1章
うだつの上がらない日々だった。
自分は人とは違う、何か特別な才能がありいつかそれで有名になる、そう常に思って生きてきた。
俺は自分の時間がほしいために定職には就いていない。今やっている仕事だってほんの腰掛でやっているだけ、なぁにすぐに抜け出てやるさ、そうやってつまらない生活をごまかしていた。
だがそれも限界だ。
頭の中に七色のお花畑が広がり、フリフリスカートをはいて白馬の王子様の到着を待つメルヘン乙女だっていつか気付く。現実はそんなに甘くない、平凡な人間には平凡な人生しかない、その中で幸せを見つければいい。さぁ、この夢から覚めてしっかり生活しなくちゃ、と。
なのに俺ときたら32になるというのに、今の今まで夢を、根拠のない夢を見続けてきた、とんだバカだった。どうする?人生は一方通行で昔に戻ってやり直すことは出来ない。そんなことを考えてもしょうがない、前に進まなくては。そう思ってはいても何年間も染み付いた子のだらだらとした生き方をすぐに改めるのは難しい。そうこうしているうちにまた腰掛腰掛と馬鹿にしている仕事に出掛けつまらない日々を送っている。将来に希望もなく、妻もおらず貯金もない。絶望と孤独を相手に毎日遅くまで深酒をすることだけが俺の楽しみだ。アルコールによる多幸感なくしては俺はもう動く気力さえなくなっている、肝臓を傷めて病院へ担ぎ込まれるのもそう遠くないだろう。
死のう
ある日突然そう思った。こんな惨めな生活もう沢山だ。
昔の同級生は皆そこそこの会社に入り、家庭を持ち、人生これからという希望に満ちている。
俺とは全くの正反対だ。
そんなやつらから向けられる哀れみの眼差しにうんざりして最近は友達とも距離をとっていた。親兄弟もすでに他界している。俺の死を悲しむものはいない。
最初はネクタイで首を吊ろうとしたが梁が太く長さが足りなかったので、仕事帰りに閉店すれすれのホームセンターからロープを買った。さすがにロープだけ買ったら怪しまれると思ったので日曜大工の道具なども買ってしまった。このような他人の顔を窺ってしまう性格が俺に死を迫っているのだろう。もう明日にはこの世にいないのだからどう思われても関係ないのに。
梁に固定した白いロープの輪に顔を通す。この椅子をけり倒しさえすれば俺の人生は終わる。多分死後の世界や来世といったものはないだろう。ただ意識の無い暗闇に永遠に閉じ込められるのだ。
そのことを考えると少し足が震えた。しかしこの椅子から降りたとしてもあと何十年かつまらない惨めな人生を過ごした後、同じように死ぬのだ。まだ今死んだほうが苦しみが少ないと考えられる。
眼を閉じ深呼吸をする。心臓が、、、数分後にかもう止まっているであろう心臓が凄い勢いで最後の鼓動を響かせている。
さぁ、と椅子を蹴り飛ばす刹那、死の危険を感じた脳が高速回転し、様々な考えを雷の如く俺に打ちつけた。その中の一つの考えが自殺を思いとどまらせた。あと数センチ重心がずれれば椅子から落ちてまう格好で俺は踏みとどまったのだ。
どうせ死ぬのなら、この命を使って勝負すればいい―――。
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