第68話 (沢風和也視点)
ブックマーク、評価ありがとうございます。
「武装女子? なんだよそれ」
「剛田武人という男性を中心に活動をはじめたバンドグループです。最近ではネッチューブにもチャンネルを開設しており最も勢いがあります」
「剛田武人?」
「数ヶ月前までは唯一の男性ネッチューバーとして活躍してましたが和也様を罵る動画を上げてから大炎上。視聴者に散々叩かれて姿を消していた彼です」
「はあ? あれが僕に手を出してきたデブだというのか、冗談はよしてくれ」
「女性ネッチューバーとコラボしたりしていましたが、ホントに知りませんでしたか? まあいいです。彼自身、チャンネルを閉じていましたのでわたくしも油断しておりました」
————
——
「腹減ったな……おい」
だらしなく弛んだ巨体。小腹が空いたのでいつもように男性保護官兼家政婦である面堂 未留を雑に呼ぶ。
最もこの当時はただの家政婦だと思っていたのだが、そのミルは、僕が呼んでいるにもかかわらず、今は手が離せないからしばらく待てと言う。
僕に母親はいない、鬱陶しくなったから出て行けって言ったらいつの間にかいなくなり、そして、いつの間にかウチに居た分厚いメガネをかけた無愛想な女がいた。
それからその無愛想な女と2人暮らしをしている。
まあ、僕はこの無愛想な女を密かにロボット女と呼んでいたがな。
ぐぅぅぅ……
僕のお腹が何か食わせろと訴えているのに、ミルのヤツめ。
「ミルの分際で生意気な!」
文句を言ったところであいつが動いてくれるかといえば、それはないと分かっているので、しかたなく、定位置(ゲームをする席)から立ち上がると重い身体を引きずるようにゆっくりと、のっしのっしと歩く。
しかし、ダイニングに行くまでには階段がある。
僕はこの階段が嫌いだった。以前足を踏み外し転げ落ちた経験があるからだ。
その時は残りの階段が2段ほどしかなかったから大事に至らなかったが……
僕は一段一段ゆっくり慎重に足を運んで降りていたが、ふとダイニングに着いたら何を食べようかと考えた拍子に足を踏み外した。
「うわっ」
以前よりもお腹が出ていて階段がよく見えていなかったのも悪い。後頭部を何度も打ち付けてからやっと止まった。
「う、うう……ぅ」
「和也さん! 大丈夫ですか!」
そこで意識が飛び、次に意識を取り戻した時には僕は前世での記憶を取り戻していた。
ちょっとあいまいなところが多いがたぶん社会人にはなっていたはずだ。
それからあり得ないほど太っていた身体に驚き、すぐにダイエットをしつつ、この世界でどう生きていこうかと考えたが何も思いつかない。
でもまあ何もしなくても男性手当てがもらえることが分かっていたので、そこまで不安はなかったな。
半年かかったが有り難いことに痩せてみると僕はかなりのイケメンだと気づいた。
そしてこの世界は男性が少ないから男性に優位な世界だということも。
「なんだこのデブ……剛田武人?」
そして男性ネッチューバーがたった1人しか存在していないということもわかった。
まあ、それに気づいたのはたまたまだったのだが、ゲーム攻略が思うように行かずに誰か攻略してないかとネッチューブを調べたのがきっかけ。
以前の僕ならば女性ネッチューバーの動画なんて絶対に見てなかったけど今の僕はそんなの気にしない。
むしろ女性ネッチューバーは普通に露出が多かったりする。
たぶん男を見る機会が少ないから自覚もないのだろう。お風呂上がりにラフな格好でゲームをしてたりするんだ。目の保養としてだいぶお世話になっている。
「このデブ、ただゲームをしてるだけだし、生配信してもそっけない会話、というかほとんど無視してるし、なんで生配信してるんだってレベルじゃないか。そんなの僕だってできるわ」
前世ではぜんぜんモテなかった僕だけど、この世界でこの容姿なら……そう思い至るまでにそう時間はかからなかった。
————
——
「あはは……デブのチャンネル登録者数十分の一以下になってやんの。あはは……ざまぁ」
始めこそドキドキしながら動画配信していたが、この世界の女は無駄に男慣れしていないから、ちょっと優しい言葉をなげかければすぐにその気になってくれて楽だと気づいた。
それに僕の念力。
——————————
念力量 中
念動1
念体1
念出1
特殊
念眼2
チャームアップ5
——————————
念眼は思考誘導という訳が分からない念能だが、チャームアップは僕自身の魅力を上げてくれるので、笑顔を振り撒きつつ使えばみんな必ず頬を染める。
ちょっと褒めて頑張ってとエールを送ってやれば投げ銭なんかもバンバン飛んでくるから笑いもとまらない。
和也様、和也様って……もはや僕の信者だね。気分もいい。
だから、それとなく僕はみんなを楽しませるために動画配信をはじめた……
みんなを楽しませない配信者ってなんで動画配信してるんだろうね、なんてことを呟けば、あとは女たちがデブの配信を見てもしょうがない、やめちゃう? なんてコメントが出て勝手に登録を解除していく。
デブがそのことに気づいた時が傑作だったな。ポッと出の分際で出しゃばるなとか、俺の領分を侵すなとか、何が領分だ。おかしすぎて笑ったよ。
男性ネッチューバーは僕(和也)一人で充分なんだよ。なんてことは思ってても言わないけど、僕のファンに叩かれまくってて腹を抱えて笑った。
そんなデブは、しばらくすると登録者数が一桁になり動画配信もなくなったことから興味がなくなった。
はっきり言って僕は男なんて興味がないからね、あるのは女だけ。
だからそう、ここで一気に登録者数を増やしてやろうと新曲を作ったのだ。
男性ミュージシャンなんて居ない世界だから僕のこの容姿で歌えば絶対にバズるはずだとね。
まあ何をやればハーレムが一番はやくつくれるか考えた結果でもあるが、登録者数=お金でもあるからね。まさに一石二鳥、このシステムを考えてくれた何処かの誰かに感謝だな。
それに新曲なんて似たような曲はあるがすべてではない。
前世の記憶から完全には覚えていなくても覚えている曲を適当に繋ぎ合わせればあっという間にできるんだよ。
音楽編集ソフト使いできないところは無駄に優秀なミルにやらせた。
しかし、無愛想だけど、いや、面倒臭そうな顔はするんだよな、こいつ。それに口煩い。使えるやつだから許してるけど……あと身体つきもまあまあ良いから、いつかヒィヒィ言わせてやる。
なかなかいい具合に出来上がった曲に歌を吹き込み新曲としてアップした。
思ってた以上に反響がすごい。僕って天才かも。登録者数も鰻登りで笑いが止まらない。
年末にある歌番組に出てくれっていうコメントまであるな。なるほど、そんなのもあったな。
ネッチューブは見ない女はいるだろう。しかし、テレビは見てなくてもつけている家庭は多い。
やはりテレビ出演は必須だな。テレビに出るだけで幅広い層に名前を売れるだろうからな。
それからどうすればテレビ出演が可能になるか自分なりに考え始めた。
ただ自分から出たいと申し出るのはカッコ悪い。ではどうするか、考えるまでもない女どもに動いてもらうのだ。
コメントにはそんな機会があればうれしいなあ、とかなんとか返しておけば、あとは上手いこと運ぶはず。焦ることはないさ。
あとは……そう僕は学校に行きたい。今行けば絶対にモテるからだ。モテると分かってていかないなんてあり得ない。
僕は早速そのことをミルに伝え学校に連絡するように指示したがなかなか縦に首を振らない。前例がないから危険だと言って。
僕の話は聞かないくせに自分の話は聞けと、この女自分に都合良く考えすぎなんだよな。クソ女。
「剛田武人さんが謝罪のために生配信するようです」
「はあ? 剛田武人、誰だよそいつ、僕は誰だか知らない奴よりも学校の方が大事なんだよ」
僕はみんなからチヤホヤされたいんだよ。
ミルが使えないと判断した僕は先に学校について情報を集めることにした。
「……和也様、武人様の配信を拝見しましたが和也様にも謝罪しておりましたよ。それはもう真摯に頭を深く下げて(男は頭を下げない)」
「うるさいな、そんな男のことなんてどうだっていいんだよ。お前あっち行けよグリメガネクソブス(グリグリ分厚いメガネのクソブスの略)!」
今近づかれると学校のことを調べてるのがバレるだろうが。
「はぁ、見た目が変わられても心が以前のままではいずれ自分に返ってきますよ」
「そんな事あるわけない」
バレなきゃいいんだよバレなきゃ。やっぱりこのクソ女をヒィヒィ言わせるのは無しだ。ムカつくから適当なところで追い出してやる。
結局ミルが動いてくれないので、僕が所属してる月見学園に直接メールを送った。もちろんミルが送ったように見せてな。
「和也様、勝手なことをされると困りますが」
当然ミルから叱責されたがそんなことは想定済み。
聞き流せばいいだけの事。学校からはすでに歓迎するという返事をもらっているので今さら覆されることはない。
ただ学校に通うのだからと新しい5人の男性保護官が来たタイミングでミルが家政婦を辞めた。
追い出すまでもなかったな。
新たな保護官はりん子、杏子、みかん、いち子、すいかの5人。
この5人からミルも男性保護官であったが、人気の出た僕を1人では保護しきれないと悟ったミルが新たな保護官を申請してくれ、ミル自身は自らの力不足を恥じて僕の保護官を辞退したのだとか。
挨拶もなく居なくなったミルに不満があるかといえば正直不満はない。
むしろせいせいしたって感じだ。
だって、新たに僕付きになった保護官はとても好感がもてる美人でグラマーな女たち。しかも僕の大ファンなのだと言う。
色気のイの字もなかったミルとは大違い。まあ、身体つきはよかったがグリグリ分厚いメガネに無愛想な顔で側に居られても何も感じないが。
「「「「「和也様、よろしくお願い致します」」」」」
「うん。よろしく」
どこまでヤレるか図るためにも、はじめての挨拶でハグに挑戦してみたが、嫌がれることもなく、それは大変素晴らしいものであった。
まあ、これを機に彼女たちへのスキンシップはどんどんエスカレートしていき、一月後には僕の妻となっているのだが……
最後まで読んでいただきありがとうございます。




