第126話
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《肥田竹人視点》
剛田武人が歩みを止め、俺の方に顔を向ける。俺が思わず声を上げてしまったからなんだが……
「えっと、もしかして俺の事知ってる?」
「あ、いや……はい」
「そうなんですか。ありがとうございます」
分かっていたが実物はかなりのイケメンだった。これは、まともに顔を見れないレベルのイケメン。しかも言葉遣いは男のくせにすごく丁寧で男の俺でもちょっとした仕草に目を奪われてしまう。
ちくしょう、剛田武人はやっぱりカッコいい……
別に俺は男が好きなわけじゃないが、いや、どちらかと言えば嫌いな方なのだが剛田武人にはドキドキした。
たぶんそれは俺が緊張しているからだろう……
不意に後方で待機していたメガネをかけた太めの保護官が剛田武人の耳元で何やら囁き、驚いた顔をみせた剛田武人。一体、何を言われたのか……気になる……
次の瞬間には保護官がどこからか色紙と油性ペンを取り出したかと思えば剛田武人がその色紙にサインをしていた。
ひょっとして、あれを俺に……なんて期待したが、すぐに自分は男だから貰えるはずがないと気づく。じゃあ誰に……そんなことを考えていると、
「俺の名前覚えてくれてありがとう。これ、俺のサインだけど、貰ってくれたらうれしいなぁ、なんて思ったんだけど」
「え」
いる。いる。ほしい、けどうれし過ぎて声が出ない。
「ご、ごめん。いらないか。男で俺の名前を覚えてくれていたからつい嬉しくなって書いちゃったよ」
待て待て待て。いる、いるって。
「いる! もらってやる」
あ、奪い取るように取ってしまった。くそっ、うれしいはずなのに、変なプライドが邪魔をして、これだとせっかくサインをしてくれた剛田武人に嫌われてしまう……いや、別に俺は……あー、くそっ……
「応援する。してやる、から、これからも頑張れ」
やっと出た言葉。頑張ってくれ、柄にもなくそんなことを言った自分が恥ずかしくなり、気づいた時には駆け出していた。
このサインは生涯俺の宝物として扱い大切に保管した。
————
——
《剛田武人視点》
「行っちゃいました」
「はい」
「ミルさんの言った通りでしたね。でも男性でも俺の事応援してくれている人がいるんですね。なんだか不思議です」
ミルさんが俺の事に憧れている男性だと教えてくれて、サインを渡すのもいいですよ、と色紙と油性ペンまでアポートで取り寄せてくれたんだ。
「嫌でしたか」
「まさか。男性でも女性でも応援してくれる人には感謝しかないよ。うれしいな」
「私もずっとお側で応援します。タケト様」
「うん。ありがとうミルさん。それじゃ俺たちも帰りましょう」
「はい」
メガネを少しずらしてオッドアイの目を見せて微笑みをみせるミルさん。婚約したことでミルさんの感情が少しずつ表に出るようになった、気がする。
それから皆にバレないように会場を出た俺とミルさん。
俺はミルさんの肩をそっと抱きしめると、テレポートを使い自宅に帰るのだった。
ちなみに今でこそ微笑んでいるミルさんだったが、俺と婚約成立したと分かった時のミルさんとネネさんはずっと泣いていたんだ。
————
——
「タケト様、本当に私と、こんな私と婚約を……」
ミルさんがメガネを外すと、不安そうなミルさんのオッドアイが僅かに揺らいでいた。
「うん。俺はミルさんがいいんだ。俺と婚約、そして結婚してください」
「は……ぃ……うれしい、です」
俺の想いを確かめるように聞いてきたミルさん。
俺がそう伝えると綺麗なオッドアイから涙が溢れ出していた。
そんなミルさんが愛おしくて俺は思わずミルさんの肩をそっと抱きしめた。
「ちょっ、ちょっとタケトっち。私もいるのよ。ここにきて私との婚約は冗談だったとか言わないわよね? そんなことになったら私だって泣いちゃうわよ」
ネネさんにしては珍しく弱々しい声だった。
ミルさんを抱きしめていた俺の裾を僅かにネネさんが引く。やばい、ミルさんの涙を流す姿を初めて見たから思わず抱きしめてしまったが、ここにはネネさんもいるんだ。
もちろんそれを望んだのは俺で、これは失礼な事をした。
「ごめん。冗談とかないからね。俺もネネさんと婚約したいと思ったから名前を書いたんだ。これからもずっと側にいて欲しい」
「そっか。それなら……いい……よ」
それからネネさんまで泣き出してしまい俺はかなり動揺した。
いつも女性が好きだからと明るく振る舞うネネさんも男性から愛されたいという想いは心のどこかにあったのだろう。と勝手に思ってしまったが、喜びながら泣いている2人を見ればそれほど外れていないかも。
2人を大切にしようと心に誓いつつ彼女たちの背中を軽くさすっていると、案内人さんももらい泣きしていて目元の涙をハンカチで拭っていた。
落ち着いてから2人と写真を撮ったけど、2人とは指輪とブレスレットが揃ったらすぐに婚姻手続きをすることで話が纏まった。
だが、俺には最後の仕事、特殊メイクを落として皆の前に姿を見せないといけない。
そのため俺は休憩で使った控室ではなく朝に使用した化粧室に案内されていた。
今からすぐに特殊メイクを落とす過程を撮影し、それを時間を少しずらして配信する。
皆にはこれを生配信しているかのように見せるのだとか。
これは会場のスクリーンを使い、そうすることで配信が終わり俺がどこかの会場にいると気づいた女性たちがおかしな行動をしても俺はすでに会場を後にしているという寸法だ。
テレポートを使えば別にそこまで考えなくてもいいのだが、運営側が俺に危険が及ばないように計画してくれているようなので、ここは素直に運営さんたちの指示に従うことにした。
後で運営側の人に聞いた話だが、配信が終わった直後はなんというか、やっぱりというか、女性たちが遅くまで俺を探して回り、なかなか帰らせてもらえず大変だったらしい。
でも、俺自身としは今回のお見合いパーティーでたくさんの女性と接する機会があったからこそ、彼女たちの大切さを改めて認識できた。
その事に気づかせてくれたお見合いパーティーは本当に参加してよかったと思う。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




