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No.003 / 幽世ランド

「スピーチ、お疲れ!」

入学式を終えて講堂を出ると、セキが声をかけてきた。

メバエは「ありがと。緊張したー」と笑顔を作る。

するとセキの後ろからも小さめの声で「お疲れ様です」と声がした。

誰かと思い顔を確認すると、出席番号5番のショウメイ・アカシだった。

「あ、私が声かけたんだ。隣の席だったから。お昼一緒に食べてもいいよね」

セキが早口でまくしたてる。

「もちろん。よろしくね、アカシさん」

メバエはここでもくったくのない笑顔をアカシに向けるのだった。


「お昼、どうする?」

時刻は11時である。

セキは入学式でもらった新入生用のパンフレットを広げた。

メバエとアカシが両側からのぞき込む。

するとそこには新入生全員に指輪とスマホが支給されることと、それぞれの使い方が記されていた。

各々、配られた封筒の中に入っていた指輪とスマホを確認する。

説明書によると、指輪は、はめている主のバイタルをリアルタイムで測定しており、異常があるとすぐに専門機関に知らせがいくようになっているのだそうだ。

スマホは通話やメッセージのやり取り、そして新入生には学園から一定額の電子マネーが振り込まれているということだった。

「どうせなら、電子マネー使って別の島でお昼ご飯食べない?」

セキが提案する。

すぐにメバエとアカシが「いいね、それ」と飛びついた。

これも説明書に載っているが、幽世ランドはVR全体が空模様を呈していて、幽世ランド本島及び学園その他施設は、それぞれが宙に浮かぶ大小さまざまな島を模しているということだった。

付属の地図を見ると、むろん、中央にある幽世ランド本島が桁外れに大きい。

ここ、幽世学園は幽世ランドから見て南東に浮かぶ小島の上に設立されており、うっそうと茂る森の中に、学園を構成する本館と分館、それに体育館に講堂にグラウンド、部室に寮などが、それぞれ余りあるスペースをふんだんに使って設けられているとのことだ。

今、3人は講堂を出たところ、島の中央付近にいる。


「ここ、クジラ島の図書館の屋上にホットドッグ屋さんがあるみたい。芝生の上に座ってみんなで食べない?たぶん今の季節、風がすごく気持ちいいよ」

そう提案したメバエに、セキとアカシは異論なくうなずいた。


講堂を出て島の南端の港までやってくると、空飛ぶゴンドラがメバエたち3人を出迎えてくれた。

ゴンドラは十人ほどが乗れる屋形船を模しており、端から伸びる紐をたどると進行方向に大きな生き物(水墨画から飛び出してきた龍のようだ)が二頭並んでいるのが見えた。

メバエたちは船頭さんに例のスマホの電子マネーで料金を支払うとゴンドラに乗り込んで出発を待った。

客はメバエたち三人だけの貸し切りである。

自然とテンションが上がる三人であったが、ゴンドラが宙を進みだし、幽世ランド本島が見えてくると、そのテンションはピークに達し、更に高い黄色い声が船内からあがるのだった。


幽世ランド本島は遠くから見ると大きな島が宙に浮いているようであり、島の下半分は岩盤がむき出しになっていて中央に行くほど下に突き出ており、上半分は全体を薄い膜が覆っているように見える。

よく見ると、島を覆うそのドーム状の膜は頂付近で丸く途切れており、中から巨大な一本の木の頭部分が飛び出ているようである。

島は全体に大きな森のようで、うっそうと生い茂る木々の合間に、日本の平安時代の屋敷を何段にも重ねたような屋根がちらちらと垣間見え、島の東西の端に突き出る港付近には、とても高い二つの塔がランドマークのようにそびえ立っている。

そして何より目を引いたのが、島の中央にある大屋根から流れ落ちる大量の水だった。

地図によると「幽世大滝」と名前がついているようで、ゴンドラが近づくにつれて島の外にまで及ぶその水のしぶきが激しくなると、船内からはいよいよ大きな歓声があがるのだった。


宙に浮かぶ巨大な幽世ランド本島の周囲を、大きなクジラが回遊していた。

地図によると、これは「幽世図書館」であるという。

クジラを模しているのは、幽世ランドが現実世界からの訪問者を楽しませるための娯楽施設であることと無関係ではない。

クジラの頭頂部には潮吹きの潮を模した巨大なモニュメントが設けてあり、その周囲の一定の範囲を青々とした緑色の芝生が覆っている。

遠目から見ると、クジラの頭に苔が生えているように見える。

そして、芝生の中央付近には、メバエたちの目的であるホットドッグ屋が小さな丸い小屋を構えているのであった。


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