法廷が始まった
31話目です。
「何のつもりだ!? 家屋敷を焼却処分するなんて、そんな報告は受けていない!」
グロリアスから知らせを受けてマーレットの自宅を訪れたアースル=バーソロン局長は、燃え盛る屋敷を見て茫然となった。
激しい炎に包まれている邸宅。駆けつけた消防が必死に消化作業を行なっている。
傍で同じように茫然と見ているグロリアスが尋ねる。
「報告って? 何の報告ですか?」
「今日の昼、北の魔界の政府機関から警察本庁に連絡が有ったらしいんだ。マーレット=ブラウンを逮捕して本国へ拘束するってね」
局長をカッと目を開いて見入るグロリアス。
「逮捕って何ですか!?」
「本庁の話しでは、マーレットはエルーナ王女を拉致したとして逮捕すると報告を受けているみたいなんだよ」
「エルーナ王女をマーレットが拉致監禁したなんて! あの凶暴人形は! 誰かのツテを使って、自分でフリーラムランドに入国しているんです! 拉致なんて、デタラメですよ!
大体! あの凶暴人形がフリーラムランドで生活していた時、何をしでかしていたか!? 局長も御存知でしょう!?」
「もちろん知っているさ。だが、本庁が受けた報告内容とは明らかに違ってる。マーレット=ブラウンはエルーナ王女を拉致監禁した上、虐待行為を幾度も繰り返し行なって来た。
拉致に協力した人間たちを惨殺し、施設で暮らしていた子供人形を無差別に殺した極悪犯罪者だって言うんだ。いったい、どうなっているんだ?」
局長の説明を聞いて、グロリアスは開いた口が開かなかった。そして、薄々感じた。
「何だか…、あの凶暴人形の都合の良いように、事が運んでいるみたい」と。
マーレットにとっては、十数年ぶりの北の魔界で有り、政府直轄の最高裁判所である。
法廷には数多くの群集が集まり、裁判の行方に注目していた。
誰もがマーレットに怒りと憎しみと抱き、以前と同じように極刑を望んでいるのだ。
王室席には既にバルニラとソフィア王女が席に着いていた。
後ろにはオーフェンとビュルトが立って2人の世話を行なっている。
エルーナ王女はどこだろう?
傍聴席を背に証人席に座っていた。
ソフィア王女以上に美しく着飾り、配下の者がマーレットの自宅を燃やす前に持ち出した高級ネックレスやブレスレットを身に付けている。
胸に抱いている2体の子供人形は、エルーナ王女の為にフリーラムランド政府から謝罪の為に送られたモノだ。
どちらもエルーナ王女を幼くしたような可愛い女の子で、子供人形用の玩具乳首をくわえている姿が微笑ましい。
2体と初めて対面したエルーナ王女は涙を流して感激し、それぞれキディとルラと名づけている。
パッチリとした目で辺りに注目するキディとルラ。
音楽が鳴り出して裁判が開かれ始めた。
口が両耳まで裂けた鬼のような形相に、ガッシリとした体格をした髭面の男が裁判長席に着いた。
「ええー本日! ココに又、法廷が開かれる事になろうとは…、とても残念であーる!
被告マーレット=ブラウンを法廷を、今回も…この俺様が担当する事となった!
前回の36号事件の時と同じように! 当法廷が下す判決に不服の有るヤツは遠慮無く出て来い! 説明する前に、その場でぶっ殺してやる!」
やくざまがいの乱暴な口調の裁判長ブルドッガーである。
回りはシーンとなり、誰も言い返したりはしない。
バルニラに確認を取る裁判長。
「開廷を許可します! どうぞ!」とバルニラ。
裁判長は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
気が荒く口の悪いブルドッガーだが、礼儀はとても良いのだ。
席に座った裁判長は正面大扉に立つ警護員たちに指示を出した。
「被告を法廷へ!」
2人の警護員は頭を下げ、後ろの大扉をゆっくりと開けた。
法廷内にいる者たちの視線が一斉に集中する。
少し大きな鉄製の檻が出て来た時は、どよめきが沸き上がった。
檻が被告席辺りに来ると、檻に被せてあった大きなシートがサッと外された。
一瞬の静かな間の後、傍聴席に座っていた群衆が腹を抱えて吹き出し笑いする。
「ブゥハハハハハー!」
「何だよ、あの無様な格好はよ!? 真っ裸でサーカスのピエロを演じるつもりなのか!?」
「元魔導師が! 聞いて呆れるよー!」
群集たちからコケにされるのも無理は無い。檻の中でマーレットは丸裸のまま首輪と手錠をはめられ、足に錘の付いた足枷を付けた格好で群集の前に姿をさらけ出しているのだ。
頭は丸坊主。そしてピエロの化粧メークを施されているから、非情な集まりの群集から笑われないワケには行かない。
「…」
マーレットは暗い表情のまま唇を噛み締め、グッと怒りを抑えている。
思いっきり暴れたいところだが、身体は小さい上に魔力は失い完全に手足の自由が奪われているから為す術もない状態だ。
「オーホホホホ!」
エルーナ王女は群集と同じように腹を抱えて大笑いしている。
「…」
そんな非情なエルーナ王女をバルニラは憮然とした思いで見つめていた。
マーレットをこのような格好で法廷に引き出させたのは、他ならぬエルーナ王女だって事が分かっているから。
数え切れないぐらいの嘘を付いている上に、1人の人間の女性を徹底的に目の仇にしている。
何が目的なのか?
何を企んでいるのか?
全く持って分からない有り様。
エルーナ王女本人を直接、問い詰めれば良いが…
証拠が未だに出て来ないし、エルーナ本人からは拒否を貫かれて逆に言い包まれてしまう。
この国を統治している魔女王も、口達者なエルーナ王女だけには頭が上がらなかった。
法廷内から静かになったところで、裁判長は書類を読み始めた。
「36号事件に関しては当時…、被告マーレット=ブラウンには懲役11年の判決を言い渡している。被告本人は既に刑を終え、今に至っておるのだ。
最近になって、新たなる目撃証言が少なからず出ていたが…、何れも信憑性が無く再審査する価値も無い低レベルの証言ばかりである。よって本件に関しては…、審査結果に変更は一切無しとの結論に至った」
オー!
傍聴席から声が上がる。
「変更が無いなんて!」
真相が明らかになると大いに期待していたソフィア王女は、裁判長の話しを聞かされてガックリと肩を落とした。
裁判長の話しは続く。
「一番、問題にしなければならねーのは! 37号事件の事だ! 37号事件…つまりぃ!
エルーナ王女様の拉致事件の事だ! 被告マーレットは事も有ろうに、エルーナ王女を拉致しフリーラムランドへ連れて行きやがった! これに関して! 証人であるエルーナ王女様に質問します! 王女様は、そこにいる被告マーレット=ブラウンによって身柄を拘束された事は間違いねーんですね!?」
傍にいる係員に促されて、エルーナ王女は2人の子供人形を抱いたまま立ち上がった。
「間違いないわ。私を直接、拘束したのは元側近だったスザンヌ=ボレロって女だったけど…、それを指揮したのは…マーレット=ブラウンよ!」
「拉致されてからの状況を聞かせて頂きたいのですが…、宜しいですかい?」
エルーナ王女はさっそく、フリーラムランドでの悲惨な状況を語り始めた。
自分を拉致したのは、地獄の刑務城で服役されたのを逆恨みした事。
人形奴隷管理所と言う施設で入れられ、奴隷として強制労働をさせられた事。
ほぼ毎日のように虐待を受け、酷い仕打ちを受けていた事。
施設で知り合った可愛い子供たちが目の前でイジメられ、無残に殺されて行くのを見せられた事。
現地の人間の家に住まわされ、ペットか家畜みたいな扱いされた事。
北の魔界や魔女王バルニラの事をボロクソにけなされた事等々…、
エルーナ王女は涙を流し、悔しさを滲ませながら長々と語るのだった。
「とにかく私は! マーレットや他の醜い人間たちに奴隷扱いされた上に! 面白半分で虐待行為を受けていたのよ!」
おー!
エルーナ王女がリアルに語る悲惨な体験に、会場内はどよめきが沸いた。
エルーナ王女は嗚咽しながら訴える!
「この美しく、正しい心を持つ聖なる私を散々苦しめて来たマーレット=ブラウン! その愚かな人間こそ! 稀に見る超極悪非道の犯罪者だわ! こんな愚劣で野蛮な人間を生かしておく事は、北の魔界のためにもならないでしょう! 即刻、処刑するよう私は切に願うわ!」
「分かりました! ありがとうございました!」
審査が始まった。裁判長のブルドッガーを始め数人の裁判員たちが別室で審査を行なうのだ。
続きます。




