第138話
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「あら、あなたはたしか……」
俺はすぐに立ち上がり挨拶をする。初対面の相手に挨拶は基本だからね。
「私は武装女子のボーカルをしてますタケトといいます。
他のメンバーは別の楽屋なのですが、本日はよろしくお願い致します」
「ほう」
挨拶したはいいが、なんだろうこの感じ。先頭の女性から品定めされているような嫌な感じを受ける。
しかも、俺の事を見ているだけで口を開く素振りが見られない。話す気がないのだろうか、仕方がないので先頭の女性から視線を後ろのシャイニングボーイズの皆さんに移し、彼らに声をかけようとした、そんなタイミングで、
「私はシャイニングボーイズのマネージャーの南野だ」
マネージャーと名乗った南野さんが口を開く。それからシャイニングボーイズの彼らに顔を向けて俺に挨拶しろという合図なのか、アゴをしゃくってみせる。
すぐにシャイニングボーイズの皆さんが前に出てきて、その内のリーダーらしき人物が右手を差し出してきた。
「僕はシャイニングボーイズのリーダーをしているアイキです。よろしく」
「俺はカイキだ。よろしく」
「俺っちはサイキだよ」
「タイキ」
シャイニングボーイズのメンバーと握手を交わしたけど、彼らはにこりともしない。
テレビを観て抱いていた印象よりも冷たい、いや淡白なだけなのか?
しかし、ちらちらとマネージャーさんの顔色を窺うような仕草は……
——うーん……
女性に対して傲慢な態度をとる男性ではないだろうけど、いや、彼らは……ちょっと違うような……まるで飼い慣らされたぃ……いやいやまさかね。このご時世、それはないか。
そんなことを考えている間にはもう、彼らは再びマネージャーの後ろへと下がっていた。正直もう少し彼らと話をしたかったな。
「それで、そちらの女性は君のマネージャーですか?」
唐突に俺の後ろで待機しているミルさんのことを尋ねてくる南野マネージャー。
話しかけられたのでそちらに顔を向ければ、笑みを浮べている南野マネージャーさんの姿が、でもその目はどこか俺たちのことを見下しているような印象を受けて正直気分はあまり良くない。
それでも話を振られているので応えるんだけど。
「いえ、私の保護官ですが妻でもあります」
「ミルと申します。ご紹介のとおりタケト様の妻であり保護官でもあります。以後お見知りおきを」
ミルさんが南野マネージャーさんに向かって軽く会釈する。
!?
ん? 一瞬だけシャイニングボーイズの皆さんが驚いたように見えた。なんでだろう?
「こちらこそ、よろしくお願いしますねミルさん。しかし、この局内の警備はかなり厳重で男性の保護官は必要ないとお聞きしてましたが、なるほど、あなたは妻でしたか。納得いたしました」
妻だから入れたとでも言いたげの態度に思うところはあるが、収録前に揉め事を起こす訳にはいかない。ここはさっさと話題を変えるに限る。
「この人数にこの楽屋は狭いですよね。今他のメンバーに付いているマネージャーに確認してもらっているんですけど、オッケーがもらえたら私は他のメンバーと同じ楽屋に移動するつもりなのですよ。だから確認がとれるまでもう少し待ってください
今後のこともあるかもしれない、勝手な行動をして悪い印象を与えたくなかった。
でもこの楽屋は色々とあり得ないので、少しだけ主張しておく。
「そう? 私どもは別に気にしませんから構わないのですよ。
それに、ここで座らせるとせっかく準備させた衣装にシワが寄るからな」
「シワ、ですか」
「ん、君はなにか? たかだか衣装にシワが寄る程度大したことではないとでも思っているのかね? はあ、程度が低いというか君はつくづくアマチュアなのだな。
報酬を頂く立場のプロフェッショナルならば完璧な状態で臨むのは当然ではないのか……まあ言っても理解できぬか」
小馬鹿にするように首を振る彼女の態度にはむっとなるが、彼女の言い分ももっともだと思った。
たしかに俺たちは報酬を頂く立場。ならば最高の状態で臨むのが道理。これは基本的なことだ。忘れていた自分が恥ずかしくなった。
「すみません、おっしゃる通りです、失礼いたしました」
幸い、俺のズボンにはシワがほとんどついていなくてホッとした。
「なるほど。君はなかなか見どころがあるな、後日ウチの事務所を訪ねて来るといい」
なんだろうと眺めていると、南野マネージャーさんは懐の名刺入れから取り出した名刺を俺の方に差して出してきた、のだが……
「タケト様、失礼します」
素早く俺の前に出たミルさんがその名刺を受け取り、次の瞬間にはパキパキッと握り潰す。
「あ、え?」
ミルさんの突然の行動に頭がついていけずに呆けていると、
「タケト様、勝手なことをしてしまい申し訳ございません。
ただ、この名刺には残念石が練り込んでありました。残念石は体調不良を起こす原因になります」
「体調不良、ですか?」
——って言うか残念石って初めて聞いたよ?
残念石については、あとでミルさんから教えてもらったが、その石に触れているだけで体内の念力が少しずつ漏れ出す(その量は石の大きさで変わる)。
念力量が多く常に漏れている俺にとっては意味のないものだったらしいが、念力量が少ない者(特に男性が多い)にとってはふらつきや倦怠感、酷くなると念力枯渇を起こしたりもするそうだ。
ただ、この場合は名刺に含まれている程度なので大して意味がない。もしかしたら自分の反応を見たかった(測りたかった)のではないかとミルさんは話してくれた。
「さて、南野様、どういった理由でこのようなことを。場合によっては……」
ミルさんの目がキラリ(そんな気がした)と輝くと場の空気がピリッと変わる。
「……おっしゃる意味が分からないのですが……ミルさん、あなた、様の勘違いでは?」
「……」
しばらく睨み合った後、ミルさんは無言のまま握り潰した拍子に絨毯床に落ちてしまった名刺のカケラをいくつか拾い、小さな箱にしまう。
「……調べたところで何も出ませんよ」
口角を少し上げて余裕ぶっている(強がっているようにしか見えないが)南野マネージャーさんをミルさんは睨み続ける。
実際はメガネをかけているので、そう見えただけかもだけど、ピリッとした空気は尚も続き、まさに一触即発って感じ。
これは楽屋にいる俺を含めた男性陣にも緊張感が伝わりシャイニングボーイズの皆さんはオロオロ。俺も入り込む余裕がない。
「っ」
その時間はそう長くはなかった。ついに、先に南野マネージャーさんがミルさんから視線を逸らす。
無理もない。ミルさんの圧はすごい。現に南野マネージャーさんの額には大粒の汗が浮かんでいる。
苦虫を噛み潰したようなあの表情、耐えきれなかったのだろう。分かるよ。けど、ミルさんのプレッシャーはこんなもんじゃすまない。と鍛錬の時のミルさんを思い出しブルっと震えていると、
『はあ!? ふざけんな!』
緊迫した雰囲気をぶち壊す男性の怒声が楽屋の外から聞こえてきた。
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