ソフィア王女の悲しみ
17話目です。
北の魔界…
魔女王バルニラの娘人形ソフィアは多くの子供人形たちに囲まれて幸せだった。
子供人形の殆どが、自身を幼くしたような小さな(エリザベルの子供人形たちと同じ15㌢ぐらい)可愛い女の子ばかり。
パッチリとした目や凛とした口元が可愛いく、いつも笑顔を絶やさなかったのが自慢だった。
一生懸命、勉強し…
一生懸命、遊ぶ…。
子供人形たちにとって毎日が充実した日々だったのをソフィアは今でも思い出す。
小さい体ながら王女としての風格を持っていた麗しい姿が目に焼き付いているのだ。
時々、大きな行事が有る時は一般市民の前で我が子を見せる時が有った。
多くの市民たちが子供人形…小さな王女様たちの愛らしい姿に感動し、心を弾ませていたものだった。
小さな王女様たち1体1体が笑顔を見せながら、可愛い手を振る。
すると、どうだろう?
拍手や歓声が湧き上がって来るではないか。
どんな時でも小さな王女様たちが居ると、場が和み大いに盛り上がるのだった。
普段、子供人形たちは王女の間でソフィア・ママと生活していた。
魔王族の家系だから、それなりの厳しさも有る。
厳格な雰囲気の中で規則正しい生活を送るのだ。
でも優しいママといつも一緒だったから、子供人形たちは楽しく暮らしていた。
やがて、ソフィア・ママと子供人形たちの別れの時が訪れた。
誰もが予想だにしなかった、突然の到来だった。
街で夜でも催されている祭見物から戻って来たソフィア王女は、目の前の光景に絶句した。
王女の間が荒らされていたのだ。
家具は倒れ、足の踏み場も無い状態になっている。
物が散乱しているフロアの所々に我が子たちの変わり果てた姿が有った。
完全に押し潰されて原型を留めていない子やバラバラに引き裂かれている子。
鋭い鉄の棒で身体を串刺しにされている子等々…
見るも無残に殺された我が子たちの姿がそこに有ったのだ。
もうどの子も、起き上がる事も、目を開ける事も、喋る事もなかった。
茫然と立ち尽くす側近たちを横目に、ソフィア・ママはその場に座り込み狂ったように泣き崩れた。 頭を抱え込んで絶叫泣きするソフィア・ママ。
あれから十数年の年月が絶った。
多くの遺体が眠るロルゴダの丘聖堂での法要が済み、ソフィア王女は貴賓室で落ち着いていた。
今日は可愛い子供人形たちの法要が営まれたのだ。
久しぶりに我が子たちの遺体に触れ、ソフィア王女は感無量である。
亡くなってから長い年月が絶っても、子供人形たちへの思いは消える事は無かった。
時折、寂しさが込み上げて来る事も有る。
寝床で涙する事だって有るのだった。
「いつまでも…、悲しんではイケないわ」
野太い女性の声でソフィア王女に声を掛ける1人の人物。
鉄製のマスクをずっと被ったままで、フード付きの黒いローブを身にまとっている魔女王バルニラである。
「ゴメンなさい、お母様。死んだ子供たちの事を忘れようと思うんだけど…、どうしても…」
悲しみに暮れる娘を慰めるようにして、バルニラはソフィア王女の頬を優しく撫でる。
「忘れらないのよね。お前の辛い気持ちは分かるわ。でもいつまでも、悲しんでばかりだと…、天国に行った子供たちは喜ばないのよ。あの子たちの分まで強く生きなきゃ」
「そうね」
そこへスーツ姿の1人の男が入って来た。
使用人のオーフェンである。
狼男の姿ながら若くてイケメンで有り、魔王族に対しては昔から忠誠を尽くしていた頼もしい男である。
「魔女王様、報告がございます」
頬を撫でていた手を下ろし、オーフェンに振り向いたバルニラ。
「何です?」
「例の36号事件の再調査が予定通り、始まりました」
「そう! 予定通り始まったのねー!?」
マスクしているから、バルニラの素顔の表情は分からない。
だが、弾んだ声で喋ったから嬉しい気持ちになっている事は理解出来る。
ソフィアがオーフェンに尋ねる。
「36号事件って言えば、私の可愛い子供たちが惨殺された事件です。再調査って何ですか?」
オーフェンは持参しているファイルを開き、再調査の事を説明し始めた。
「一ヶ月前に魔宮殿で働く一部の者たちが、魔女王様に訴えを起しました。36号事件を再調査を行なって欲しいと強く要望して来たのです」
「何の為に?」
「その者に話しでは、マーレット=ブラウン様が犯人だとは思えないって言うのです」
「でも実際には、マーレット自らが犯行を認めていますけど…」
今度はバルニラが説明を始める。
「私に訴え来た者たちはね、メサイアン魔法学校でマーレットと一緒に学んでいた仲間たちなの。
マーレットの事はよく知っているから、あの36号事件に関して強い疑問を抱いているらしいわ。
とても真面目で誠実なマーレットが酔ったとは言え、あんな大胆な事をするハズがない。
誰かによって、嵌められたんじゃないかってね」
「別に、犯人がいるって事?」
再びオーフェンが説明する。
「可能性は大です。事件が起きた時間帯は、マーレットは自分の部屋でお休みになっていたと言う証言も有りますから」
オーフェンやバルニラの話しを聞いてソフィアは罪悪感を抱き始めた。
「別に犯人がいるとしたら…、私たちは今までずっとマーレットを疑って来たって事になるわ。
私ったら、何て事を! あの人、今でも辛い思いをしているでしょうね」と悲しむソフィア。
オーフェンがなだめすかす。
「王女様、お気を確かに。この私も、同じ気持ちを抱いております」
バルニラが口を開く。
「真相が明らかになったら、もう一度法廷を開いて欲しいわね。今度は私も傍聴したいから」
「裁判所の方ではいつでも開けるよう、準備を整えているようです」
バルニラは言う。
「マーレットが無実になる事を祈るだけだわ…」
「私も、そう願っております」とオーフェン。
ソフィアが気になる事をオーフェンに尋ねた。
「妹は…、エルーナは見つかったの?」
「フリーラムランドで生活していると言う報告が入っております」
「まぁ、人間の世界に」
バルニラが会話に入る。
「この国を勝手に出て、フリーラムランドに無断で入る事は魔王族でも許されないハズ。あの子はいったい」
「誰かに拉致されて、フリーラムランドに連れて行かれたようだと言う報告が入っておるのですが…」
「本当かしら? あの子の言う事は、信用出来ないわね」
エルーナもソフィアと同じように、バルニラにとっては大切な娘人形である。
だが今まで回りに迷惑を掛けて散々、手を焼いて来ている困り者でも有る。
幾度もなく嘘を付き、王女として相応しくない行動を取って来ているのだ。
拉致されて人間の国へ連れて行かれたと言うけど、果たしてどこまで本当の事やら…
人形保護施設内は惨憺たる状況になっていた。
辺り一面、血だらけである。
施設職員たちの惨殺体が至る所に転がり、うめき声が響いて来る。
「オーホホホホ!」
不気味な高笑いをしながら進むエリザベル。
右手には厨房から持ち出した包丁を持ち、左手には背後から襲撃して包丁で切断したミミナの生首を髪の毛掴んでぶら下げている。
「ミャハハハハ!」
「ワーイ! ワーイ!」
後ろから子供人形たちがハシャギながらエリザベル・ママの後を付いて来ていた。
「ミャーミャー!」
懐でオッパイをしゃぶっていたキディが声を上げた。
立ち止まって懐を覗くエリザベル・ママ。
「キディ、どうしたの?」
「オウチヘ、キャエリ(帰り)チャーイ(たーい)」と言ってキディは泣き出した。
「泣かないでキディ、泣かないで」
エリザベル・ママは涙を流しながらキディをあやす。
「キャエリチャーイ! キャエリチャーイ!」
何と他の子供人形たちも駄々をこねて泣き出したではないか。
座り込み、足をバタバタさせながら激しく泣く子もいる。
ずっと狭い部屋にいたから、家に帰りたくて我慢出来ないのだ。
「みんな! 泣かないで! 泣かないで!」
「オウチ、イチュ(いつ)、キャエレリュニョ(帰れるの)?」
質問したのはミュミュである。エリザベルは優しいママの笑顔を見せながら言う。
「もうすぐよ、もうすぐ。帰ったら、ステキなパーティを開きましょう」
途端に子供人形たちから歓声が上がった。
「ミャーイ! ピャーチィー(パーティ)! ピャーチィー!」
この時だ。
「何がステキなパーティを開きましょうだ!? ウチへ帰るだと!? ふざけるな!」
背後からの声にエリザベルは反応し、後ろを振り返った。
「お前は、確か…」
そこにいたのはミッシェルこと41号と、イメルダこと47号の人形アベックである。
41号はちょっとヤンキーっぽい態度でエリザベルを見下す。
「久しぶりだなー231号。前に比べて、ますます凶暴になったのかなー?」
41号をを睨むエリザベル。
「凶暴人形って、誰?」
怒りの反応に41号はニヤリと笑みを見せた。
「誰かって? 君しかいないだろう? 他に誰がいる?」
するとどうだ?
エリザベルはカッとなり、ミミナの生首を41号目がけて投げ付けた。
慌てて除ける41号。
「キャー!」
床に転げ落ちた生首を目の当たりにして47号が悲鳴を上げた。
「無礼者! 私が誰で有るかを忘れたの!? 北の魔界を統治する魔女王バルニラの聖なる娘・エルーナ王女よ! 忘れたのか!?」
「いちいち説明しなくても、覚えているよ」と、41号は強気の態度。
「覚えているのなら、どうしてそんな無礼な態度を取る!? 王女の御前だ! 控えよ!」
「ココはおとぎの世界の宮殿じゃないんだぜ。王女もクソもないだろう?」
「お前はーッ!」
ますます、怒りをあらわにしたエリザベル。
「その王女とも有ろう君が! 平気で暴力振るったり、人を殺したりすのか!?」
「なーにぃ!?」
「何て事をしたんだ君は!? 施設の関係者や、僕たち人形の仲間を無差別に殺してしまった! 人間でもやらない殺戮行為を、君は平気でやったんだ!」
47号が41号を制止し始めた。
「だめよミッシェル! 231号をあまり怒らせると、アナタまで殺されちゃうわ!」
怯える47号を41号は抱き寄せる。
エリザベルは悔しげに41号に訴える。
「私の可愛い子供が、人間に殺されたのよ! この辛さ、お前に分かるの!?」
「そんな事、殺人鬼の君が言う資格ないだろう? 昔、この施設で小さな子供たちを殺した事が有る君がだ」
「そんなの、私は知らないわ」
エリザベルはこの場を立ち去ろうとした。
すかさず、41号は声を掛ける。
「悪い行為をした事を君は全く認めようとはしない! どこまで魂が腐ってるんだ君は!?」
エリザベルは立ち止まり、41号に振り向いた。
そして…
続きます。




