大穴
現地時間昨夜未明、ロンドンの北、ケンブリッジ近郊に巨大な穴が出現したと、地元局のメディアが報道した。テレビカメラによる映像では、光すらも通さない深さと、興奮気味に離す現地リポーターの「Why?」の声しか伝わらず、原因や詳細は一切報道されなかった。
不可解だったのは、その後も続報がなされず、当局もコメントをしていないということだ。現地民ですら、詳しいことが知らされないまま、交通規制だけがなされている。
ネット上で騒ぎはじめたイギリス人たちによってこのことが話題となり、またたく間にに世界中で噂の的となった。
「宇宙人の仕業ではないか」「莫大な費用をかけた映画の撮影ではないか」「新たな資源が見つかったのではないか」「兵器による攻撃、あるいは不発弾の爆発だ」などと憶測が飛び交い、ケンブリッジに向けて世界各国の報道陣が飛んだが、穴の近くには警備員が張り込んでいて調査もできず、真相は究明できない。
動きがあったのは1ヶ月後のことであった。
それまで沈黙を続けていた市長が、全世界に向けて「準備が整い次第、しかるべき対処を行う」と発表した。
沸き立った世界各国の報道陣や野次馬はケンブリッジに駆けつけ、何日も動向を見守った。宿は連日満室となり、期待感は日に日に高まっていく。
そして、雲ひとつない青空のもと、市長が現場に顔を出した。
「それじゃ、はじめてくれ」
ヘルメットをかぶった男たちが、スコップで一斉に穴を埋め始めた。
集まった人々は暴れ始め、市長に食って掛かった。
「いったいぜんたい、この穴は何なんだ! ちゃんと説明しろ!」
向けられたカメラに、市長はほくそ笑みながら語りかける。
「わが街の英雄ジョン・メイナード・ケインズは、やはり優秀な男だった。彼の言うとおり穴を掘って埋める仕事をしただけで、宿泊滞在費と食料需要、おまけに街の宣伝までできて、これだけの経済効果があったのだから」
なんか似たような話を書いたばかりのような気がしますが、思いついちゃったんだから仕方ない。