マーレット、北の魔界へ
30話目です。
話数を追加する事にしました。
それから2~3日して…、
北の魔界から魔界政府公安警察の署員たちがマーレットを迎えに自宅を訪れた。
マーレットに対し、北の魔界の裁判所への出廷命令が下ったのだ。
魔女王バルニラと司法当局の代表のサインが入っている出廷命令書を提示された時は思わず、尻込みしてしまったマーレットだった。
だが、すぐに気を落ち着かせて新たなる状況を受け入れた。
出かける用意を済ませた時には心の準備が出来ているのだ。
今しがた、マーレットはバンドンやグロリアスの所へ電話を掛けた。
「今回は悪くない判決結果が出るかもしれないんじゃ。余計な心配せんで、気楽な思いで法廷に臨むとイイ」
電話口の向こうで恩師バンドンはこう、アドバイスをしてくれた。
グロリアスの方もだ。
「きっと、大丈夫だと思うわよ。落ち着いた気持ちで頑張って来てね」と、優しく言葉を掛けてくれた。
無実になるのを希望をしているのが、マーレットの正直な気持ち。
そこまでは許されなくても、良い判決結果が出る事を願うだけである。
魔王室から特別に出された専用の馬車に乗り込んだマーレット。
日が西に傾く頃に自宅を出発した。
しばらくして、残った署員の一部がエルーナ王女の命令で屋敷内に浸入し、宝物になりそうな品々を物色して持ち出してしまうなんてマーレットには知る由もない。
更に屋敷を放火されてしまう事をもである。
近所に住む知り合いから連絡を受けてグロリアスが飛んで来た時には既に、マーレットの屋敷は完全に炎に包まれていた。
空を飛び始めた馬車は進路を北に向きを変えた。
窓越しから外の景色を、1人見入るマーレットは昔の事を思い浮かべた。
地獄の刑務城で10年から11年に及ぶ服役を終えたマーレットは乞食と変わらないぐらいの格好で娑婆へと出て来た。
背も小さくなり、精神的にも弱くなってしまったのだった。
魔導師を現役でやっていた時の身の回りの品々は殆ど処分されてしまっている。
残っているのは、服役を済ませて釈放された時にもそのまま着ていたボロボロの囚人服上下だけである。
マーレットはすぐに、北の魔界を追放されて母国のフリーラムランドへ強制送還になってしまったのだった。
あれから10年近く…、
マーレットは再び北の魔界へと足を踏み入れつつ有った。
今度はキチンとした身なりで法廷に再び立つのだ。
何だか妙な気分である。
以前の時以上に魔力が使いこなせるようになっているし、背中に付いていた魔の焼印も跡形も無く剥がれて落ちているから身分的には少しはマシな扱いをされてはいる。
でも何かしら、妙に不安が込み上げて来る。
「魔導師たる者、どんな状況でも常に落ち着いて堂々としていねばならん」
恩師のバンドンからよく、こんなセリフを聞かされていたから下手な動揺は禁物だと分かっている。 だけどそれでも、不安が込み上げて来るから…
「まだまだ、私も修行が足りないわねぇ」とこう、自分を戒めしのるだった。
心の奥底から込み上げて来る不安…。
案の定、それが形となって現われてしまった。
フリーラムランドの国境を越えて、北の魔界の空の国境検問所を通過した時だった。
馬車は或る地点で停車し、署員の1人がドアを開けた。
「ブラウンさん、ちょっとお手数ですが…馬車を下りてもらえませんか?」
「どうしたのですか?」
「臨時の入国手続きを行ないます。貴女も手続きに立ち会って下さい」
「分かりました」
マーレットは罠とも知らず、馬車を下りた。
そこは辺りが深い霧に覆われた何も無い場所である。
本当にココで入国手続きを?
こうすぐに疑問に感じたマーレットは辺りを見回した。
背中に強い衝撃を感じたのはこの直後だった!
かなり熱い衝撃である!
マーレットにはこの衝撃が何で有るかは、すぐに認識出来た。
判決を受けて地獄の刑務城に入れられる寸前、背中に魔の焼印を押された時に受けた衝撃と同じだからだ。
今度はかなり、強力なモノを押されたとマーレットは実感した。
全身の力が抜けて行き、身体を保護していた魔力が次第に薄れて行くのが感じられる。
何で又、魔の焼印を!?
マーレットはそう、疑問を呈したけれど考える間も無かった。
目がクラクラし始め、意識が遠のいて行くのだから。そして…
「うっしゃー! 気を失ったー!」
「よーし! 首輪と手錠と足枷を付けたら、檻に入れちまおうぜ!」
「待て待て。その前に身ぐるみ剥いでスッポンポンにしなきゃーな」
「そうだな」
馬車の運行を担当していたジャークとズルツァーは意識を失ったマーレットを拘束する作業に取り掛かった。
続きます。




