第133話
ブックマーク、評価ありがとうございます。
——うーん。
生徒会室を出てからもつい考えてしまうのは先ほどの出来事。しょうがなかったとはいえ不安が残る。
「タケト様は、普段通りお過ごし下さい。何かありましても私が全力でお守りします」
思考が漏れちゃってたか、でも、ミルさんのそんな温かな言葉に俺は救われる。ホントありがたいな……
「ミルさん、いつもありがとう」
ミルさんの言う通りだ。せっかく今の学校生活に慣れてきたんだ。俺はいつも通り過ごすだけだ。
あーでも、事態を重くみた学校側が登校させてくれないなんてことはあるかもしれない……って言ってる側からまた後ろ向きな事考えているよ。やめようやめよう。
——あ、そうだ。
学校側に許可をもらって俺の周囲だけリラクセーションを展開させてもらえないかな。そうすれば問題も起こりにくくなるだろうし……
あーあ、この学校に通う男が少しでも増えてくれればちょっとは違うと思うだけどね。
前にも話したことがあるが、この学校には1年生15人、2年生17人、3年生16人、合計48人の男子生徒が在籍している。
3年生は在籍期間がのこり少ないから諦めるとして、1年と2年の先輩(合計32人)が登校してくれれば少しは違ってくると思うんだよね。
ちょっと新山先生に相談してから……ってまた余計な事を考えていたよ、さっさと教室に戻ろう。
——んー……
なんだろう、ただ歩いているだけなのにやけに視線を感じる。
いや、いつも視線は感じるんだけど、その視線がいつもとちょっと違う気がするんだよね。熱を帯びているというか……
なんてね、男なら誰でも向けらる視線だから勘違いしないように気をつけないとな。
「タケトくん、ありがとうね」
教室に戻るなり、バンドメンバーを除くみんなからお礼を言われた。
私たちにもチャンスをありがとうねと。涙まで流されて俺には何が何だか……意味が分からないんだけど、とりあえず涙をふこうか。
——あ。
そう思いハンカチをポケットから取り出してみたのはいいが、これはまいった。涙を流している子が多くて使えない。ごめんね。
とりあえず理由を尋ねてみたいけど、みんなぐすぐす鼻を啜っていて話ができそうにないもんな。
「た、タケトくんのそういうところ、す、す、す好きだよ。これ新曲」
どうしようかと思っていたら、つくしが新曲の入ったミュージックンを差し出しながらそう言ってきた。
「あ、うん、ありがとう……?」
そんなつくしも顔を真っ赤にしていて俺と顔を合わせてくれないんだけど……
『婚約した事を意識して照れてる』
不思議に思っていたところにななこからのテレパスだ。
そういうことかと納得。今日は、つくしだけでなく、さきやさちこもぎこちないというか、落ち着きがないからさ、いつものように親指を立てくれるななこだけが救いだ。
ということで、今回の新曲はさちこが作った曲になったらしい。
香織さんの会社を調べて、そこで働いている人をイメージして作った曲なのだとか。頑張るみんなを応援する曲。ななこが教えてくれたけど、すごく聴きたい。
すぐにでも聴きたいが、今は涙を流しているのに笑顔でいるみんなの事が先か。
「それは……ん」
ななこがポケットからスマホを取り出して、ある画面を見せてくれた。
「生徒会からのお知らせ?」
え? まさかこの短時間で、というのが正直な感想。一之宮先輩、行動が早すぎじゃない。
俺が教室に戻ってくるまでの短時間に、生徒会から全校生徒に向けて連絡通知を発信していたなんて。
歩いていたから気づかなかったのかな? 俺のスマホにも同じような通知がちゃんと来ていた。
詳しくは後日改めて生徒会から連絡があるらしいが、今は勝手な行動は控えるようにとしっかりと釘を刺している。そこはさすがだと思う。
一之宮先輩の行動の早さにはいつも驚かされるが、すぐに動いてくれたのは、たぶん、婚約者となったさきたちの安全を守るためだろう……
『一之宮先輩ありがとうございます』
一之宮先輩の気遣いというか優しさに感銘を受けてついMAINメッセージでお礼を伝えてしまったが、それにもすぐに返信がある。
『後輩はどんどん先輩を頼りなさい』
なんとも頼もしいメッセージ。大きな♡のスタンプは心の大きさを表しているのかな、なんともお茶目な人である。
——あれ……
チャンスをありがとうってなんだったんだろう?
————
——
事務所に向かう途中でファミリーレストランにより昼食を摂る。
もちろん、金銭的に余裕のない子もいるので昼食代は経費で落とす事になっていたからもっと、和気藹々と楽しい雰囲気で食べれると思っていたけど、先ほどの件が尾を引いているのか、みんな静かに食べていたよ。
「これは……」
中に入ってびっくりした。事務所が事務所らしくなってる。
動画に対するコメントや武装女子へのオファーなんかもまとめられていて、特に重要な案件はすぐに目につくようにホワイトボードに記入してある。
——ふむふむ。
1番早いものだと今月末にある歌番組への出演依頼か。
返事は未と書いてるのでこれから話し合って決めるってことかな? へぇ期限は今週末までね。
これは見やすくていいな。
「あーそれは私たちが……」
俺がマジマジとホワイトボードを眺めていると日間名さんと、木垣さんが小さく手をあげていた。
正月もゆっくりしている暇があるならバイトをしたかったらしく、それならばと、さちこが事務所開けて仕事をしていたのだとか。
あとは手が空いた子がちょこちょこ顔を出しては、少しずつ作業を進めたんだって。
カラオケバージョンの動画をアップしたり、やり出したらやる事が多くて、全てのコメントを確認していたわけではないよと言うが、結構な量を整理してくれている。
というか一度も事務所に顔を出していないは俺だけじゃないか? そんな事実にショックを受けていると、更なるショックが……
「あの、実はタケトくんを驚かせようと思って……」
申し訳なさそうに口を開いた秋内さん。一度みんなの顔を見渡した後に、パソコンを立ち上げて、ある画面を俺に見せてきた。
「おお」
そこには出来上がった武装女子のホームページの画面が。シンプルだけどなんかカッコいい。時間の関係で、まだ充実ではないけど、それでもショッピングサイトにはちゃんと飛ぶようになっている。
凄い、凄いよ、ってあれ? 驚いているのは俺だけだった。
秋内さんの知り合いの業者さんにお願いしたらしいけど、すでに予約販売を受け付けてるの?
武装女子の生写真、オリジナルTシャツにオリジナルタオル、オリジナルボトルやオリジナルサコッシュにオリジナルトートバッグまであるけど知らなかったのは俺だけらしい。
「ここまで上手く行くとは思ってなかったから……その、ごめんなさい」
上手く行かなかったとき、俺にショックを受けて欲しくなかったからとみんながフォローしてくれたが、正直なところ俺は仲間外れにされたようで悲しかった。
実際、武装女子のチャンネルにはほとんど関わってなかったけど、それでも、一言くらい欲しかった、なんてことを考えたのがまずかった。
「ごめん、ごめんなさい」
すぐに、ななこにバレて、みんなから泣きながら謝られるという事態にまで発展してしまった。
今後は俺にも権限(役職)を……なんて話しまで出たが、そこは丁重にお断りした。
働かなくても男性手当てがあり食うに困ることのない男の俺が稼いでも意味がないと思っているのもあるが、普通に会社法に抵触するからだ。
それに俺の目的は、みんなが少しでも豊かになって欲しかったからだし。
そんな考えも、ななこにはすぐにバレてしまって、みんなから更に泣かれて大変だったけど、俺の考えは顔を見てればなんとなく分かるようになってきたとか言う、ななこも何気に凄いと思ったよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




