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第7話 鑑定結果を信じたくない人

お読みいただきありがとうございます。

感想、評価をいただけると嬉しいです。

 その依頼人は、最初から結論を持っていた。


「鑑定を、お願いします」


 人間の男性だった。

 服装は整っている。

 だが、靴だけが少しだけ古い。


 アキは、黙って依頼品を見る。


 黒い布に包まれていたのは、小さな箱だった。

 鍵も封印もない。

 ただ、開けられた回数の多さだけが分かる。

 

 

 ―― 瞬きが少ない。

 


 東峰は、ほんの少し息を呑む。


「……その……差し支えなければ、

 どのような点でお困りか、伺えますでしょうか」


 東峰の問いかけに、

 男性は、視線をアキに固定させたまま、淀みなくと答えた。



「これは、

 “正しい選択をした証”だと聞いています」



 箱が、机の上に置かれる。

 

 コト、と小さな音が、鑑定所に響く。

 

 箱に近づいていくアキの指先を、

 東峰は、何となく目で追っていく。

 

 


「これが、本物かどうかを知りたい」


 彼の声は、強い。

 アキの尻尾が、低く揺れた。


「……鑑定はします」


 一拍置いて、アキは告げる。


「ですが、

 “正しいかどうか”は、

 鑑定しません」



 はっきりと言い切ったアキの言葉に、

 男性の眉が、わずかに動いた。



「それは……

 つまり、意味がない、と仰るのですか?」


「いいえ」


 声色の不機嫌さを隠すことなく、

 依頼人がアキを見据える。


 アキは凪いだ水面のように静かだ。

 


「意味は、あります。

 ただし、あなたが期待している形ではありません」



 アキの指が、箱に触れる。

 

 布が擦れる音とともに、蓋が開かれた。


 中にあるのは、指輪だった。

 飾りはない。金属も高価ではない。

 

 ―― だが、はっきりと魔力の痕跡が残っている。



「……この指輪は」


 アキは告げる。


「選択を肯定する力を、

 持っていません」



 真っ直ぐに、依頼人を見ていったアキに、

 依頼人は、すぐに首を振った。



「そんなはずはない。

 私は、これを持ってから――」


「変わったことが、ありましたか」


 遮られた言葉に、男性は一瞬、詰まる。



「……後悔しなくなりました」



―― 後悔


 

「それは……良い変化のようにも聞こえますが」


 ぽそり、と東峰が呟いた直後。


「違う!」


 男性の、強く大きくな声が響く。



「後悔してはいけない。

 そう思うようになったんだ」



 部屋に、不自然なほどの静寂が落ちる。



「鑑定結果です」


 沈黙を破り、

 指輪を箱に戻し、アキは告げる。



「この指輪は、

 “正しさ”を与えません」



その言葉に、

ほんの一瞬、男性が、ぴしりと止まり唇を噛む。

 

 


「……では……これは、何なんですか」



指輪の戻された箱を、

依頼人は見つめる。



「選択の“重さ”を、

 感じなくさせるものです」



 東峰が、息を吸う。


「……重さを、感じなく……」

「後悔しない、のではありません」


 零れ落ちた東峰の言葉に、アキは続ける。



「後悔に、

 触れないようにする」


 男性は、机を見つめたまま動かない。


「……そんなはずはない」


 小さな声。


「私は、

 間違っていないと……」


男性の声は、わずかに震えている。


「間違いかどうかは」


 アキは、はっきり言った。


「この指輪には、

 関係ありません」


 男性は、顔を上げる。


「……では、

 鑑定結果を、信じなければ……」

「信じなくて、構いません」


 即答だった。


 東峰が、驚いてアキを見る。


「……副所長」


「鑑定は、

 信じさせる行為ではありません」


 アキは、男性を見る。


「事実を、

 置くだけです」


 男性は、しばらく黙っていた。



「……あなたは」


 依頼人が、ぽつりと言う。


「冷たい」



その言葉に、アキは表情を変えることなく、

「いいえ」と言葉を続けた。


「冷たくない結果も、

 あります」

 

 

「では、なぜ……」



男性の困惑した声に、

アキの耳が、わすかに動く。



「あなたが」



 アキの声は、低く、揺れない。


「“信じたくない”からです」



 男性の目が、わずかに揺れる。


「……それでも」


 深く息を吸う。


「私は、

 この指輪を持ち続けます」



 男性の言葉に、アキの尻尾が、低く揺れる。

 


「それも、選択です」



 アキは、鑑定結果を、繰り返した。

 


「この指輪は、

 あなたの選択を、

 肯定も否定もしません」


 男性は、指輪をしまい、立ち上がる。


「……ありがとうございました」


 男性の声は、ほんの少しだけ軽くなっていた。







 扉が閉まったあと、東峰が小さく言う。



「……鑑定結果を、信じないまま帰られましたね」


「ええ」


「それで……よろしいのでしょうか」


 アキは、いつもの場所から、窓の外を見る。


「鑑定は、

 受け取られるために

 あるのではありません」


少しだけ細くなったオッドアイの目が、

東峰を見つめる。



「……では、何のために」


東峰の問いかけに、アキの耳が動く。




「拒否できるように」





 東峰は、言葉を失った。


 机の上には、もう指輪はない。


 それでも、

 触れなかった後悔の気配だけが、

 そこに残っていた。

 

 



次回投稿は、2/25(水)21:00の予定です。

良かったら、次話もぜひに。

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