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自殺ショー  作者: tiki
3/3

3章

俺の半生を描いたVTRが終わった。今改めて客観的に見てみてもつまらない人生だった。よくぞここまでのVTRを作ったものだと感心してしまう。さすがはプロたちだ。


「では佐藤さん、準備はいいですか?」

そういわれて俺は正直ドキンッとした。ついにその時が訪れたのだ。

一世一代の大勝負、佐藤家の遺伝子が絶えるか存続するかの際に今俺はいる。だが、そんなに構えることはない、俺個人が生きるか死ぬか、ただそれだけだ。


机の上に置いてある拳銃を手に取る。

思った以上にずしりと重い。それはそうだ、人の生き死にを仕切る道具なんだ、軽いわけが無い。

「もうすでに弾は装填されています。シリンダーは、どのタイミングで何回でも回していただいて結構です。」

俺は銃を様々な角度から眺めてみた。どこかの隙間から弾の位置が見れないかと淡い期待を抱いたのだ。

「先程もご説明しましたが、外から弾の位置を判断することは出来ません。」

 くそ、忌々しいやつだ。俺の考えを読んでやがったな。

自らの女々しい態度を言い当てられて俺は恥ずかしかった。ここにくるまでに覚悟は決めてあるはずだ。さっきのVTRを見たやつなら俺が断固たる決意を持っていることを疑いはしないだろう。万一、いや性格には6分の1の確立で俺が生き残った場合には俺が逆境をバネにのし上がったヒーローであるかのように演出する準備のようなVTRだった。

 6分の1―――宝くじに比べたら確実に得やすい成功の確率、、、。悪い話ではない。悲観する要素も少ない、が希望を抱くことは禁物だ。なんといっても失敗したら待っているのは確実な「死」。失うものも大きいのだ。


とりあえずシリンダーを1回回してみた。何回回してみたところで単純な確率論なわけで、何か有利になるわけではない。そんなことは分かっている。しかし自分でまわしたほうが失敗したときにも納得がいく。はたして納得するという意識を刹那に得られるかは疑問であるが、、、。

「十分に時間をお使いになっていいですよ。これはあなたの人生なんですから。」

その声を聞いてはっと我に返った。俺は長い間黙ってシリンダーを回して考え込んでいたらしい。

 大丈夫、一回目はまだ6分の5は安全だ。よほどのことが無い限りしにはしない。そう言い聞かせ深呼吸をして拳銃こめかみに当てた。


「最後の言葉は?」

居能が決め台詞をいった。これはあらかじめ決まっていることだ。俺が何回目で死んでもいいように毎回聞かれて答えることになっている。

「1回目から死ぬことは無いですよ」

そう言って俺は撃鉄を起し、引き金に指をかける。観客から「ヒッ」という押し殺したしゃっくりのような悲鳴がもれた。手で眼を覆っているやつが大半だ。嫌なら何でわざわざ観にきたんだ。現実に人が死ぬとは思わなかったのか?テレビだからドッキリか何かだと?ばかなやつらだ。

それとは対照的に居能は俺の顔を直視していた瞬きすらしていない。その目鼻にかすべてを理解しているような余裕が感じられた。よくみれば不適な笑みを浮かべているようにさえ見える。

それはそうか、やつは命を懸けていないし、俺が死のうが勝利しようがどっちにしたって高視聴率のマークするこの番組を作れるんだ。労せずして伝説に名を残せるわけだ。

俺は目を閉じ、もう一度深く息を吸って引き金を引いた。


「カチン」


客観的にはかなり小さい音かもしれないが、俺には弾が発射するときの火薬の破裂する音に聞こえ、体がビクンとした。目を閉じていたので、いっそう聴覚が鋭くなっていたのかもしれない。

会場からも俺からも安堵のため息が漏れる。それと同時に今まで感じなかった鼓動というものが一気に感じられた。ものすごい速さ、そして激しく打っている。今までは止まっていたのだろうか?引き金を引く瞬間俺は一瞬死んでいたのか?

「おめでとうございます!!佐藤さん、一回目成功です。いや~ひやひやしましたよホントに。心臓が止まりそうでした。」

 嘘つけ。お前の顔には汗一つ浮かんでいない。心臓が止まるほどドキドキしたのなら俺のように顔と言わず体から汗が滝のように出るはずだ。なのにお前は涼しい顔の上に興奮した表情を作って俺に共感したフリをしている。ばればれだ。

「どうですか?一回目を無事に終えられた感想は?」

「そうですね、正直かなり怖かったですよ。頭では安全な確率のほうが多いことは分かってるんですけど、いざとなるとなかなか決心がつかないものですね」

 何をいい子ぶっているんだ俺は。命をかけている主役は俺なんだ。もっと正直に横柄になったって構わない。

そう思っていてもやはり素人だ、カメラの前では畏まってしまう。

「そうでしょう、我々凡人には想像をつかない恐怖だと思います。普段は忘れがちですが、我々にだって明日というものが確実に保障されているわけではありません。突然心臓発作が襲ってくるかもしれませんし、車に轢かれるかもしれない。誰しもが死と隣りあわせで生きているんですよね、今の佐藤さんほどではないんでしょうけど。どうしましょう?ここで一旦休憩しますか?」

あぁ、ありがたい、正直たった一回なのにどっと疲れてしまった。無性にタバコが吸いたい。

「ではここで一旦休憩に入ります。」

どうやらCMに入ったらしい。すぐさまメイクや衣装担当の人が走ってきて居能の身だしなみを整えている。何せ番組内容が特殊だけにCMの長さも自由にできると言う。俺はADにタバコを吸いたい旨を伝え喫煙室へ案内してもらった。スタジオを出ると、廊下は薄暗く、静まり返っている。さっきまでいたスタジオがまるで夢であるかのように現実味無く感じられる。まるで悪夢を見ていたような気持ちだ。背中にかいた嫌な汗の感覚も悪夢を見たときのものに似ている。

暗い廊下の先にポッと明かりのついた喫煙室がある。ADは、ここは出演者以外使わないから安心してくれ、というとドアの外で台本を確認し始めた。どうやら俺が逃げないように見張っているらしい。それは当然か、死を目の前にして逃げ出したくならないやつなんていないだろう。今俺に逃げられたらこのテレビ局の信頼は地に落ちて大変なことになるだろう。この若いADの負った使命は甚だ重大である。彼はそのことに気付いているのだろうか?その後姿だけでは窺い知ることは出来なかった。


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