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マーレット、街へ

 8話目です。

 

 夜遅く…

 エリザベルも子供人形たちも夢の世界へと入って行った。

 今日は1日、エリザベルにとっては優越感に浸る事が出来たサイコーな日だったと言えよう。

 自分自身が誇り高き人形で有る事を人形管理局に認知されて、この上にない幸せなのだから。

 これから色々と自分や可愛い子供たちの為に恵んでくれると言うから、嬉しさは倍増である。


 マーレットは又同じように、上半身血まみれになってグッタリとなっていた。

 いつものように、エリザベルから暴力を受けたのだ。

 マーレットは今日は45歳の誕生日を迎えたので、管理局から誕生日のプレゼントをもらっていた。

 中身は高級ひざ掛け毛布である。

 マーレットは1人でコッソリと使うとしたが、エリザベルが強引に取り上げられてしまった。

 何とか奪い返そうとしたものの、激怒したエリザベルに煉瓦で頭を何度も殴打されてしまった。

 エリザベルは怒りを込めて言っていたっけ。

「コレモ、私ノ物! オ前ハ、ソンナ当タリ前ノ事モ、分カラナイノカ!?」

「…」

 勝手な言い分だとマーレットは嘆いた。

 相変わらず凶暴性剥き出しで、狂ったように暴力を振るって来る。

 情緒不安定か?

 もはや、正気の沙汰ではない。

 スザンヌ主任にはこう言った所も見て欲しかったとマーレットは歯がゆい気持ちで思った。

 ひざ掛け毛布はその後、キディの玩具の1つとして使われる羽目になってしまった。


 更にだ。屋敷の中で一番広いリビングをエリザベルが独断で人形専用部屋にしてしまった。

 今までの人形部屋はエリザベルの命令により、マーレットの寝室に変わった。

 マーレットが使っていた寝室は使用厳禁となり、全てエリザベルに取り上げられてしまったのだ。

 マーレットはエリザベルが使っていたベッドに寝る事になったから、これほど屈辱的な事はないだろう。

 ベッドはいつの間にかガタが来てるし、布団とかは汚れていて臭いのなんのって。



 後日…、


 マーレットは1人、外出する事となった。

 家を留守にする時は必ず主エリザベルの許可を得なくてはならない。

 仕事に行くと言うと、自分や子供たちの為に精一杯稼ぐようにとエリザベルは言う。

 それなのにどうだ?

 着ていく洋服も全てエリザベルの物になっているから、マーレットが持ってる衣類はほんの僅かな数だけ。

 その殆どが粗末な衣類ばかりだ。

 街へ出る時に着て行くなんて到底不可能。

 なのに、エリザベルはマーレットの事なんて全く意にも止めてはいない。

 持ってる衣類を着て出かけろと言う。

 エリザベルの前で泣きそうになるマーレットだが、本当に困っているワケでない。

 心配はない。

 こんな生活状態になると予想していたマーレットは、エリザベルが全く知らない場所に秘密の隠し倉庫を用意していた。

 金銭的に関わる書類や家屋敷の権利書等の重要物を始め、貴重品や本当に必要な衣類とかを夜中のウチに運んでいたのだった。

 ウチを出た後、すぐに隠し倉庫で着替えて出かける。

 外出から帰って来たら即、ボロ着に着替えてからウチに入る。

 ハッキリ言って結構、手間が掛かっちゃうけど状況が状況だ。

 当分の間は、こう言ったパターンで行くしかないのだ。


 マーレットがやって来た所は市内中心部のロダンタウンって言う繁華街である。

 コレットと言うカフェでグロリアスと落ち合う事になっているのだ。

 グロリアス=ラミングとは学生時代からの友人である。

 独身1人身のマーレットとは違い、グロリアスは既に結婚していて高校生になる息子がいる。

 お互い高校を卒業した後も暫くは交友関係が続いていたけれど、マーレットが黙ってフリーラムランドを離れてからは連絡さえもしなかった。

 久しぶりに会うようになったのは今から5年前の事。元気な様子にマーレットはとても喜んだ。

 マーレットが人形ヘルパーとなり、人形をパートナーとして受け入れるようになったキッカケはグロリアスから人形生物に関して色々と話しを聞いてからだった。

 (もっとも、マーレットにはもう1つの理由が有って、人形ヘルパーとなったのだ…)


 先に到着したマーレットは1人、窓際のボックス席でコーヒーをオーダーした。

 コーヒーを飲むなんて、1年ぶりだろうか?

 ウチではエリザベルが独占している為、もう殆ど飲める状態ではない。

 大体、食事自体が粗末なメニューばかりだから、コーヒーどころでは無いのだ。

 いつも豪華な料理ばかりを腹一杯食べているエリザベルや子供人形たちとは大違いである。

 コーヒーをすするマーレット。

 うーん、格別な味!

 一緒にオーダーしたクリームチーズスィーツもグーな味である。


 この時だった。


 ミャーミャー!


 どこからか、子供人形の声がした。

 女の子の声だと思う。

 辺りに見回すけど、子供人形の姿はない。


 すると又、聞こえて来る。

「ミャー、大キナ、アチ(足)」

「え?」

 マーレットは自分の足に何か触れて来た感触を味わった。

 下の方を見てみると、自分の足元を触る1体の小さな人形の姿があった。

 そのコを抱き上げてみる。

 ジーッと顔を覗き込んでみると、エリザベルの子供人形たちと同じタイプの女の子である事が分かる。

 エリザベルの子供人形と同様に、大きな目をパチクリと瞬きする仕草が可愛い。

 赤いワンピースの衣装が似合っててステキだ。

 マーレットを怖がる事なく、ジッと見ている女の子人形。

「ここにいたのねロッティ?」

 母親らしき等身大の女性人形がやって来た。

「ミャミャー!」

 母親に向かって手を振る女の子人形。

 マーレットはそちらの方に顔を向けると、その母親人形と目が合った。

 相手の方もマーレットの方に目を合わせて来て、互い見つめ合う。

 マーレットはこの時、何とも言えない感情が込み上げて来るのを覚えた。

 躊躇する事無く、相手に話しをしてみる。

「あ、貴女のお子さんかしら?」

 女性人形はハッと我に返って、両手を出して答えた。

「すみません! 私の子供なんです」

 エリザベルと違って、彼女は流暢に言葉を発する。

 マーレットはソッと、そのコを母親に手渡した。

「いつの間にか、私の足元にいましたよ」

「マァ、ごめんなさい」

 ロッティと名乗る我が子を受け取った母親らしき女性人形。

「貴女、お名前は?」

「ビアンカと申します」と彼女は丁寧に頭を下げた。

「私はマーレット=ブラウン」

 ロッティを撫でながらビアンカは質問する。

「マーレット、ステキなお名前ですね? お1人ですか?」

「友達を待っているの。もうすぐ来るわ。貴女の方は?」

「私の御主人様と一緒に、街に買い物に来ました」

「まあ、買い物に来たのぉ。それはステキね。」

 思わず笑顔がこぼれたマーレット。


 それにしても、ビアンカのキレイだ事。

 エリザベルとよく似た姿をしているけど、ポニーテールの髪型が特徴である。

 物静かで礼儀正しそうな雰囲気が漂ってて、惚れ惚れするぐらいだ。

 彼女のようなステキな人形女性を世話出来たら、どんなに幸せな事か。

 マーレットは羨ましく思った。

「ありがとうございます。ではこれで」

 ビアンカはマーレットに丁寧に頭を下げた。

「アナタと又、会いたいわね?」

 ビアンカは笑みを見せて言葉を返す。

「今度はゆっくりと、お話しをしても良いですね?」

 丁寧に頭を下げるビアンカ。

「ミャチャ(又)、会イマチョー」と、ロッティが笑顔でマーレットに手を振った。

 マーレットも笑顔で、ロッティに手を振る。

 ビアンカは時折、立ち止まってはマーレットの方に振り返った。

 ロッティはビアンカ・ママの肩越しからずっと、マーレットを見つめている。


 凶暴なエリザベルとは違って、とてもステキなビアンカ嬢ですね。

 続きます。

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