第13話 きっかけ
ダンジョンで生活を始めて、早くも一ヶ月が経過した。
俺は今、猛烈に悩んでいる。
どうにも魔法の特訓が軌道に乗らないのだ。
アルクとシエルは武器や道具を使うことが怖いようなので、それならばと魔法の特訓を開始した。
だが、攻撃魔法に抵抗があるのか、早々に集中力を切らしてしまう。
攻撃こそ最大の防御。防戦一方では逃亡の隙を掴むことが難しい局面だってある。
使える手札は増やしてほしいのだが……なかなかどうして上手く伝わらない。
「仕方がない。心が拒絶している間は習得できるものもできなくなるしな。地道に進んでいくしかないかあ」
ということで、魔法の特訓を切り上げた俺たちは森に入ることにした。
双子が仕掛けた罠を確認しにいくのだ。
食料調達の術はいくつかあるが、罠だって立派な手段の一つ。
双子は手先が器用なので、実際に作っているところを見せてやれば見よう見まねでそれなりのものを作ってしまえる。あとは微調整してやれば立派な罠の完成だ。
そして先日、これならば実際に使えるだろうと俺がお墨付きを出し、森に罠をいくつか仕掛けた。獣型の魔物がかかっていれば、今晩は豪勢にいこうと思う。
仕掛けた罠は全部で五つ。
順番に状態を見ていくが、罠にかかった形跡がないもの、かかったもののすでに魔物により罠が破壊されて逃げられたものなど、四つ目までは成果を得られなかった。双子も見るからに残念そうに肩を落としている。
そして頼みの綱の最後の五個目。
「あっ!」
遠目からも、大きな影が混乱した様子で蠢いているのが見えた。
罠に何かがかかっている。
「やった! やった!」
双子はパァッと目を輝かせ、弾かれたように罠にかかる魔物の方へと走り出した。
「あっ、おい! 待て!」
魔物は興奮状態で、弱ってもいない。あの様子だと罠を壊して暴れる可能性だってある。
そんな状態の魔物に向かって、双子は無邪気に歓声を上げながら駆け寄っていく。
その時だった。
ブチッと罠に用いていたロープが切れる音がした。
同時に響く、魔物の咆哮。
罠にかかって苛立っている魔物はすぐに双子の姿を認め、殺気を放ちながら後ろ足で地面を蹴っている。
頭から生えた大きな二本のツノに、馬よりも一回り大きな体。
鹿のような姿をしたその魔物は、Dランクに相当するホーンディアだ。
比較的大人しい魔物ではあるが、その鋭いツノに貫かれたらただでは済まない。
「あ、ああ……」
チラリと双子の様子を見れば、二人は震えるばかりで何もできない。
やれやれ、防護魔法も教えたはずなんだがな。
俺が軽く息を吐いたと同時に、ホーンディアが双子に向かって駆け出した。
瞳孔は開ききり、涎を撒き散らす口からは鼓膜を震わせるような雄叫びを上げている。
アルクとシエルは直立不動となって、迫りくるホーンディアから視線を外せずにいる。
「仕方がない」
俺は脚力強化を施し、一気に二人の前に飛び出した。
そして二人に結界を張り、向かってくるホーンディアに手を突き出す。
「俺の大事な子供達を傷つけるつもりなら、容赦はしない」
俺は水魔法と風魔法を同時に発動し、氷の剣をいくつも生み出して四方からホーンディアを突き刺した。
ザクザクッと皮膚を突き破る音がして、ホーンディアは断末魔の叫びを上げながら地に臥した。
ズゥン……と大地が揺れ、ホーンディアは動かなくなった。
指を鳴らして魔法を解除すれば、キィンと鈴を鳴らすような高い音を発して氷の剣はサラサラと空気中に散っていく。
「リ、リアン……」
「大丈夫だ。怖かったな」
ポン、と両手で二人の頭を撫でると、大きな紅い瞳と蒼い瞳からボロボロと涙が溢れ出てきた。
「罠に囚われているとはいえ、確実に息の根を止めるまで油断したらダメだ。攻撃魔法は相手を傷つけるためだけの魔法じゃない。さっきみたいに、大切な人たちを守るためにも攻撃魔法の習得は重要だと、俺はそう思う」
実際、俺が魔法を覚えたきっかけは、生まれ育った村を守るためだった。
何かを守りたい、誰かのためになりたい、その気持ちが強いほど、苦しい修行にも耐えられた。
二人はとめどなく涙を流しながら、俺の話にコクコクと頷いている。
手をギュッと握り合い、互いに視線を交差させる。
アルクはシエルを、シエルはアルクを。
お互いを守りたいという気持ちが強ければ強いほど、彼らはきっと強くなれる。
この日の出来事をきっかけに、二人は攻撃魔法の修行も熱心に受けるようになってくれた。




