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第4話 嘘を映す宝石

 その日、依頼人の持ち込んできた

 その宝石は、

 丁寧に磨かれている。



 完璧なカット。

 完璧な透明度。

 光を当てれば、誰もが息をのむ。

 宝石を通し、広がる虹色は、

 美しいの言葉では、足りない。




「……これは、相当なものですね」


 東峰がそう言うと、依頼人は満足そうに頷いた。


「ええ。家宝です。

 価値があると、証明していただければ」


 その横で、アキは興味なさそうに欠伸をした。


「今日は、彼に任せます」


 そう言って、アキはテーブルから離れていく。

 それ以上、見る必要がない。

 そんな言葉が聞こえてきそうにも思える。




 副所長に、彼、と呼ばれた獣人 ――ワタリガラス ――が、アキに代わり、テーブルに近づく。





 ―― ワタリガラス先輩の、羽音がする。


 東峰は、当たり前なことを思いながら、

 アキとワタリガラスの入れ替わる様子を眺める。



 そして、場についたワタリガラス先輩は、

 何も言わず宝石を受け取った。



 いつもの場所で、

 腰をを下ろし、目を閉じたアキを、

 ワタリガラスは見ることもしない。

 咎めることもない。

 それが、いつもの形だった。



 なぜなら、


 宝石鑑定は、ワタリガラスの仕事だからだ。





 ワタリガラスは指先で、

 ゆっくりと宝石を回す。


 シャツのポケットから、

 小さなライトを取り出し、宝石へ当てる。


 光を見る。

 影を見る。

 反射を見る。


 すべてを、一度きり。

 けれど、

 ひとつずつの時間は、

 とても長く。


 東峰は、いつの間にか、息を止めていた。




 長い沈黙。

 アキの尾も、揺れない。



「……本物です」


 低く、短い。

 けれど、ワタリガラスは断言をした。


 依頼人が、ほっと息をつく。

 同時に、東峰も、小さく息をはく。


 その様子に、ワタリガラスはチラ、と東峰を見たあと、すぐに宝石へと視線を戻す。



 ほんのわずかに、

 宝石を持つ指先が止まる。


 誰も、理由を知らない。




「ただし」


 その一言で、空気が変わった。


 ピシリ、と何かが、部屋を走る。




「この宝石は、“嘘を許さない”」



 ワタリガラスの言葉に、依頼人の片眉がわずかにあがる。



「……どういう、意味です?」



 ワタリガラスは、

 その様子をただ、じっと見たあと、

 そっと、宝石を布の上に戻した。



「持ち主が、

 自分の価値を偽ったとき、

 この石は、必ず濁る」


 依頼人の指が、わずかに震えた。



「嘘は、宝石がつくのではありません。

 嘘をついた人間を、

 映すだけです」




 沈黙が落ちる。


 アキが、目を開けた。


「……だから、綺麗なんですね」


 ぽつりと、小さな声が聞こえる。


「この宝石は、一度も、濁ったことがない」



 依頼人は、しばらく俯いていたが、やがて宝石を包み直した。



「……鑑定料はおいくらですか?」

「必要ありません。


 この石は、あなたのものだ」


 ワタリガラスは即答した。


「この石は、売るものでも、証明するものでもない」



 さり、と小さな羽音だけが、響いた。





 依頼人が去ったあと、東峰は尋ねる。


「……先輩、どうして分かったんですか」


 ワタリガラスは、窓の外を見たまま、

 東峰の方を見ないまま、

 言葉が落ちる。


「嘘は、

 光を怖がる」


 それだけだった。


 アキの尻尾が、一度だけ揺れる。



「副所長」


 ワタリガラスが、アキを呼ぶ。



 その声に、アキは立ち上がる。



「――さあ、鑑定の時間です」



 低い位置にある、アキの尾は揺れない。





 いつの間にか、


 昼は終わり、夜の気配がしていた。




 人が揺れ、

 物が揺れる。



 それでも。

 鑑定所の灯は、揺るがない。



 すぐそこには、

 次の依頼の足音がしている。







お読みいただきありがとうございます。

感想、評価をいただけると嬉しいです。

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