吾が輩は空腹である
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「ガァアァアアア!!」
森に怒り狂った野獣の咆哮が木霊する。はい、もちろん俺のです。
食料を求めて早くも2時間。時計なんざ持ってないし、あくまで体感だけどそれくらいの時間は立ってると思う。
前世の記憶ならこういった転生モノは直ぐに魔物だとか魔獣と遭遇するのが定番なんだが現実そう甘く無いらしい。
限界が近い。
空腹に耐えかねて、実っていた赤い木の実を口にしたけど急に吐き気が襲ってきて全部吐き出してしまった。
きっと赤い木の実は毒でもあったんだと考えて、他の木の実や適当な雑草も試したけど、どれも同じ結果におわった。
どうやらこの身体は果実や野菜等の植物を口にすると拒否反応を起こすようだ。
俺の見た目や見たことの無い植物が生えるこの森から推測するに此処が元の世界で無いことくらいは分かる。見渡す限りの緑の中、生き物の一匹見つからないとは……このまま餓死とか笑えない。
鳥や時たま獣らしき声が聞こえるからこの森に生き物がいないって事は無いと思うんだが……。
「もう背に腹は変えられない……吐いてでも草を食うしかないな」
俺が足を止めると口元からボタボタと涎が滴り落ちる。止め処なく溢れるそれは拭っても拭っても止まる気配がないため、もう放置だ。
吐き気は襲ってくだろうが、餓死よりはマシだろうと覚悟を決めて適当な葉をもぎ取ると、口に運ぼうとして止める。
もぎ取った草の先に小さな黒い蜥蜴が引っ付いているのに気づいたからだ。
「肉っ!?」
予想もしなかった肉との遭遇に危うく、手に持った草を落としそうになるがギリギリで持ち直す。
ようやく見つけた肉を逃してなるものか!
蜥蜴なのに……なんの抵抗もなく美味そうと思える俺はもうこの環境に適応してるのだろうか?いや、多分空腹のせいだ。
さて、あまり肉(黒蜥蜴)を待たせるのも失礼だ。
てかこれ以上のお預けを耐えきれるわけがないじゃないか。
「いただきまーす」
俺は小さな蜥蜴に不釣り合いな程に大口をあけると草ごと噛み砕こうとする。
「あがっ!!」
しかし、それは顔面を襲った衝撃によって叶わなかった。
顔面に走った衝撃は簡単に俺の身体を吹き飛ばし、俺は近くの樹に背中を強く打ちつけた。
「い、いったいなにがっ」
背中が悲鳴を上げているがそれよりも衝撃の正体の方が気になる。
俺は軋む身体に鞭打って、立ち上がり俺の食事の邪魔をした不届きものを探す。
どこだ?あれほどの威力を出せるってことは身体も大きな奴だろう。
だが何処にもそれらしき姿もない。
という事は擬態能力やそれに似た能力を持っているのか。
これは厄介な事になった。空腹で体力が限界に近い俺に勝てるのだろうか?
まだ見ぬ強敵の存在に緊張感を高める。
そして気づいた……此方を睨みつける黒蜥蜴に。
え、まさか犯人はお前!?