後ろの話
「沙織ちょい話あるけど放課後ひまなん?」
「うち、塾あるけ、無理。」
「無理じゃねえだろ、山保塾何時終わり?」
「8時終わりだけど来んで。」
「駅前のマック2階で待ってから。」
「えちょまってよサエと電車で帰るって約束してんだよ」
「断れ、じゃな。」
携帯電話の通話ボタンを急いで押す。通話履歴がディスプレイに表示された。
9番は果たしてマックに8時、くるだろうか。
僕も今日塾があるので、断りの電話をいれる
混んだマック店内で窓際の四人掛けの席に座っている。一時間前から店内に来て空いてない頃から
席を占領した。
携帯電話をいじりつつ、マックシェイクをすすっていたら、
塾帰りの女子中学生がこちらに迫ってきた。制服を着ている。9番だった。
はけだるそうにマックの固い椅子に猫背で座る。制服を着崩しているので一瞬ブラジャーが見える。
「で何?、用。」
座るなりじろりと睨まれる。普段のぶりっこのメッキは剥がれている。勉強疲れか僕に愛想がつきたか。
「お前と木下とデキてんの」
単刀直入に訊いた。鳩が豆鉄砲を食らった顔をした。
「は?誰かんなこと言ったん?」
「ナンバー31だよ。」
「えなにそれ意味わかんない」
「うるせーなこっちの話だよバカ。とにかくお前が木下とデキてるっつったんだよ!女子が!」
感情的になりすぎて、思わず心の中の思考が露呈した。代わりに大きな声を出して誤魔化す。
「声おっきいって場所変えようよ。」
「じゃどこいくよ」
「うーん、カラオケ補導されるしウチンチもダメでしょ怒られる」
「うち、ねーちゃんと母親夜勤で誰もいないよ」
「マジ?」
家に誰もいないのは事実だ、姉は男のところに行っている、父親は最初からいない。
「でも、それなんかやだ。」
「なんで」
沈黙がつづく。優しい声を出すように喉の調子を整える。
「大丈夫、話するだけだから、なにもしない。」
「本当?」
「バカ、当たり前だろ」
「じゃ、親にサエんち行くって連絡するね」
9番が携帯電話を取り出して親と会話をしはじめた。僕はそれをぼおっと見ている。
窓を向いている横顔はハムスターや兎といった鑑賞用の小動物に似ている。睫には丁寧にマスカラが塗られている。
9番は手放したくない、他の男に取られるなどあまりにも勿体無い。
「遅すぎるんなら、泊まってくから。親にそーいっときました。」
9番が携帯をぱたんと閉じる「おっけー」
僕は人差し指と親指でワッカを作った。
「うちと勉強どっが大切って聞いてんだよ、何で分かんないんだよ。」
つまり、勉強よりを優先しろというのだ。
僕と9番は僕の家に行き、延々と口げんかをしていた。
僕が、大体俺と木下どっちが好きなんだよハッキリしろよと言ったら、9番がそうじゃねえよと叫んだ。
そのときに9番が上記のセリフを言う。CMや映画で使い古されたワタシトシゴトドッチガダイジ?!
受験生の僕に勉強をするなとは無茶なワガママだ。もそれを分かっていて僕を困らせるために言っている。
理不尽な欲求には理不尽な対応がベターだ。
9番に近づいて体を抱きしめた。
予想以上にが胸が大きかった。意図せず僕は勃起したので急いで腰を引く。体は離さない。
やめろバカ変態と罵られる、頃合いをみて腕を緩めた。
「ごめん、お前も塾じゃん俺だって寂しいって、このままお前帰んのやだ。今日泊まっていって」
僕は弁解しながら子供のように駄々をこねる。果たしてこの説得の仕方は9番に効果はあるか。
9番はぼんやりとした顔でこちらを見ている。
さっきまでキンキン声が家中に響きっぱなしだったのに9番は黙りっぱなしだ。
「いいよ。」
9番が下を向いて、つぶやいた。
「え、なにが?」
僕はとぼけたふりをした。
「わかってるくせに、もー今日泊まっててもいいよ。」
マジ!と僕はの言葉に驚いたふりをした。
「ありがとう」
微笑みかけて、9番に覆い被さった、
ゆっくり優しく抱きしめる。今度は抵抗はなかった。女の体は柔らかく暖かい。少しだけキスをした。
はじめての体験だった。僕はもう一度勃起した。
9番は僕の所有物だ誰にも触らせない。
あの胸、尻は僕のものだ。「沙織」名前を思い浮かべる。
他人の名前だけれど「鉛筆」や「猫」みたいに名前と姿形が一致した。
こんな事は生まれて初めての体験だった。沙織は僕の女。
そう心の中で呟いた。「沙織」という言葉からの顔がはっきりと表れる。沙織沙織沙織。可愛い沙織。僕の沙織。沙織愛しているよ。