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日課人形  作者: SATOSHI
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後編

 仲間が、買い主によって命を断たれた。

 わたしの右隣にいた赤い髪の子が、買い主の手に掴まれて眼下の机に寝かされる。机の上には、この前買ってきていたやすりや刃物が並んでいる。以前、ショーケースの向こう側に似たようなものが並んでいたことを思い出す。

 買い主は、わたしが見ても分かるくらい雑な手つきで、仲間に刃物を当て始めた。自分がイメージしたものと違っているのだろう。買い主の顔に焦りや苛立ちと汗の玉が次々浮かび、机に落ちていく。仲間の傷が増えていく。服だけを切りたいのだろうけど、服ごと肌を削いだり、見当違いの場所に刃が当たったりしている。

 やがて癇癪を起こした買い主は、力任せに仲間の手足をねじ切ったあと、刃物で首を落としてしまった。それでも満足したのか、買い主の顔はとても気持ちよさそうであった。


 仲間の命が、次々と消えていく。

 経過は、最初にやられた仲間と同じで、意図違いに切り刻まれ、最後はバラバラにされる。買い主は満足する。その勢いのまま日課を行うこともあった。

 それでもわたしの目には、買い主の技術が段々と向上しているのが見て取れた。切り方が洗練されてきている。磨き方が細やかになっている。道具も増えているようだった。


 買い主が幾つもの命と引き換えに得た技術は、ついにわたしへと向けられることになった。

 日課の時とは違った手つきで棚から取り上げられ、机の上に寝かされる。買い主の顔が、いっぱいに拡がった。目は血走り、鼻息は荒い。日課の時と似ているようで違っていて、違っているようで似ている。

 刃物が、やすりが、体の各所に当てられていく。痛みはない。ただ触れている感覚があるだけ。

 こうされている時、仲間は何を感じ、思っていたのだろう。きっとわたしと同じようなことなのだろうと思った。


 わたしの命は消えなかった。つまり、買い主の手からはじめて生還したことになる。買い主の満足げな、激しい興奮を含んだ鼻息がしきりに浴びせられる。あまりに感情が昂っているのか、そのまま買い主の日課がはじまった。わたしはその結果をいつもより多く受け止めることになった。

 全身を丁寧に拭き取ったあと、買い主は会心の笑みを浮かべ、頭上にわたしを掲げる。その時、わたしははじめて鏡に映る自分の姿をはっきりと見た。

 服が完全になくなっていた。体に傷もついておらず、服が少しも残らないくらいきれいに削られていて、胸の先には薄桃色の塗装がなされている。

 練習台になった仲間たちをこれまで散々見てきたので、この結果は予測できていた。わたしは再び元の位置に戻された。


 買い主はほとんど毎日、わたしを日課の相手に選ぶようになった。

 さらには毎回、日課の結果をわたしの体に直接ぶつけてくるようになった。ぶつけたあとは丁寧に拭き取られ、また元の位置に戻される。

 日課以外の日々の視線も、わたしに集まるようになった。まるで他の仲間には目もくれていないかのよう。


 近くの仲間が次々、わたしと同じようにされていった。太い指によってなされる繊細な手つきで服を剥がされ、体の各所に色をつけられる。胸は必ず薄桃色という決まりがあるようだった。終わった後、買い主は必ず日課を行っていた。

 そのころになると、わたしは段々と買い主に興味を持たれなくなっていた。買い主は今、他の仲間、自らの手によって次々変化させていく仲間のほうに夢中なようだ。

 わたしの位置は段々と奥へ追いやられていった。前に大きな仲間が立つようになったため、向こうの鏡で自分の姿を確認することは、もうできなくなっていた。仲間の、褐色の肌だけが一面に映り続ける。


 わたしが放っておかれてから大分経ったとき、大きな地震が起こった。買い主がいない昼間のことである。部屋ごと激しく揺さぶられ、あちこちから悲鳴のような軋みが聞こえてくる。鏡は壁から落ちて砕け散ってしまった。

 その最中、わたしたちは揺れる力にされるがまま棚から放り出されてしまい、バラバラと机へ落ちていく。机の外にこぼれていく仲間も一、二いた。わたしの体は、机の上で折り重なった仲間たちの一番上へ被る形で乗っかった。

 地震のあと、買い主が戻ってくることはなかった。わたしはずっと、仲間によって築かれた山の頂上で、ヒビの入った天井を見つめ続けていた。


 何十回もの朝と夜を繰り返したあと、部屋に四人の人間が入ってきた。当たり前だけど、いずれもわたしの知らない人間。それどころか、ショーケース越しからでも見たことがないタイプだ。

 新たな来訪者たちは、さほど広くもない部屋全体を見回りながら、何やら話し合いをしている。うち二人は、買い主を罵るようなことを言っていた。また、会話の中から、買い主が死んでしまったことをこの時明確に理解した。手足が千切れてしまったらしい。

 ほどなくして、人間たちの視線がわたしたちに向けられる。買い主とは違っていて、侮蔑の色が込められていた。でも、あの中の一人が買い主と同じ目つきをしていたことを、わたしは知っていた。

 すぐ近くで、わたしたちの処遇をどうするかの相談が始まる。どうやらわたしたち全員を処分する方向に話が進んでいるようだ。それはつまり、命を奪われるということを意味する。

 わたしたちは処分されることになった。買い主と同じ目で見ていた人間も、表面上は納得したようだ。

 わたしたちはひとまとめに、乱雑な扱いで大きな袋に入れられた。視界が濃い霧のような色に覆われる。体のあちこちに、仲間たちがぶつかる。


 外の賑やかな音を聴いたのはいつぶりだろう。音の種類は、買い主によって運ばれていた時と、あまり変わっていなかった。

 袋ごと、どこかに投げつけられたようなショックがあった。外からはひっきりなしに色々な音が聞こえていたが、霧の向こうが段々と薄暗くなっていくと、それも静まっていく。

 暗いはずなのに、強い月明かりに照らされたように真上からだけ光が降ってくる、そんな時間帯。足音が近づいてきた。それが止まったと思ったら、突如視界にカッターナイフの刃が現れ、流れ星のように斜めに滑っていった。開いた穴から大きな手が現れ、その奥からは買い主と同じ目をした人間がいた。

 手は、わたしを探しているようだった。仲間たちを描き分け、わたしを見つけると、唇を少しだけ持ち上げて笑い、頭をつかんでバッグへと入れられる。

 バッグの中は、真っ暗だった。

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