とされた肩口を見つめる。
「どうして腕が無いのかは分かりました。
茜さんが狙われている理由も分かりました。
玄二君でしたっけ?その玄二君が、何を造ろうとしているかは分かりませんが…あまり関係は無いですね。
ひとまずは、茜さんの腕を治しましょうか。
リュコス君はどうしますか?僕は、すぐにでも茜さんの治療を始めるので店に泊まるつもりです。
リュコス君も泊まっていきますか?」
「流石に疲れがヤバイから帰って寝たいっす。
けど、帰る元気も無いんで…ここで寝てもいいっすか?」
「いいですよ。
ベッドはありませんが、適当にソファーを使ってください」
笑みを見せる黙示から許可を貰うと、リュコスはいそいそと近くのテーブルに移動し、ソファーに寝転がりすぐに寝息が聞こえ始めた。
「彼にも迷惑をかけてしまいました」
「そうですね。
リュコス君も、僕の友人なので良かったら仲良くしてあげてください」
喋るには問題がないとはいえ、動くことが出来ない茜を優しく持ち上げ移動を始める黙示に、茜が申し訳なさそうに寝息を立てるリュコスを見つめ言い、それに黙示は優しい笑みを返しながらカウンター奥の暖簾を潜り、店の奥へと移動していく。




