No.053 / クラス萌黄の子孫たち
「では、修行に入る前に、とりあえず子孫のみなさんのご挨拶をいたしましょうか」
そんな市井富貴の提案により、ジガ・メバエたち先祖一同は、子孫たちと向き合う形で、「時と精神の部屋」に用意されていた巨大なテーブルについた。
「じゃあ、俺からいくぜ」
そう言って手を挙げたのは、目をぎょろりとのぞかせた、全身黒づくめのアバターであった。
「俺の名前は波風鉄人。ナミカゼ・シノギの子孫だ。リアルでは、しがないエンジニアをしてる。27歳、男だ。ここへ来るまでは、正直乗り気じゃなかったが、話を聞いてぜひ力になりたいと思うようになったって感じだ。よろしくな」
そう言って、痩身の忍者を模した鉄人のアバターが、ぺこりとおじぎをした。
「じゃあ、次は、僕」
次に手が挙げたのは、大きな熊を模したアバターだった。
「僕の名前は新進十と言います。ジョメイ・スクイさんの子孫です。リアルでは介護職をしている55歳の男です。僕の場合は、ご先祖様の前情報を読んだ瞬間からこれは大変なことが起きていると思って怒りが湧いていました。出来ることはなんでもするつもりです。よろしくお願いします」
そう言って、大きな熊はぺこりとおじぎをした。
「じゃあ、次はあたし」
そう言って手を挙げたのは、蜂をモチーフにした衣装を身に着けたスタイルの良い若い女性のアバターであった。
「あたしの名前は人形糸。カタク・写香の子孫よ。リアルでは服飾関係の仕事をしているわ。28歳、女。あたしの場合も、結構早い段階から、この運動には乗り気でいたわ。今も腹が立って仕方がないもの。ま、できることはするわ。がんばりましょ」
そう言って、ナイスバディの蜂はぺこりとおじぎをした。
「じゃあ、俺いくね」
そう言って手を挙げたのは、ジガ・メバエの子孫であった。
「俺の名前は仮初ユラギ。25歳。男。そこにいるジガ・メバエの子孫だ。俺の場合は完全に興味本位。なんたって先祖のメバエ氏ときたらスリープ前から神童と言われていたうえに、こうしてスリープ中の記憶が戻ってもまったく動揺しないというマイペースっぷりだ。せいぜい火の粉がかぶらない距離でご先祖様の活躍を拝ませてもらうよ」
そう言って、黒髪で中肉中背の、どこからどう見ても普通の若者であるユラギは、メバエを一瞥してぺこりとおじぎをした。
「では、お次は本墨万里さん、おねがいします」
そう市井富貴にうながされ、万里と呼ばれた金髪でおかっぱの少女はこくりとうなずいた。
「はじめまして。私の名前は本墨万里と申します。そこのショユウ・ユウスの子孫です。歳は……秘密。こう見えて結構なおばちゃんです。リアルの世界では早くに夫を亡くして長いこと未亡人をさせてもらってます。ここへは半ば無理やり来させられました。だからやる気はありません。役目を終えたら早々に元の生活に戻るつもりです。なので、まぁ、せいぜい頑張ってください」
そう言うと、万里は誰とも目を合わさずに頭だけぺこりと礼をした。
自然と、皆の視線が市井富貴に集まった。
「では」
と前置いて、市井富貴が立ち上がった。
「最後となります。私は、皆さんご存じでしょうが、市井富貴と申します。一応、カチ・まねさんの子孫であります。私の元にこの活動に参加しないかという打診が来たのがちょうど一年ほど前になります。ある日いきなり『あなたのご先祖様に関して重大なお知らせがあります』なんてメールを受け取って、はじめは新手の詐欺か何かと思いましたが、話を進めていくと、どうやらこれはとんでもない事態になっているということが分かりまして、最初に連絡がついたという理由から、こうして司会者じみた役割を担わせてもらっています。私の役割は、このプロジェクトを成功に導くこと。何をもって成功かといいますと、VRとリアルの両方から訴えることで世間を動かし、不正を明らかにし、二度とこのようなことが起こらないように法制度を変えるところまで持って行くことです。簡単な道のりではないでしょうが、どうかみなさん、心を一つにして、精一杯やりぬきましょう。では、成功を祈って、最後に一緒に、三三七拍子を、お願いいたします」
いつにも増して滑りのよい富貴の活舌に、みな少なからず心を動かされたのか、合掌の勢いは皆が思うよりも大きな音を立てて時と精神の部屋じゅうに響き渡った。
そんななか、市井富貴は右の口角をぐいと上げ、最後の一人になるまで手を合わせているのだった。




