第9話 しゃわわ?
「わあ」
「すごい」
ちょうど出来上がったタイミングで、アルクとシエルの弾んだ声が聞こえた。
二人は丸太の椅子付きテーブルを見て、キラキラと目を輝かせた。
その手には、それぞれ石が抱えられている。
「お、いいサイズじゃないか」
アルクは手頃なサイズの石をいくつか取り零しながら運んできたようだ。一方のシエルは意外なことに力持ちなようで、両手で抱えるほどの大きさの岩を軽々と抱えている。
石と岩を釜戸を作る予定の場所へ置いてもらい、追加の石を頼んだ。二人は頬を上気させながら、再び走り去ってしまった。
戻ってくるまでに下準備を整えておこうと、土魔法で土を柔らかくしながら草をむしっていく。火の粉が飛んで火事になったら危ないので、調理場とするスペースから草を全て抜いてしまうのだ。
身体強化と土魔法で一定の範囲の草むしりを終えた俺は、釜戸となるスペースを拳一つ分ほど掘り下げてから二人が持ってきてくれた石と岩を手に取った。
石は俺の手ほどのサイズ感でちょうどいい。岩も十分な大きさがあるので切り出せば資材が簡単に手に入るだろう。
「レンガをイメージして表面を削るか。【水刃】」
ヒョイっと石を宙に投げ、超高圧の水流弾で石を裁断した。
うん、やっぱり【水刃】を使うと断面が美しいな。
小さいものや薄いものは掘った穴の周りに敷き詰めて土台にした。そして切った素材は、掘った穴を中心に三方に均一に積んでいく。積むだけでは心許ないので、小川の川底から粘土を採取して繋ぎに使った。
運ばれてきた石や岩を手に取り、表面を削ってレンガ状にし、粘土を使ってバランスよく積み上げていく。
作業途中、石を運んできた双子が、【水刃】を見て少し頬をヒクヒクさせていたが、分担作業は順調に進み、日暮前には釜戸が完成した。
「完成だ!」
「やった!」
「わあい!」
アルクとシエルは嬉しそうに顔を綻ばせ、互いの健闘を称え合っている。
懸命に何往復もしてくれたので、汗で前髪が額に張り付いている。
俺も汗をかいたし、ダンジョンに潜ってから風呂に入っていない。清浄魔法で身体や服の汚れは落としているが、やっぱり頭から湯を浴びてさっぱりしたいものだ。
「よし、二人とも、夕飯にする前にシャワーで汚れを落とそう」
「しゃわー?」
「しゃわわ?」
ぐ、キョトンと首を傾ける双子が可愛い。
俺は薄く切り出した木板を何枚か並べて足場を作り、二人に服を脱いでそこに立つように促した。
二人は素直に服を脱ぎ捨て、木板の上に並んだ。
「行くぞー」
「わわっ」
「ひゃあっ」
俺は水魔法と風魔法、それから火魔法を駆使して双子の頭上に小さな雲を作り出した。
雲はちょうどいい温度の雨、もといシャワーを降らせてくれる。研究に研究を重ねた結果、編み出した魔法だ。
恐らくシャワー自体が初めてな二人は、初めこそ驚いて抱き合っていたが、次第にうっとりと気持ち良さそうな顔をした。
「天然素材で自作した石鹸があるから、頭と身体を洗うといい」
「あわあわ!」
「あわわ!」
ポケットから石鹸を取り出して渡すと、双子は両手であわあわときめ細やかな泡を作りだし、お互いの頭や身体を洗い始めた。
そうしてピカピカになった二人を、風魔法と火魔法で温風を作り出して乾かしてやる。
「よし、さっぱりしたな」
「うん!」
「きもちよかったの!」
双子も大満足のようで、ホコホコと湯気を立ち昇らせながら木板の上でバンザイをしている。
せっかく身体が綺麗になったんだ、服も綺麗にしてやろう。
俺は顔より一回り大きな水泡を作り出し、そこに二人の服を入れた。
風魔法でぐるぐるとかき回せば、あっという間に洗濯完了だ。この魔法も遠征時にはとても役に立つので気に入っている。
温風でサッと乾かして二人に手渡すと、二人はふわふわになった服を嬉しそうに受け取って袖を通してくれた。
出会った時から服は着ていたけど、これ一着だけなんだよなあ。
今度街に戻った時に、子供服の店を覗いてみるか。
俺も同じ要領でシャワーと洗濯を済ませ、夕飯の準備に取り掛かる。
「せっかく釜戸を作ったし、早速使ってみるか!」
「なに作るの?」
「どうやるの?」
二人は自分たちも釜戸作りに一役買ったとあり、釜戸をとても気に入ったようだ。周りをソワソワしながら彷徨いている。やっぱり二人とも好奇心は旺盛らしい。
「魚でも焼こうかな」
実は川で粘土を集める際に、川魚を数匹仕留めておいたのだ。
捕まえたのはサーモントラウト。赤みが美味い川魚だ。
下処理を済ませておいた魚にたっぷり塩をまぶして、ハーブと一緒に蒸し焼きにすれば絶品だろう。
生命の樹から大きな葉を拝借し、サーモントラウトを包み込む。
持参していた網をかまどの上に置き、その上に葉で包んだサーモントラウトを乗せれば、あとは遠火でじっくり焼くだけだ。
焼き上がる頃にヴェルデが戻ってきて、丸太の椅子付きテーブルや釜戸を見て目を丸くしていた。双子にも手伝ったと伝えれば、満足げに鼻息を吹き出した。
「熱いから気をつけろよ」
焼き上がったサーモントラウトを葉に包んだままテーブルに並べる。
俺の対面に双子が並んで座り、俺が手を差し出したのを合図に両手をパチンと合わせた。
「いただきます!」
「いただきます!」
二人は俺との数回の食事を経て、すっかり食事前の挨拶にも慣れてくれた。
俺も手を合わせて包みを開く。
途端に、ほわりと塩とハーブの香りが鼻腔をくすぐった。
「いい匂い……あふっ」
「はふっ」
「熱っ」
双子とついでにヴェルデもうっとりと香りを吸い込んでからサーモントラウトに齧り付いた。まあ、焼きたてなので熱々のほくほくだろうな。
俺も苦笑しながら、息を吹きかけ冷ましつつ齧り付いた。
もっと凝った料理を作るなら、箸やスプーンも必要だな。きっと二人は使ったことがないだろうから、使い方も教えてやらなきゃならない。どんどんやることができる。
色んな設備が整うまではしばらく忙しくなりそうだ。
俺はハフハフと魚に喰らいつく双子と偉大なる緑竜の様子を眺めながら、のんびり食事を楽しんだ。
◇
その日の夜、双子は半日動き回っていたこともあり、食後しばらくして目をしょもしょもさせながらツリーハウスへと登って行った。
さて、今晩こそ一緒にツリーハウスで寝るぞ。
昨日風魔法で急に現れて驚かせてしまったので、今度は縄梯子できちんと上まで登る。
「よっ、と……ん?」
ツリーハウスに到着し、肘をついてグッと上半身を中に入れようとして、ふと顔を上げた。
すると、アルクとシエルがツリーハウスの隅で抱き合ってこちらを見ていた。その目には僅かながら畏怖の色が滲んで見える。
「あ……リアン」
「あう……」
俺の顔を見てホッと息を吐いたが、どこか気まずそうにしている。
「あー……っと、俺がいたら寝辛いよな。慣れるまでは下で寝るから気にせずここでゆっくり休むんだ」
「……ごめ、んなさい」
「ごめ、ごめんなさい」
「謝る必要はない」
二人は怯えた様子でこちらを見上げてくる。叱られると思っているのか?
何か作業している間や食事中は元気なのだが、こうして日が暮れ、辺りが静まり返ると、お互いにぴたりとくっついて離れない。
やはり、心に空いた穴を互いに埋め合っているのだろうか。
そりゃ会って間もない大人と一緒に寝るのは怖いよなー……。
今日は一緒に釜戸作りもしたし、かなり打ち解けられたと思ったんだけどなあ。
正直、少しショックだ。けれど、考えてみれば当然だ。俺の配慮が足りなかった。
いつか本当の意味で心を開いて三人一緒に眠れる日が来ればいい。
それまで俺はツリーハウスの下で寝袋にくるまって寝よう。雨の日は結界を張ればいいだけだ。
「おやすみ」
俺は二人に微笑みかけると、縄梯子を軋ませながらゆっくりと地上へと降りた。
トボトボと寝支度をしていると、背中にヴェルデの視線を感じた。
俺はあえて振り向かずに寝袋に潜り込んだ。
……別に、寂しくなんてないんだからな。
俺は複雑な気持ちを抱えながら、ゆっくりと瞼を落とした。
本日魔物解体嬢2巻が発売となりました!
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