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過保護すぎてパーティを追われた無自覚万能冒険者は、ダンジョンで双子亜人の子育て中  作者: 水都ミナト@3/10【魔物解体嬢】②巻発売


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第2話 隠しダンジョンへ


「う……」



 重い瞼を開けると、いつもよりずっと高い位置で太陽が燦々と輝いていた。

 どうやら昼過ぎまで眠っていたらしい。


 悪い夢を見たような心地だ。もしかしたら昨晩のことは夢かもしれない。


 現実を受け入れきれていない俺は、身支度を整えてからぼんやりした頭で一縷の望みを胸に冒険者ギルドへと向かった。


 なんとなく、誰とも顔を合わせたくなくて、フードを目深に被ってギルドに足を踏み入れた。


 入った途端、あちらこちらから困惑と興奮の入り混じった会話が耳に飛び込んできた。



「おい、聞いたか?」


「イカロスのパーティ、解散したらしいぞ!」


「えっ、あのとんでもねえ早さでAランクの称号を得たパーティか⁉︎」


「それだけじゃねえぞ! パーティ解散だけでなく、みんな冒険者の証も返納して再登録したらしいんだ」


「いやいや、嘘だろう。リーダーのイカロスの冒険者ランクがいつAランクに到達するかって賭けはどうなる?」


「エリナとブルドーだってBランクとCランクだっただろう? そういえば、リアンがいなかったな」


「どうやら三人パーティで再登録したそうだぞ。仲違いでもしたのか?」


「ええ? 円満にパーティ運営されているように見えたけど、見かけによらないもんだな」



 俺の名前まで飛び出して、思わずフードをグッと深く被り直した。


 そうか、みんな本当にパーティを解散して、冒険者の証まで返納したのか。

 一からやり直すって言葉は間違いじゃなかったんだな……。



「はは……夢じゃなかったか」



 俺の淡い期待は一瞬で砕け散ったというわけだ。


 他の冒険者に声をかけられる前に、痛む胸を抑えながら逃げるようにギルドを後にした。



 行く当てもなくトボトボ街を歩いていると、空気を読めない腹の虫が鳴った。


 そういえば、昨日の夜から何も食べていない。骨付き肉、食べそびれたな。

 昨日テーブルの上ですっかり冷めてしまった料理はどうなったのだろう。きちんと食べてくれたのだろうか。


 傷心中でも腹は減るのかと自嘲しながら、俺は屋台でサンドイッチを買って広場のベンチに座り、ノロノロと食事を済ませた。



「さて、これからどうすっかな……」



 ベンチの背もたれに両手を広げて置き、空を仰ぐ。清々しいほどの青空だ。


 これまではただひたすらパーティのために生きてきた。

 生きる目的であり、意義を失ったのだ。これからどう生きていこう。


 ソロで冒険者を続けるか? それとも、他のパーティに入れてもらうか?

 いや、もし他のパーティに入ったとして、また同じようにパーティから抜けて欲しいと言われたら?


 ……ダメだ。今度こそ立ち直れる気がしない。


 幸い、貯蓄は十分すぎるほどある。

 少しの間、冒険者業を離れて自分を見つめ直す時間を作ってもいいかもしれない。



「はあ……とりあえずしばらく一人になりたいな」



 こんな時はあそこに行くに限るか。

 俺は重い腰を上げて、のそのそと世話になっている宿に向かった。


 部屋に戻って荷物をまとめると、店主に支払いとお礼を済ませて拠点としていた宿を発った。三年以上世話になった宿だ。店主のおじさんとおばさんが心配そうにしていたが、俺はなんとか笑顔を貼り付けて二人と別れた。


 数日分の食料や調味料、それから野営に必要な道具を買い足し、空間魔法である【アイテムボックス】に収納する。収納数に上限はあるが、今日買った分は余裕で収納できる。


 一通りの買い物を終えた俺は、王都を出て近くの森を目指した。

 堅牢な城壁に囲まれた王都を出ると、途端に長閑な草原が広がる。


 街道は整備されているため、次の街までは道なりに歩いていけばいい。

 まあ、魔物が生息しているので、行商人なんかは冒険者を護衛で雇うことが通常だ。


 この世界には野生動物と同じように魔物と呼ばれる異形が存在する。

 そして、その魔物が多く住まうダンジョンというものが存在する。


 前の日までは何もなかった場所に、突如出現する不思議な亜空間で、洞窟の形状のものから塔や遺跡といった建造物タイプのものまで様々だ。


 ダンジョンには魔物が多く生息し、希少な宝物や鉱石、魔物を倒して得られる魔石や素材が手に入る。

 ダンジョンに生息する魔物は基本的にはダンジョン内から出てこようとはしないが、稀に外に出る魔物もいる。


 そして、ダンジョンにはダンジョンボスと呼ばれる強力な魔物が存在し、ダンジョンボスを倒すことでダンジョンは閉ざされる。

 俺たち冒険者は、お宝やダンジョンから得られる様々な素材を採取し、人々の安全を守るためにダンジョンの踏破とボスの討伐を目指すのだ。



 だが、唯一の例外としてダンジョンボスが倒されても存在し続けているダンジョンがある。



 それが王都からすぐの森にある初級ダンジョンだ。初心者の冒険者はまずこのダンジョンの踏破を目指す。かくいう俺たちも初めて挑んだダンジョンはここだ。



「懐かしいな……」



 ダンジョンの入り口である洞窟を前に、俺はしみじみとパーティ初のダンジョン攻略を思い返す。

 考えなしに飛び出していくイカロスに、バンバン魔法をぶっ放して魔力切れを起こしたエリナ、ブルドーはタンクなのに人一倍臆病で、いつもパーティの殿で盾を構えて震えていた。


 パーティとの思い出がまざまざと蘇り、ギュッと胸が苦しくなる。

 俺はふるりと頭を振ってから、意を決してダンジョンに足を踏み入れた。


 もう何度も来ているので、マップは頭の中に刷り込まれている。不要な戦いを避けてどんどんとダンジョンの最奥を目指す。


 そうして最短ルートでボスがいる部屋の前までやってきた。

 ボスに喧嘩を売りに来たわけではないので、一つ道を外れた行き止まりの部屋に向かう。


 ここはトラップ部屋だ。奥にダミーの宝箱がある。


 不規則に出たり入ったりする針のパネルの中で、一つだけ針が出たままのパネルがある。

 針が出ないタイミングを測って進むのが常套句となっているが、俺はあえて針が出たままのパネルに向かう。


 そのパネルを踏むとスイッチが作動して床が抜ける仕組みになっているのだが、まあ普通に踏めば足が穴だらけになる。俺は身体強化を足裏に施してカチカチに固めてからパネルに乗った。


 すると、がこんと床が抜け、ふっと身体が浮く感覚がする。

 落下しながら今度は耐火魔法と結界魔法を身体に張り巡らせる。


 まもなく着地の頃合いだというところで、足元に風魔法を放ち、緩やかに着地する。


 ここはダンジョンボスの部屋よりもさらに下層。周りはマグマで囲まれている。マグマの沼だ。降り立った場所はちょうど中洲に位置している。


 身体強化された足で跳躍してマグマの沼から抜け出し、ポカリと空いた横穴に進む。


 今度は状態異常無効効果のあるポーションを飲み、足早に道を進む。

 この場に満ちているのは毒の霧なので、ひと吸いでもすれば命に関わる。初めて来た時も薬がなかったら死んでいただろう。


 ポーションの効果が切れる前に追加でポーションを飲み、三本目を飲んだあたりで大きな扉の前に行き着いた。



「ようやく着いたな」



 扉には鍵はかかっていない。俺は躊躇うことなく扉を押した。隙間から眩い光が差し込んでくる。


 暗闇に慣れた目を眇め、白い光の中に足を踏み入れた。



 ダンジョンとは不思議な場所だ。



 先ほどまで毒の霧が満ちた洞窟にいたというのに、扉の向こうには爽やかで果てなき青空が広がり、青々とした木々が生い茂り、川のせせらぎが聞こえてくる。


 ここは一年ほど前に偶然見つけた隠しダンジョンだ。まあ、決まった名前はないが、俺はそう呼んでいる。


 俺が通ってきたルートでのみ訪れることができる特殊な場所。

 恐らく、俺だけが知っている場所。


 一人で考えに耽りたい時はいつもここに来る。人が来る心配もないし、自然豊かで心地いい。

 森の恵みも豊富で、凶悪な魔物もいない。たまに魔物を見かけるが、概ね平和な場所だ。


 小川に沿って森の中を進むと、開けた場所に出る。小川の水をすくって喉を潤した。



「ん、うまい」



 水質は最初に訪れたときに調べて飲料水として安全だと確認済だ。

 荷物を下ろして、いつも椅子代わりにしている切り株に腰を下ろした。



「はあああ……」



 すでに何度も訪れているとはいえ、この場所に来るのは骨が折れる。


 深く息を吐き出し、吸う。緑の匂いが胸いっぱいに広がり、ようやくホッとできた。


 不思議なことにこの場所は、外と天気や時間が連動しているらしく、太陽がのぼり、沈んでいく。

 夜には月が空を照らし、満ち欠けもしている。

 春には花が咲き乱れ、夏の日差しは眩しく、秋には葉が紅葉し、冬には雪が降る。


 ボーッと何も考えずに青空を仰いでいると、川のせせらぎと風が木の葉を遊ぶ音だけが聞こえてきて心が落ち着いていく。



 しばらくそうしていると、不意に頭上に影が差した。


 この場所にももちろん雲は生まれる。だが、影を作ったのは雲ではなかった。



「うわっ」



 ブワッと突風が吹き、慌てて目を閉じ腕で頭を守る。


 続いてバサバサと大きな翼が悠然と羽ばたく音がして、ズゥンと地響きがした。



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୨୧┈┈┈┈┈┈ 3/10 発売┈┈┈┈┈┈୨୧

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