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Wizard World  作者: tyta
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プロローグ


2055年12月24日

 東京都の渋谷には今年初めての雪が降っていた。昔は人で溢れていた渋谷の交差点にひとりの男が仰向けになって倒れていた。彼は体中に傷を負い、胸からはおびただしい量の血を流していた。

 そんな彼を囲むように十人ほどの男女が立っている


「なんでお前だったんだよ! お前じゃなくっても、良かっただろ!」


 その中のひとりが倒れてる彼のそばに跪きながら、彼に対し叫んだ


「お前じゃなくってここは俺でも良かっただろ! いや、むしろ俺の方が良かっただろ!」


 そう言って叫ぶ彼は、見た目は不良みたいだが、この中で誰よりも仲間想いで正義感の強い男であった


「そうだよ。なんで僕たちに相談してくれなかったの?」


 静かに聞いてくるのは、ここに来て初めて自分を助けてくれた女であった


「俺たちに相談してくれればもっと他の方法が見つかったかもしれないだろ!!」


 そう言って俺を叱りつけるのはこの中で、一番年長である男であった


「…俺は、いや、俺たちはそんなに頼りなかったか? そんなに信用できなかったのか!?」


 俺にいつも勝負を仕掛けてくる親友は、悲しそうな顔をしながら俺に訪ねてきた


「なんで君がこんなに傷つかなきゃならなかったの? なんで、よりによって君じゃなきゃいけなかったの!?」


 そう叫ぶのは、俺のことを好きだと言ってくれた女であった


「……」


 何も言わずに、ただ倒れてる俺を見つめる男は、俺がやろうとしたこととを知って、直前まで俺にやめるように言ってくれた奴であった。その隣では一人の女が声を殺して涙を堪えていた


「…結局私たちは、あなたを止めることができなかた」


 そう言って悲しそうにしている女は、さっきの二人と同じように俺のやることを知りながら他の人には話さないように彼らを止めてくれた一人でもあった


「…やり遂げてしまったんだね」


 そう言って俺を見ている女は俺に今回の事件のきっかけをつくった人物であった


 そして彼らから少し離れたところにいるのが、今回俺を倒してくれた男であり、俺の一番の親友である男だ。

 その彼も、そして倒れてる彼を囲む仲間も、皆体中に傷を負っているが、そのどれも傷が深く見えるだけで実際にはそれほど深くもない。

 戦ってる最中は気づかなかったが、どうやらこの倒れてる彼は全力で挑んだ自分たちに、致命傷を与えないように手加減しながら戦っていたようだ。


「…ようやく…だ」


 そう彼は呟いた


「…ようやく…全てが…元通りになる」


「元通りじゃねえよ! お前が居なきゃ全然元通りとは言えねえよ!」


 不良ぽい見た目の彼は叫ぶ


「…いや…これでいいんだ…これが最善であり…最高の結果だ…」


 そう言うと彼は咳き込みながら吐血する


「おい! まだ他のやつらは来ないのか」


「ダメだよ! 全然連絡が出来ない!!」


 俺のことが好きだといった女がそう言うと俺を助けた女が、直接仲間を呼びに行こうとする。

 だが、


「っ! おい、そこをどけ!!」


 それを先ほどまでずっと黙っていた男が邪魔をした


「それは出来ない」


「お前は、あいつを見殺しにする気か!」


 そう言って男に詰め寄っていくが男は表情を変えずにいた


「俺は、あいつがやろうとしていたことを知っていた」


「「「「「「!!」」」」」」


 それを聞いて俺のやろうとしたことを知らなかったやつらは驚くがすぐに正気にもどり、彼へと詰め寄る


「お前は知っていて今回の戦闘に参加していたのか!?」


「そうだ」


「知っていたのに俺たちに教えなかったていうのか!!」


「そうだ」


「知っていたならなぜコイツを止め「黙れ!!」っ!!」


 普段、あまり表情を変えない彼が、泣きそうになりながら叫ぶ


「俺がそいつを止めなかったと本気で思ってるのか!! 俺や他の奴らがどんだけあいつに言っても、あいつは自分の意思を貫き通した!! 自分がほぼ確実に死ぬと分かりながらも、ほかのやつらが無事ならいいと言い、俺らの静止を振り切ったあいつを見てきた俺の気持ちがわかるか!?」


 普通じゃ絶対に見れないような、彼の怒りや悲しみの混じった声を聞き、他の奴らは動きを止める


「…そいつを責めないでくれ」


 そんな彼らを見て俺はつぶやく


「…そいつは最後の最後まで俺のことを止めようとしてくれた」


 そろそろ自分の最期が近いことを悟りながら俺はつぶやき続ける


「…だけど俺は、これしか思いつかなかった」


 もう皆の輪郭もわからないほど目が霞んでいる


「…それにやつは徐々に力を取り戻していたし、時間もなかった」


 そう、時間が足りなかったのだ


「…それに、お前らは優しすぎるから、こんな作戦知られたら絶対止めただろうしな」


「当たり前だろ!! お前は俺のことを理解してくれた初めての親友なんだぞ!!」


「…だけどやつが復活したら今度は全員がやられてしまう。だから俺は今回の作戦を実行に移した」


 そう、俺の大切な仲間が死なないように


「…だけどそれであなたが死んでしまったら意味がないじゃない」


「…それでも、助けたかった」


 もう何も見えなくなってきた


「…これで俺の役目もようやく終わりのようだ」


 そう言って俺は見えなくなった目を閉じる


「…俺はお前らと仲間でよかったと思ってる。お前らが居て笑い合える日がこのまま続けばどんだけ幸せだったか、今でも考えることがある」


「なら!」


「…でもな、優しすぎるお前たちじゃ、できないから、俺がやらなきゃいけないことだから」


「そんなことない!!」


 もう声もあまり出せなくなってきている


「…お前らなら…未来を…託せると俺は…信じ…ている…から」


「おい! しっかりしろ! 寝るんじゃねえ!」


 意識が闇へと堕ちていく


 みんなが叫んでいるようだが、もう見えないし聞こえない


「…こんな最期も…悪くないな」


 そうして俺は闇の中へと沈んでいった


 悪夢に囚われ、生き残った四千人にとっての最大の事件の終わりを告げた


 5年の歳月と、一人の死によって

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