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私は今でも魔導師?

25話目です。

 マーレットはグロリアスと一緒にバンドン=ガルスの店に来ていた。


 フリーラムランドに帰国してからは、マーレットはバンドンとは一度も会ってはいないし電話や手紙のやり取りさえもしていない。

 バンドンがメサイアン魔法学校を退職して行方知れずになっていたから、連絡を取る方法さえ分からなくなっていたのだ。


 マーレットの方も知人から会社の経営を任されて公私共に忙しくなってしまった。

 慌しい日々を過ごしているうちに、恩師の事を忘れてしまっていたのだった。


 その恩師であるバンドンと久しぶりに会う事になって、最初はマーレットは躊躇していた。

 魔導士…


 特に指導的な立場となる魔導師の身分で有りながら、あれだけの大きな事件を引き起こした自分。

 学び舎の看板にキズを付け、直接的は無いけれど恩師にも迷惑を掛けている。

 そんな恥すべき自らが恩師に顔を見せるなんて、畏れ多く…とても出来ない。

 …マーレットはこう、自分を責めてしまったのだった。


 では実際に、恩師と会ってみるとどうだろう?

 バンドンは教え子の1人であったマーレット=ブラウンの元気な姿を見てとても喜んでくれた。

 36号事件の事での怒りの気持ちなんて、微塵もカケラも抱いてはいない。

 あの地獄の刑務城での想像絶する服役生活や、その後の動向の方がむしろ気になっていたのだった。 フリーラムランドに帰国してからの様子や、人間界で暮らすエルーナ王女との共同生活での悲惨さをグロリアスから聞かされているから尚更である。


 早めに店じまいをしたバンドンは応接室でお茶しながらマーレットやグロリアスと語り合った。

「マーレットも色々と大変じゃのぅ? 向こうでは極悪な環境の刑務城で暮らしたり、コッチに帰って来てからは今度はとんでも無い凶暴人形の面倒を見る羽目になってしまっておる」

「運が悪いって言うか、36号事件を起した報いって言うか、ホント…災難続きです」とマーレット。

「じゃろうな。君の辛い立場に同情するよ」

 温かいジャスミン茶を一口すすったマーレットは日頃、不思議がっている事をバンドンに話し聞かせた。

「エリザベル…、あのエルーナ王女に暴行や虐待を受けていた時…、私は死にそうになるぐらい酷いケガばかり負っていました」

「ほぼ毎日、酷い仕打ちを受けていたみたいじゃのぅ?」

「ハイ」

「しかし、君の身体をこうして見る限りは…何ともないようじゃが…」

「それ! それなんです!」

「ううん?」

 興奮し出し、身を乗り出して来たマーレットの態度にバンドンは驚く。

「暴行受けた直後は血だらけ状態になってしまっていても…、時間が経つにつれて…、段々と身体が不思議と自己回復して行く事が多かったんです」

「どのくらいの割り合いでか?」

「ほぼ、百㌫ぐらいに」

「君なりにどう、説明出来る?」

「金色の光が身体を包んで、傷口や患部を癒してくれた。…って言ったらイイでしょうか?」


 2人の言葉のやり取りの合間を縫ってグロリアスが割って入る。

「そう言えばこの前、マーレットは相当頭に来て…あの凶暴人形をギャフンと言わせたもんね?

 それと、キズモン…何とか言う怪物の集団を追っ払っちゃったし」

「…」

 バンドンはジッとマーレットの顔を見つめながら頭の中を整理した。


 そして、テストを試みてみる事を考えた。

 マーレットを回れ右の状態で立たせてみる。

 さっそく、バンドンはテーブルの上に置いている空になったグラスを手にした。

「マーレット」と言って、マーレット目がけてグラスを投げてみる。

 当然、相手の顔とかに当たって粉々に割れてしまう。

 ところが、グラスは当たるどころか空中で静止しちゃった。

 マーレットが振り向きざま咄嗟の判断で片手をかざし、グラスの動きを止めたのだ。

 口をあんぐりと開け、眼をパチパチさせるグロリアスの前でゆっくりとグラスをテーブルに置いたマーレット。

 もちろん手は使わず、パワーによってグラスを移動させた。


 今度はバンドン…


 近くのカウンターに飾ってある花瓶を手に取って高く放り投げてみた!

 花瓶は宙を舞い、生けていた花や中の水が飛び散ってしまう!

 マーレットは素早く両手をかざし、それらを空中で静止させた。

「ルスターン!」と言う呪文を唱え、先ずは花瓶をゆっくりと元の場所に着地させたマーレット。

 すると、飛沫の状態で宙に静止していた水がグルグルと渦を描きながら花瓶へと注がれて行く。 

 今度は同じように花が渦を描きながら花瓶へとスポッと差し込まれた。

 バンドンはすぐ近くの方を指し示した。

 ガラス製の石油ランプが陳列棚に飾ってあるのだ。

 数にして10台。どれも年代モノの骨董品ばかりである。

「火を灯してみぃ」とバンドン。

「ファイア!」

 こんな呪文を発すると同時に片手をかざすマーレット。

 1台のランプのガラス内の芯に火が灯り、ほんわかと明るくなった。

 他のランプも順に火が灯されて行く。

 これにはグロリアスは思わず拍手!


 1匹のネズミが部屋に駆け込んで来た。

 バンドンが他の生き物に変えるよう指示すると、マーレットは聞き返す間も無くネズミに向かって手をかざした。

 ネズミはその場で立ち止まり、マーレットと目を合わせた。

 どこからともなく、クラシックの音楽が流れて来る。ネズミは後ろ足で立ち上がり、何とその場でワルツを器用に踊り始めたではないか。

 1人ワルツだが、まあとてもお上手だ事。

 バンドンから1本のスティックを受け取ったマーレット。

 バトン演技のようにスティックをグルグルと回し…

「チェンジ!」と言う呪文を掛けて杖を差し出す。

 するとどうだ?


 ドロン!


 あーら不思議!

 ネズミは何と、艶やかな毛並みをしたフサフサの白い猫に変身したではないか!

「ミャーン!」

 猫は辺りをキョロキョロし、ゆっくりと歩き始める。

 猫を抱き上げたバンドンは人差し指を立て、チッチと左右に動かした。

「さすがじゃのぅ。魔力の方は、衰えてはおらんわい」と嬉しそうな表情を見せるバンドン。

 気を落ち着かせ、我に返ったマーレットは言葉を返す。

「いったいどうして、魔力が使えたんでしょう? ホント、不思議です」

「別に不思議な事ではない。君が魔導師だから、魔力が使えるだけの話しじゃよ」

「でも私は…36号事件を起して処罰を受け、魔導師の資格を剥奪されているハズですけど?」

「単に魔力ネックレスを没収されて、登録も抹消されただけの話しじゃ。自動車の運転は出来ても、免許を失って乗れないのと同じ考えと言ったらイイかのぅ?」

「資格が無くても、魔力が使えるって事ですか?」

「メサイアン魔法学校で学んで行くうちに、魔力の源となるパワー自体が君の身体の霊細胞の奥の奥まで染み付いた。だから、魔力ネックレスを付けなくても魔力は使えるってワケじゃ」

「そんな事って有り得る事なのでしょうか?」

「魔法って言うのは奥が深いからのぅ。ワシらでも理解出来ない事がイッパイ有るんじゃ。

 君のように身体そのものが、パワーの源になってしまう事も不思議ではなかろう」

「ハァ…」

 不思議ではなかろうと説明されても、マーレットは理解出来ないでいた。

 ここでグロリアスは魔の焼印の事を頭に思い浮かべた。

「マーレット、ちょっと後ろ向いてくれる?」

「え? 後ろ?」

 立ち上がるマーレット。

「例の焼印…、どうなっているのか見たいの」

「っそう」

 グロリアスに促されるまま、マーレットは後ろを向き上着の背中をまくり上げようとした。

 ちょっとやりづらいから、グロリアスが手伝ってくれる。

 マーレットの背中の肌があらわになった。

「あ、無くなってる!」とグロリアスが驚きの声を上げた。

 マーレットが反応を見せた。

「焼印が消えているの?」

 グロリアスは向かって右側の肩甲骨を手で触りながら答える。

「すっかり、キレイに無くなっているわよ!」

 マーレットの反応は素早い。不思議に思っていた事の理由が分かったのだ。

「そーっか! だから、エリザベルへの怒りのボルテージが上がっても身体には何の異常も出なかったんだ! 大体なら背中がピリピリ痛んだり、頭の中がモヤモヤしたりボーっとなったりするんだけどね!」

「同時に魔法も使えるようになったってワケねぇ。でもどうして、焼印が消えちゃったのかな?」

「分からないわねぇ」とマーレット。

 バンドンが声を掛ける。

「36号事件に関して、北の魔界で何らかの動きが有ったかもしれんのぅ」

「何らかの動き…ですか?」

 マーレットとグロリアスがバンドンを見据える。


 そこへ誰かが顔を見せた。

「再び、法廷が開かれる予定になっているんですよ」と言う男性の声。

 その人物が姿を見せた時、バンドンやマーレットが驚きの声を上げる。

「ビュルトじゃなーい!」

 真っ先に声を上げたのはマーレット。

「珍しいのぅ、君がココへ来るとは」

「ガルス先生も、ブラウン先輩もお元気で何よりです」

 ビュルトはバンドンやマーレットと握手を交わした。

「オーフェンは元気?」とマーレット。

「元気ですよ。彼もブラウン先輩の事をとても気にしています」

 魔王室で側近の仕事をしているビュルトも、メサイアン魔法学校の卒業生でありマーレットの後輩でも有る。

 使用人でイケメン狼男のオーフェンも同じで、ビュルトとは親しい友人の仲なのだ。

 でも最初から仲が良かったのではない。



 出会った当初…



 学校に入学した当初はお互い共に面識さえも無かった。


 それから1年ぐらい経っての頃だっただろうか?

 校内で個人の貴重品を巡ってちょっとした盗難騒動が起きた。

 この時、オーフェンが疑いを掛けられ退学処分を課せられる状態まで追い詰められてしまっている。 気持ち的にすっかり落ち込んでいたオーフェンに救いの手を差し伸べたのがマーレットだった。

 人一倍、正義感の強いマーレットはオーフェンの疑いを解こうと1人で探偵をやり真犯人を見つけ出した。

 学年でボス的な存在であり、図体の大きな暴れん坊のグロスと言う男がそうだ。

 動機はコレが又単純で、考える事が子供っぽい。

 教師から口喧しく怒られてムシャクシャした気分になっていたグロスは、憂さ晴らしの為に貴重品を秘密の場所に隠していたと自白した。

 ほんのイタズラ心でやった行為だが、結果的には学校中を揺るがす騒動になろうとはさすがにグロスも動揺を隠し切れない。

 回りから滅茶苦茶に非難を浴びせられたグロスは逆ギレしてしまい、校内で暴れてしまった。

 その暴れん坊を止めに入ったのがビュルトだった。

 体力に自信の有るビュルトはグロスを締め上げようとしたものの、相手は図体が大きくパワーが有るから簡単に制止する事は出来なかった。

 終始、相手からボコボコされっぱなしと言う有り様なのだ。

 怒りが頂点に達したグロスはビュルトに襲い掛かろうとした。

 そこへ止めに助太刀に入ったのがオーフェンとマーレットだった。

 共に成績上位の優秀な生徒であり、喧嘩の方もかなりの自信が有る。

 2人は巧みな連携プレーでグロスをノックダウンさせ、ビュルトを助けた。

 この事件をキッカケに3人は親しくなったと言うワケである。


 仲良しの後輩と会えてマーレットも嬉しさ百倍である。

「ビュルトと又、会えて嬉しいわ」

「自分も、ブラウン先輩にお会い出来て嬉しい限りです」

 バンドンが質問した。

「君がフリーラムランドに来るなんて、珍しいのぅ?」

「エルーナ王女がこの国にいらっしゃった事が分かって、間王女様の要請で迎えに来たのです」

「エリザベル…、エルーナ王女は国へ帰るのね?」とマーレット。

「既に昨日の夕方、先に帰って頂きましたけどね。私は後の処理を片付ける為に、この国に残っているのです」

 再びバンドンが話しかける。

「あのジャジャ馬王女がどのようにしてフリーラムランド入りしたか知らんが、出入国の手続きが色々と面倒なんじゃろ?」

「本来ならですね。でも、この国の警察の方々がキチンと面倒見てくれましたから。自分の方は大助かりです」

「ほぉ」

「それからブラウン先輩、36号事件に関して…二度目の裁判が近々予定される模様です」

 36号事件と言う言葉が出て、マーレットの表情が固くなった。

「二度目の裁判って?」

「事件に関して新たなる証言が出て来たようで、魔女王様の要請で再び法廷が開かれる事になったのです」

「二度目の法廷で、マーレットはどんな処分が下されるんじゃろう?」とバンドン。

「11年近くも続いた刑務城での服役が足りなくて…、無期懲役か死刑になるのかしら?」

 大胆な事を口走った事にグロリアスが驚き、思わずマーレットの背中を叩く。

「バーッカ! 縁起でも無い事を、言うんじゃないわよ! そんな事になるハズ無いって!」

「分からないわよ? 私の罪って、相当な深さのレベルなんだから」

「だからと言って! 無期懲役とか死刑とか言うのを、軽がるしく口にしないの!」

 グロリアスの嫌な気持ちを解きほぐすように、ビュルトが意外な事を説明した。

「死刑になるかもと言う声もチラホラですけど…、場合によっては逆に無罪になる可能性も有ると言う声も有りますよ」

 マーレットやグロリアス、バンドンの視線がビュルトに集中する。

「無罪になる可能性とは、どう言う事じゃ?」

「まだハッキリは分かりませんけど…、ソフィア王女の小さなお嬢様たちを殺害した犯人は別にいるみたいだって言う報告が出ているみたいなんです」



  犯人が別にいる…


 マーレットはビュルトの報告を聞いて疑うような気持ちになった。

「私はあの時…、酒に酔った状態で王女の間で寝ていたのよ。そして目を覚まして気付いた時には、部屋の中は滅茶苦茶な状態だったし子供人形たちは殺された後だったわ」

 ここでバンドンがマーレットに突っ込みを入れる。

「君は酔った勢いで部屋の中を荒らし、子供たちを殺してしまったと言うのじゃろ?」

「そうです。あの時の私の状態なら、自分の手で犯行を行なったと今でも思っております」

「でもマーレットが殺ったって言う証拠でも有るの?」

 こう聞き返したのはグロリアスである。

「証拠は…無いけど…。何度も言うけど…、犯行の時間帯に現場の部屋で寝ていた私がいたから…」

「間違い無いって思ってるんだ?」とグロリアス。

「そうよ。そうだけど…。他に犯人がいるって言うのが気になるわねぇ」

 予想だにしなかった新たなる証言にマーレットは当時の記憶が錯綜して頭が混乱しそうになった。

 ココで色々と思いを馳せても益々、頭が混乱してしまうばかりだ。

 ビュルトが会話を締めくくるようにして話しを進めた。

「真相が明らかになるのは法廷が再び開かれる時。きっと驚くべき情報が出るでしょう。

 ブラウン先輩にとって良い裁判になる事を、私は大いに期待したいと思いますよ」

 マーレットが思い出したように質問をぶつける。

「そう言えばビュルト、私の背中に付いていた魔の焼印がキレイに消えて無くなっているんだけど。今度の法廷と何か関係有るのかしら?」

「魔の焼印が消えるって事は…、罪が消えたと言う証になると伺っております」

「じゃあ今度の法廷では、ビュルトの希望が叶えられるって事かしら?」

「そうなる事を、祈るだけです」


 続きます。

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