2章
真っ暗なスタジオに一つのスポットライトが当たる。そこにはビシッとしたスーツを着こなした国民的人気司会者が立っていた。
「みなさん、今日は歴史的な瞬間を生放送でお送りします。一人の人間が生きるか死ぬか、まさにこの番組中に決するのです。神がいるのかいないのか、生きるべきか死ぬべきか、私には分かりません。しかし、人の命の燃えるにおいというのはなんとも美しく、はかなく魅力的です。それだけは分かります。」
真っ黒に日焼けした顔中に深刻な表情を溢れさせて、司会者居能凡太は言った。
何やってんだ早く俺を入場させろ。
事前に台本をもらってはいたが本番になると気が焦りイライラを抑えられなくなった。
「それでは今夜の主役の佐藤勇さんにご登場いただきましょう。」
壮大な音楽と観客の拍手に迎えられ、俺は中央に置かれている二脚の椅子のことこまで歩いていった。スタジオ内はかなり多くの観客がいる。空調が回っているのだろうが、かなり暑い。
「初めまして、居能凡太です。」
居能は握手を求めてきた。俺は緊張で冷たく汗ばんだ手を差し出した。差し出した自分の手を見て初めて気付いたが、プルプルと震えている。
居能は手を握った瞬間にそれに気付いたが、全く表情を変えることなく笑顔で言った。
「いやぁ初めてお話を伺ったときには驚きましたよ」
誰もお前に直接話した覚えは無い。
俺はこの男が嫌いだ。外面ばかりがよく裏ではどうせろくでもないやつなのだろう。
タバコのにおいを隠すためか居能の息はミントの香りが強くした。
「本当に勇気のあるお方ですねぇ、今日本中の人があなたの考えに驚いていますよ。」
「そうでしょうか、ありがとうございます。」
俺は当たり障りの無いことだけを返す。そう言われたわけではないがこんなときに軽いジョークを言えるほど肝っ玉は太くない。
「ではこちらにお座りください」
俺は促されるまま椅子に座り、居能と向き合った。
そこにアシスタントの女の子がワゴンで木箱を持ってきた。居能はそれを受け取ると二人の間においてあるテーブルの上に置いた。そしてテレビカメラのズームが寄ったことを確認するとゆっくりと蓋を開けた。
中には大きなリボルバーの拳銃が入っていた。
観客から驚きの声が漏れる
うるさいやつらだ。ディレクターからの指示通りに声を出すスピーカーと変わらない馬鹿な群衆め。
それに箱を開けるのは俺の役目だろう。自分ばかり目立とうとしやがって、これはお前の番組なんかじゃない。
俺の物語なんだ。
「コルトパイソンです。銃弾は6発装填できますが、今は一発しか入っていません。外からはどこに弾が入っているかは見えないようになっています。この銃をこめかみに当てて5回引き金を引くことが出来たならばあなたの勝です。つまりはロシアンルーレットです。」
観客からまとも大きなため息とも取れるような声が上がる。
テレビショッピングじゃねぇんだぞ。くそ。
そう思ったが、事実この番組はもはや大きなギャンブルとして日本中を席巻していた。もちろん表立っては出来ないが、裏の組織が元締めとなり、かなり莫大な金が動いている。当然テレビ局にも裏のプレッシャーは加えられていた。絶対に放送を中止するな、挑戦者が途中で降りないように最大限管理しろ。
そんな心配は必要ない。俺は死ぬ覚悟が出来ている。万一生き残っても俺にはどんな望みもかなえてもらえるという輝 かしい未来が与えられるんだ。どちらにしても俺に損は無い。
「それでは、佐藤さんがなぜこの挑戦を思い立ったか、再現VTRをご覧下さい。」