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私が見た夢

還雲城

作者: 東亭和子

 こんな夢を見た。


 私は一人の男だった。

 小さな城の主だった。

 その城は高い山の上にあり、異彩を放っていた。

 山の下に住む人々は、雲に近い城を『還雲城』と呼んでいた。

 城は攻めることは困難で、長い間そこで一族は繁栄し続けた。

 

 私は城の最上階で空を眺めることが好きだった。

 空に焦がれていたといってもいい。

 より高く、そう望んだ。

 いつもこの身を満たすのは焦燥だった。

 早く、帰りたい。

 その思いが溢れて止まらない。

 ただ、どうしたらいいのか分からなかった。

 それが私を苛立たせる。

 私は確かに焦っていた。


 一人の男が城を訪れた。

 その男は山で迷い、偶然この城へ辿り着いたという。

 怪我をしていた男を客人として招きいれた私は、一族を滅びへと導いてしまった。

 男はこの城に沢山の財宝があると聞いてやってきたのだった。

 実際、この城には沢山の財宝が眠っていた。

 それの在り処をしっているのは、当主のみ。


「無用心に招き入れたのは私の過ち。

 皆は早くこの城から逃げるのだ」

 財宝が見つからず焦った男は、一族のものから在り処を聞き出そうと躍起になっている。

 何をするか分からない状態だった。

 このままでは一族が危険だ。

 大切な家族を守るため、私は一人城に残ることにした。


 男が知らないうちに一族は消えた。

 それを知った男は怒った。

「お前に与える宝などない」

 私がそう告げると男は刀を振りかざした。

「命が惜しくば答えろ!」

 脅しに屈することがない私に、男はイラついた。

 男の刀が首筋に触れ、血が流れた。

 それでも私は答えることはなかった。

 財宝は我が一族のもの。

 他のものになど、与えてやるものか。

「殺したければ殺せばいい」

「!」

 男が刀を振り上げたときだった。


 城が揺れた。


 仕掛けておいた爆薬が爆破したようだった。

 揺れはだんだんと大きくなる。

 男は不安な顔をした。

 そうして舌打ちをして刀を放り出し、襖を蹴り上げた。

 だが、男は部屋を出ることは出来なかった。

 城はもうすでに半壊しており、廊下は瓦礫で塞がれていた。

 男が私を恐ろしいものを見るような目で見ていた。

 まさか、男と心中する羽目になるとは。

 私は苦笑した。


「狂っている…」

 男は死に向かっているのに笑っている私を見てそう言った。

 そう、私は狂っているかもしれない。

 死ぬことが恐ろしくなかった。

 むしろ楽しみであった。

 私はいつからか帰ることを望んでいた。

 どこに帰るのか分からなかったが、どこかへ帰りたがっていた。

 だから、死ねることを喜んでいた。

 いつしか私は声をあげて笑っていた。

 私の声が崩れる城にこだました。

 男はそんな私を見て動けなくなったようだった。


「お前のおかげだ。

 礼を言う」

 私は男に向かって笑いかけた。

 さあ、帰るのだ。

 あの美しい楽園へ。

 この城を捨てて、帰るのだ。

 私は思い出していた。

 どこへ帰りたいのか。

 帰るべきか。

 一族が焦がれてこの山に城を作ったその訳を。

 部屋の屋根が落ちてきた。


 私の意識はそこで途絶えた。


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