吾が輩は鰐である
日本の偉人が書いた『吾輩は猫である』から始まる長編小説をご存知だろうか?
日本人ならば内容までは知らなくとも題名くらいなら耳にした事があるだろ?
かくいう俺、戸上明日太郎もその題名とうっすらとした概要くらいしか知らない1人だ。
何故自己紹介もそこそこに小説の話題を振ったかというとまさに今俺が置かれている状況とその小説の題名が酷似しているからさ。
何言ってるか分からんだろう?俺も分からん。
私は池に映り込んだ自分のであろう顔を見て呟く。
「……吾輩は鰐である」
最も湖に映っている顔は 可愛らしい猫とは真逆の捕食者のものなんだけど……。
俺は豊かな自然の中にいた。人間とはかけ離れた見た目になって。
何故このような事態になったのか?
俺に聞かれても困る。
というのもここに来るまでの記憶がすっぽりと抜けているんだ。
名前も自分が社会人であり、ある会社に勤務していた事も昨日の夕飯でさえも記憶にあるがこの状況を説明できる記憶が一切ない。
その場に胡座をかいて抜け落ちた記憶を必死に思いだそうとする。
とりあえず感覚はあるから夢では無いだろう……にしてもお腹空いた。
ならよく小説とかである 転生とかトリップとかか?……にしてもお腹空いたな。
うん、見た目もあるしトリップじゃなく転生と考えた方が良いだろうな。
てか腹が減った。さっきまで何も感じなかったのにな……。
何か食べようと立ち上がった際に近くにある水面に今の俺の姿が映る。
先程、鰐であると表現したが正確には違う。
あくまで俺が持つ知識にある中で一番近いのが鰐であっっただけだ。
俺の姿は簡単に言えば人型の爬虫類。
身体中が薄緑の鱗に覆われ、毛髪は全くない。
目測だが身長は160cmくらい、ほとんど筋肉はついておらずひ弱なイメージがある。
顔は鰐と人を合わせた様で短い吻もある。口の中には小さいながらも、鋭い牙が生え揃っていた。
丁度、尾てい骨のあたりから細く鋭い尻尾が生えているのも確認できた。
「やべえ、こんな事してる場合じゃねぇ……何か何か食べないと」
声帯が発達してるのか、転生(といっても過程だが)のせいかきちんと声が出せたのを今更ながらに確認すれば今度こそ餓えを満たす為に行動を開始する。
とりあえず肉だ、無性に肉が食いたい。
口から垂れた涎を拭いながら、俺は適当な方向へと歩き出した。