天国へ…
28話目です。
ため息付くマーレットとグロリアス。
辺りは再び静寂に包まれた。
そろそろ日も暮れようとしている。
奇怪な現象を2人が目の当たりにするのはこの時である。
ミャミャー…
ミャミャー…
「え?」
グロリアスは急に耳を澄まし、辺りを見回した。
「どうしたのグロリアス?」
「今、声がしなかった?」
「声?」
マーレットは息を殺し、耳を澄ましてみる。
ミャミャー…
ミャミャー…、
チャビチィー…
ミャミャー…
オッピャーイ…、オッピャーイ…
なるほど!
確かに声が聞こえて来る。
「聞こえるでしょう!?」
「この声…」
マーレットは厳しい眼差しで辺りを見回し続けた。
「子供人形たちの声だよね!?」
そこでマーレットは、ほうきを手にして頭上でブンブンと振り回した。
「ラージスタ、アーギェル、ミストレイル、イスターン!」と大きな声で呪文を唱えると、マーレットはほうきを地面に指し示した。
青白い大きな輪がフワッと現われた。
2人が立っている場所を中心に大きな魔方陣が形成されたのだ。
「何をするの?」
グロリアスが話しかけるが、マーレットの方は魔法使いに集中して返事をしない。
ほうきを片手に、マーレットは両手を掲げて叫ぶ。
「この地にさ迷う小さな死霊たちよ! 出でよ! 我の前に姿を見せよ!」
するとだ。
マーレットやグロリアスの前にたくさんの青白い光の塊がフワリと現われたではないか!
それぞれ、小さな人形の形に形成されハッキリと姿を現した。
「子供人形たち!?」
姿を見せた半透明の子供人形たちを目の当たりにして、グロリアスは我を忘れて見つめる。
マーレットのウチでエリザベル・ママと一緒に暮らしていた子供人形たちである。
ミャミャー…、ミャミャー…、ミャミャー、
悲しそうな表情で空を見上げている子供人形の死霊たち。
ミャミャー…、何処二、イルニョー(いるのー)? ミャミャー! ウィアーンアーン!
ウィアン! ウィアン!
中には泣き出す子供もいる。
ミャーミャー!
ミャーミャー!
オッピャーイ!
オッピャーイ!
チュッチュー!
チュッチュー!
チュッチュー!
ウィアン!
ウィアン!
ミャミャー!
キディである。
死霊になった今でも、エリザベル・ママのオッパイが忘れらないようだ。
マーレットは複雑な思いで小さな死霊たちを見入っていた。
「ココに投げ落とされたから、無念の思いでこの地にさ迷っているのね!」
グロリアスはソッとマーレットに話しかける。
「ねぇ、何とか…このコたちを成仏させる事は出来ないの?」
「死霊を成仏させるなんて。やった事がないから方法が分からないわ」
「そこを何として出来ない?」
「うーん」
そこへ…、
「ブラウンさん、アナタなら出来るハズよ!」
背後からの女性の声である。ハッと振り返ったグロリアスが悲鳴を上げる。
振り返ったマーレットの目に映ったのは…
「主任!?」
そこには立っていたのは、半透明のスザンヌ主任である。
同じく半透明の子供人形を抱いたままジッと2人を見ているのだ。
「久しぶりねブラウンさん」
「しゅ…、主任…」
人間の死霊を目の当たりにして、グロリアスが恐怖に震えた。
マーレットの方はとても落ち着いていて、ソッと主任に歩み寄って行く。
「主任も同じように…」
「私も231号に殺されてから…、ずっと暗闇の中でさ迷っているの」
「その胸に抱いている子供人形は?」
「ルラよ。このコの場合は別の人間に殺されたんだけどね」
ルラがマーレットに声を掛けた。
仲間の魂を救って欲しいと訴える涙目のルラ。
みんな、この地でずっとさ迷っていると言うのだ。
「ミンニャ(みんな)ヲ、タチュケチェ(助けて)! ミンニャヲ、タチュケチェ!」
ルラの切なる願いである。
マーレットはしばし考え、思い切って決断をした。
子供人形たちの魂を救済しようと言うのだ。
地縛を解き、自由にして天国へと誘う(いざなう)のだ。
だがやり方が分からない。悪霊を消滅させられても、死霊を救うなんて出来ないからだ。
「ど、どうしたイイのかしら?」と戸惑うマーレット。
スザンヌ主任は何のためらいもなく言う。
「最強の魔力を誇るアナタなら、難なく出来るハズよ」
「私が?」
「今まで色んな魔力を習得してモノにし、更にパワーアップさせて使いこなして来たんでしょう? 持っているパワーを結集して発揮すれば出来るハズです。十分に祈って」
真剣な眼差しで、スザンヌ主任はマーレットを見つめる。
マーレットの方はジッとスザンヌ主任を見つめ大きくうなずいた。
両手を合わせ目を閉じたマーレット。
…魔の力を持って、さ迷える魂たちを救わせたまえ…
静かな口調で唱えた呪文である。
そして、目を開け強い口調で言葉を発した。
「子供たちみんな! コッチに注目しなさい!」
「!?」
子供人形たちが一斉にマーレットの方に振り向いた。
「今から! アナタたちを解放してあげるわ!」
「ミャミャー!? ミャミャー!?」
悲しげな目でマーレットを見据える子供人形たち。その中の1体…リーズルが尋ねる。
「ミャミャハ、何処二、イリュニョー? ワチャチィチャチィ(わたしたち)、シュテリャレチャニョー(捨てられたのー)?」
マーレットは包み隠さず、全てを教えた。
「エリザベル・ママはもう、どこにもいないわ。アナタたちを捨てて、サッサと自分の国へ帰ってしまったの」
「エー!?」
茫然となる子供人形。
「アナタたちが大好きなママはもう、どこにいないのよ…」
厳しい表情のマーレットの目にも涙が溢れている。
「…だから、アナタたちは…、自分たちの力で生きて行くしかないわ。これからは天国で、自分たち力を合わせて幸せに暮らしなさい。私が…、アナタたちを天国へ誘ってあげます…」
マーレットはこう言って、両手を大きく広げた。
さ迷える死霊たちよ! 天に召されー!
魔方陣の光が青から金色に変色した。
輪の周囲から強烈な光が発せられ、子供人形たちを包み込む。
30体の小さな人形たちは金色の光に包まれ、ゆっくりと上昇を始めた。
スザンヌ主任に抱かれていたルラも一緒に昇って行く。
悲しげな表情をしていた子供人形たちに笑顔が戻った。
「マーレット様ぁー! マーレット様ぁー!」
ハッキリとした口調でマーレットに手を振る子供人形たち。
マーレットとグロリアスは天に向かって大きく手を振った。
さよなら…
可愛い子供たち…。
子供人形たちは空へ空へと昇って行き…
やがて大きな光に包まれた。
空の方では天界からの使いの聖霊が待ち構えていた。
美しい姿をした女性である。
聖霊は子供人形たちを誘導しながら天へと昇って行く。
子供たちは…
天国へと旅立って行った。
残ったのは、スザンヌ主任だ。
「ありがとうブラウンさん」
スザンヌ主任に笑顔が戻った。
そこへ光に金色の光に包まれた1人の女性が下りて来た。
子供人形たちを連れて昇天した聖霊とは別の聖霊である。
聖霊はおもむろに金色のファイルを取り出して開き、羽根ペンで何やら記入し始めた。
マーレットもグロリアスも何も言わず、聖霊の行動を見ている。
記入を済ませ、聖霊はファイルを閉じるとスザンヌ主任に一礼して言葉を掛けた。
「私は天上界から神の命令で、アナタを迎えに来た者です。スザンヌ=ボレロさん、準備はよろしいですか?」
「はい」と言って、スザンヌも頭を下げる。
「では、参りましょう」
聖霊は空に向かって両手を掲げた。
マーレットが指をパチンと鳴らすと、魔方陣はフワッと消えた。
同時に空から一条に金色の光が差し込んで来て、聖霊とスザンヌ主任を包み込む。
スザンヌ主任はマーレットとグロリアスの2人に深く頭を下げ、聖霊と共に天に昇って行ったのである。
続きます。




