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過保護すぎてパーティを追われた無自覚万能冒険者は、ダンジョンで双子亜人の子育て中  作者: 水都ミナト@3/10【魔物解体嬢】②巻発売


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第19話 踊ってみよう


 シャムが俺たちの前に現れてから三日が過ぎた。



「なんか、すっかり居座ってるな」


「居心地がいいのが悪いにゃ。あとご飯が美味しすぎるのにゃ」


「褒めても何も出ないぞ。ほら、干し肉」


「うみゃあ!」



 懐から取り出した干し肉を与えれば、目を輝かせながら頬張るシャム。


 アルクとシエルは二人で畑の様子を見に行くついでに、水やりをしてくれている。


 そよそよと風が髪を撫で、木の葉が擦れる音が心地いい。


 穏やかな空気の中、俺は少しだけ気持ちが大きくなっていたのだろうか。

 つい、シャムに問いかけてしまった。



「シャムは、外を知っているんだよな」


「そうにゃ。人間相手に情報屋をしていたこともあるのにゃ」


「へえ、じゃあ情報通なんだな」


「まあにゃあ」



 シャムは得意げにパタパタと尻尾を揺らした。


 双子に合わせてくれているのか、シャムは基本的に人間の子供に化けて過ごしている。

 だが、耳や尻尾まで巧妙に変化させるのはかなり神経を使うようで、ここにいる間は耳と尻尾はありのままにしているようだ。



「じゃあさ、人間に恋をした鬼人のことは、知っているか?」



 干し肉を食んでいたシャムの動きが一瞬止まる。そして、再びガブリと干し肉に齧り付いた。



「ああ、知っているにゃ。人間の冒険者に恋をした、愚かな鬼人族の女のことはにゃ」



 ザアッと乾いた風が俺たちの間を吹き抜けていく。



「……生きているんだな」


「うむにゃ。このダンジョンから出て、外の世界で生きているはずだにゃ。まあ、鬼人族であることがバレて人間にやられてなきゃにゃあ」



 シャムは特に気にした素振りを見せず、淡々と教えてくれる。



「舞姫と呼ばれていたから、うまく人間に紛れて生きているかもにゃあ。あるいは、王都から遠く離れたところに、人と亜人が共生する都市があるのにゃ。知性ある魔物に限るがにゃあ。そこに流れ着いているかもしれないにゃあ」



 理性のない凶暴な魔物は討伐対象となるが、いわゆる亜人──エルフやドワーフ、小人族などは人間と共生している。


 鬼人族は交戦的で、人間との馴れ合いを好まない孤高の存在であるため、人里に近寄ることはほとんどないとされている。


 だが、人間の男と交わり、アルクとシエルを産んだ鬼人の女はきっと──。


 今はヴェルデのダンジョンに住んでいるが、双子たちだって外の都市で生きる選択肢はある。帽子でツノを隠せば、一見すると人の子に見える。得手不得手はあるだろうが、シャムに変化の術を習うという手もある。


 もちろん、この場所でこのまま平和に暮らす選択肢だってある。


 アルクとシエルには、自分で未来を選んで生きていってほしい。


 どこででも生きていけるだけの能力や知識を身に付けてやりたい。



「ん? 待てよ、舞姫って言ったか? 舞い……そうか、もしかしたら」


「んにゃ?」



 俺の呟きに、シャムは干し肉の最後の一切れを口に放り込みながら首を傾げた。



「シャム、ありがとな。いいアイデアが浮かんだよ」


「そ、そうかにゃ。オイラに感謝するのにゃ」



 礼を言うと、シャムはふん、と顔を背けた。


 だが、ご機嫌にゆらゆら揺れる尻尾は隠しきれておらず、俺は密かに笑みを深めた。




 ◇




「踊ってみよう」



 俺は魔物の皮をボウルに張った簡易的な太鼓を用意して、双子に提案した。


 二人はきょとんと首を傾げていたが、俺が一定のリズムで太鼓を叩くと、やがて気ままに踊り始めた。


 へえ、すごいな。

 トン、トン、と軽快なリズムで思い思いのステップを踏んでいる。


 うん、これならいけるかもしれない。



「ほら、そのまま打ち合ってみろ。遊びだと思って」



 二人に木の枝を二本ずつ投げる。

 二人はそれぞれ両手で枝を受け取ると、踊るように手合わせを始めた。


 カンカン、カカン。


 それこそ、舞いと呼べるほど優雅な動きだ。

 いつも剣術の鍛錬となると、肩に力が入ってぎこちない動きになっていたのだが、今の二人はとても自由で柔軟な動きをしている。



「すごいじゃないか!」


「身体がかってにうごいた」


「うん、ふしぎ」



 打ち合いをやめた二人は、両手を掲げて不思議そうに枝を見つめている。


 血の記憶なのだろうか。彼らの舞いのセンスは、アルクとシエルの母親が二人に残してくれたものなのだろう。



「今の感覚を忘れないようにな。戦闘中もリズムを意識すれば、きっとうまく戦える」



 労わるように頭を撫でてやれば、二人は顔を見合わせ、力強く頷いた。




 その日の夜、俺は夕食の場で先日密かに決意したことを打ち明けた。



「冬を迎える前に、本腰入れて小屋を建てようと思う。家族も増えたことだしな」


「家族にゃ?」



 コカトリスの卵とじ丼を頬張りながら、シャムがこてんと首を傾げる。



「ん? 俺、アルクとシエル、それからシャム」



 指折り数えて見せると、シャムは驚いたように大きな目を見開いた。黒目が縦に走っていて、やっぱり猫だなあと思う。



「……そ、そうかにゃ。今の寝床も気に入っているが、小屋を作ると言うにゃらオイラも手伝ってやるかにゃ」



 シャムが耳をパタパタ、尻尾をゆらゆらさせながら鼻の下を掻く。



「当たり前だろう。自分たちが住む家なんだから」



 呆れつつ答えるも、シャムはどことなく嬉しそうで。

 尻尾がさらに大きく左右にゆらゆらと揺れた。


 アルクとシエルも顔を見合わせ、目をパチパチ瞬きながら俺を窺うように見上げた。



「「家?」」


「ああ、俺たちの家だ」


「ぼくたちの家……!」



 二人は嬉しそうに頬を紅潮させ、「むふふ」と顔を見合わせている。


 ツリーハウスは家と呼ぶには小さすぎるし、ヴェルデの元に来るまでは暗いダンジョン内で暮らしていたはずだから、恐らく洞窟で生活していたのだろう。


 そんな二人にとって、初めての家。

 帰るべき居場所が物理的にできるというのは、心の拠り所にもなるはずだ。


 期待に目を輝かせる双子とケットシーを横目に、俺は「気合を入れて作らないとなあ」と笑みを深めたのだった。


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