第10話 リアンの悩み
俺がヴェルデのダンジョンに住まうようになって、二週間が経った。
この二週間で、幾分か生活の質は上がっていた。
まず、ダンジョン内で魔乳牛を捕まえて飼うことに成功した。
他にも、コカトリスを捕まえて、こちらも飼育することにした。
魔乳牛は、うまい乳を出してくれる魔物だ。
王都の郊外でも酪農家が育てていて、ごく一般的なミルクといえばコイツだ。
同様に、コカトリスの卵も市井に出回っていて馴染み深いものである。
もちろん、うちのコカトリスのコッコも毎朝新鮮な卵を産んでくれる。ちなみに名前はアルクとシエルが付けた。魔乳牛はミルクからとってミルと呼ばれている。
しっかりと柵と簡易的な飼育小屋を作って、安全を確保した上での飼育だ。干し草や果物を餌として彼らに与える見返りに、彼らもまた、俺たちに食の恵みを提供してくれている。
俺たちからは安全と食糧を、彼らは新鮮な食材を提供してくれる良好な関係を築いているというわけだ。
ツリーハウスを中心とした周囲の探索も進み、芋が自生する一帯から果実が豊富な一帯まで把握ができたので、食には本当に困らなくて助かっている。
いやあ、ヴェルデのダンジョンは森の恵みが多くて素晴らしい。
順風満帆なダンジョン暮らしをしているが、一つ困ったことというか、どうしたもんかなあと悩んでいることがある。
それは狩りだ。
暇を持て余した偉大なる緑竜が魔物を狩ってきてくれることもあるが、俺も腕を鈍らせないためにそれなりに実践を積みたい。
ということで、俺も積極的に狩りに出ているのだが、問題はアルクとシエルなのだ。
俺はこのダンジョンに住む権利を得る代わりに、彼らの自立を促す役割を与えられた。
生きることすなわち自給自足。自分の胃袋を満たす術は必須なのだ。
そのため、俺は二人に狩りのいろはを教えようとしたのだ。したのだが──
◇
「いいか? よく見ているんだ」
ある日、俺は双子と森を散策している時にホーンラビットを見つけた。
ちょうどいいと思い、小型ナイフを構え、風魔法を乗せてホーンラビットへ放った。
そろそろ狩りについて教えたいと思っていたのだ。
ナイフは見事的中し、ホーンラビットはその場で事切れた。
「力任せに放っても、ナイフはいうことを聞かない。不要な力を抜いて、肩をしっかり回して投げるのがコツだ。どうだ、やってみるか?」
予備のナイフを取り出して、二人を振り返る。
「ひ……」
「あう……」
するとアルクとシエルは真っ青な顔をして抱き合っていた。俺の様子を窺いながらナイフに手を伸ばすが、フルフル震えていて取りこぼしてしまう。
「あっ、あ……ごめ、ごめんなさい」
「お、おこらないで……!」
二人はいっそう怯えた様子で座り込んでしまった。
「すまん、ナイフはまだ怖かったよな。謝ることはないさ」
俺は素早くナイフを片付けて、二人の頭を撫でた。
狩りはまだ難しそうだな。代わりに罠や仕掛けの作り方を教えてみるか。
ホーンラビットを回収して、拠点としている生命の樹の麓へと戻る。
ホーンラビットの下処理を終えてから、俺は植物の蔓や葉を集めて簡単な罠の作り方を見せてやった。細長い葉を交互に編み込んでカゴを作っていく。入り口から奥にかけて狭くしており、入ることはできても出ることができない仕掛けになっている。
川に仕掛けて魚を獲るためのものから、森に仕掛けて小動物型の魔物を狩るものまで色々作ってみせた。
工作は楽しいらしく、二人の機嫌はすっかり治って黙々と手を動かしてくれた。
罠や仕掛けで獲物を捕獲できれば十分のように思えるが、罠はあくまでも捕えるためのもので仕留めるものではない。そういう仕掛けを作ればいいとも言えるが、やはり最後には止めを刺す必要がある。それが二人には難しいようなのだ。
子供に酷なことをさせているという自覚はあるが、これは必要なスキルだ。
彼らはどうにも争いや暴力を嫌うらしい。まあ、好きなやつの方が少ないだろうが。
ということで、実践的な魔法の訓練や剣の鍛錬もできないわけだ。
狩りを教えた数日前から基本的な魔法の訓練を始めたのだが、これもまたうまく進んでいない。
双子同士で戦うのは言語道断。
さて、やってみて、と軽い気持ちで二人を向き合わせたらアルクが泣いた。
俺は慌てた。シエルも泣いた。見守っていたヴェルデは白い目で俺を見た。
実践形式が最も成長が早いと思うのだが仕方ない。一人一人魔法の発動の特訓をすることにした。
だが、二人はまだうまく魔力を練ったり制御したりすることができないようなのだ。こればかりは根気強く付き合っていくつもりだ。時間はたっぷりあるからな。
というわけで、試行錯誤の二週間だったわけだ。
ちなみに、俺はまだ、ツリーハウスの中で寝ることを許されていない。




