マーレットの北の魔界での話し
14話目です。
バンドン=ガルスとゆっくりと語らうグロリアス。
マーレットに関して、どんな話しを聞かされるのでしょう。
そのマーレット=ブラウンは市内の医療センターに収容されていた。
治療を終えたマーレットは個室のベッドに横になっていた。
エリザベルに暴力を受けている最中に保護されてからは、ずっと昏睡状態に陥ったままである。
命には別状はない。
不思議なのは、あれだけ酷い事をされていても身体には何のキズも損傷も見られないって事だ。
軽い診察を終えた担当医はただただ、首を傾げるばかりである。
病室に誰もいなくなると、マーレットの身体は又同じように金色の光に包まれた。
別室でお茶を飲みながら語り合うグロリアスとバンドン。
バンドン=ガルスは北の魔界の人間である事と、商売の関係でフリーラムランドを初め、様々な国を出入りしている事をグロリアスは知っていた。
今まで直に会う機会が無かったが、今回は知り合いの政府高官を通じてバンドンにアポを取る事が出来たのだった。
バンドンの方は、その政府高官からグロリアスの事を聞かされて、どんな女性なのか興味を抱いていた。
実際に会って語り合ってみると、とても気さくな感じで好感が持てると思った。
バンドンがマーレットの事について語り始める。
「マーレットはのぅ、魔導師になる為に北の魔界に行ってたんじゃ」
「魔導師と言えば、魔力を自由に扱える霊術使いの専門家ですね?」
「そうじゃ」
「どうしてマーレットが魔導師になんかに? 学校を出たら、マーレットは何か商売でも始めて平凡に暮らすと言ってたのに」
「魔導師になるって事を、アンタには言わなかったのか?」
「ハイ、一言も」
ココでバンドンは納得したような表情でうなずいた。
「さすが、マーレットじゃのぅ。意志が固いって言う事を自ら証明しておった。ちゃんと規則を守っておるし立派じゃ」
「え? 規則?」
「魔導師になる為には、色々な約束事や決り事を厳守しなければならないんじゃ。例えばのぅ…
決まり事の1つに、魔導師になる為に北の魔界へ行く事を家族以外は誰にも口外してはならないと言うのが有るんじゃがのぅ。恐らく、マーレットは規則に従って内密にしていたんじゃろう」
「マーレットが魔導師になろうとした理由は何でしょうか?」
「或る事件で両親が犠牲になってしまったのがキッカケのようじゃ」
「或る事件…」
ここでグロリアスは、或る出来事を思い出した。
自分たちが二十歳になる前の年だった。
隣街のレストランで凶悪事件が起きた。
近くで発砲事件を起した犯人グループがレストランに逃げ込んだ挙げ句、客や店員たちを人質に取って店内に立てこもってしまったのだ。
地元警察との激しい銃撃戦の末、犯人グループは店を爆破!
客や店員の大多数が犠牲になってピリオドが打たれたと言う悲惨な事件である。
亡くなった客たちの中には何と、マーレットの両親がいた。
両親2人と一緒に街の劇場で芝居を観た後、レストランで食事を取っている最中にマーレットたちは事件に巻き込まれてしまった。
爆破でマーレット自身は運良く軽傷で済んだものの、愛する両親は共に帰らぬ人となってしまったのだ。
バンドンは説明を続ける。
「大切な家族を救えなかった自分の無力さを強く感じて、大きな力を得ようとしたみたいじゃ」
「マーレットって結構、思い詰める人ですから。それに、一度決めた事は絶対に達成させるって言う強い信念を持ってますしね」
「それは言えるのぅ」
「向こうに行って、マーレットはそれからどうなったんですか? 大きな事件を起して刑務城に入ったって、どう言う事ですか?」
「マーレットはメサイアン魔法学校に入って魔導師の勉強を始めた。そして猛勉強の末、約4年で大方の基本をマスターした。彼女ほど、頭が良くてかなり積極的な女性はいないのぅ。魔導師の能力と腕をメキメキと上げて来て、師範クラスのレベルまで達した。回りが驚くほどの早い向上ぶりじゃ」
「フリーラムの学校時代でも結構、頑張り屋でしたから」
「5年で学校を卒業したマーレットは北の魔界の王宮で働くようになった。メサイアン魔法学校で師範になる為の勉強を続けながらのぅ。まあ、ココまでは全て順調じゃった」
「順調?」
「問題の事件を起すまではのぅ」
「その…、マーレットが起した事件と言うのは?」
「ソフィア王女にはのぅ、子供人形たちがいたんじゃ」
「子供人形?」
バンドンは別の写真を見せた。
「この写真を見てごらん」
写真を見入るグロリアス。
「うわぁー! かーわいいー!」
ソフィア王女と一緒に写っている小さな子供人形たちの姿にグロリアスは笑みを見せた。
数にして約25体。
231号エリザベルの子供人形たちによく似た可愛い女の子ばかりである。
フリルの付いたピンクのドレスを着たオシャレな姿に、グロリアスは心が癒される気持ちになった。
「可愛いじゃろ」
「ホント、可愛いですねぇ」
「このコたちは単にソフィア王女の娘たちでは無く、国の宝でも有るんじゃ。北の魔界に住む者たちの誰もが、このコたちを愛して敬っておった」
「この可愛い子供人形たちと、マーレットが起した事件と何か関係が?」
バンドンは葉巻を吹かし、さえない顔をしながら一息付いた。
「マーレットはのぅ、ソフィア王女の子供たちを全て、殺してしまったんじゃ」
「殺した!?」
グロリアスは一瞬、我が耳を疑った。
マーレットが子供人形を殺してしまった。
まさか!? そんな!
「週末の夜に、ソフィア王女は側近と一緒に街へ出かけた。街では祭りが行なわれていて、夜になっても賑わっていたんじゃ。ソフィア王女が街へ出かけた目的は祭り見物なんじゃがのぅ。その間は、ソフィア王女が子供たちと過ごす王女の間は誰もいなかった。子供たちは皆、留守番でベッドでグッスリ眠っておった。マーレットはのぅ、王女の間に無断で忍び込んで部屋を荒らしたんじゃよ」
「部屋を荒らした!?」
我を忘れ、夢中でバンドンの話しに耳を傾けているグロリアス。
「しかもじゃ、寝ていた子供人形を全て殺してしまった。ベッドごと放り投げた上に足で踏み潰して殺したり、泣きながら逃げ惑う子供を追いかけてバラバラに引き裂いてしまったりしてのぅ。
実際に犯行後の現場を目の当たりにした者の話しでは、部屋中は足の踏み場もない酷い状態で、子供たちの人形死体があちこちに散乱して目を覆いたくなるような惨状だったようじゃ。
祭見物から戻って来たソフィア王女は、変わり果てた姿の子供たちを見て相当なショックを受けたと言う話しじゃよ」
「嘘でしょう!? マーレットがそんな! 大それた事をするハズが!」
「でものぅ、実際に…マーレットは自ら犯行を認めておるんじゃ。あの夜、仲間と酒を飲んで酔っていたマーレットは、いつの間にか王女の間で寝ていた自分に気付いたらしい。どうやら酔った勢いで犯行に及び、そのまま寝込んでしまったんじゃな」
バンドンのリアルな話しに、グロリアスは愕然となって返す言葉が出なくなった。
冗談を言っているのではないかと疑問視したが、相手の深刻な表情を見て嘘で無い事を強く感じるのだった。
「その後は、マーレットはどうなったんですか?」
「すぐに裁判が執り行われてのぅ、マーレットは重罪に科せられた。魔導師の資格は剥奪されて学校は退学。地獄の刑務城に約10年間も入れられてしまった。出所後は即、フリーランドへ強制送還となったのかのぅ?」
「私がマーレットを久しぶりに見た時、別人のような変貌ぶりに驚きました。背はとても低くて、弱々しい感じで。地獄の刑務城にいたからでしょうか?」
「勿論じゃよ。地獄の刑務城は人間社会の刑務所とは比べ物にならないぐらい劣悪な環境になっておるんじゃ。年中、暗くて寒いしのぅ。色んな恐ろしい魔物とかも住んでてとても居れるような場所じゃない。どんな強靭な精神を持つ犯罪者でも3日と持たないし、生きて出られるなんて全く不可能な場所なんじゃよ。しかしマーレットの場合は生まれつき度胸が有ったし、魔導師の修行でかなり鍛えられていたから10年も耐えて来られた。それでも肉体は酷使され生気を吸い取られた上に精神的に相当なダメージを受けておる。身体が小さくなったのはそう言った理由なんじゃ」
続きます。




