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No.033 / 同窓会


年も明け、待ちに待った2月10日の朝がやってきた。

「いよいよね、メバエ」

「そうね!みんなに会うのが待ち遠しいわ!」

この日、夜19時から、幽世学園第十一期生の第一回目の同窓会が、本島の北にある街のとあるレストランで開かれる予定であった。

「さっさと仕事を終えて、おめかしして出かけましょ」

メバエはそう言うと、いつもより10分早く家を出た。

街路には先日降った雪がまだ溶けずに残っており、歩いていると底冷えのする寒さである。

それでもメバエは、息を白くしながら、「同窓会♪同窓会♪」と、意気揚々と仕事に向かったのだった。


職場でのメバエの扱いは、この一年を通して、段々とひどいものになっていた。

現実世界からの訪問者である4人のメンバーは自由奔放で、時間は守らないわ、約束は破るわ、肝心の仕事は遅々として進まないわ、メバエに対して言いたい放題言うわで、子供を持ったことは無いが、まるで毎日が子供のお守りのようだとメバエは感じていた。

そんな中で、幽世学園の卒業生であり、唯一のメバエの理解者たりえるミノリは、日がな一日、ただテーブルに肘をついてティーカップを口に運んでいるのだった。

しかし、いつかこんな日々にも終わりは来るのだと、初めの頃こそ未来に期待したメバエではあったが、夏を越し、秋が深まり、冬を迎える頃になると、一種の諦めの境地に至り、まぁいいや、いつまでもこのままで、とさえ思うようになっていた。

職場の方はそんな具合に力を抜くだけ抜いてやり過ごし、その代わりにメバエはプライベートで勉強に励み、今日までの間に、幽世ランド内で取れる資格のうち四つを取得するに至っていた。

ルナに言わせれば、その才能を活かせる職場ではなくて、残念ね。ということであったが、長いVR内での人生、いつか身につけたものが活かせる日が来ると思って、メバエは毎日とにかく励んだ。

勿論職場では資格のことはお首にも出さないのではあるが、そんなメバエをルナは、「根が大真面目なのよね」と褒めてくれるのだった。


そんなわけで今日も無事、一日の業務を終えたメバエは、くったりと疲れた足取りで家路を急いだ。

一旦帰宅して、この日のために新調した襟ぐりの大きなパーティードレスに着替えると、軽く化粧をして、いつもは耳の後ろで二つに結んでいる銀髪を三つ編みにして頭に一周巻き付けて準備万端、その時を待った。


05:00。

寒空の下、見知らぬ人影がそこここに潜み、カウントダウンが静かに進む――。

夜、19時、レストラン「彦星」に、幽世学園第十一期生の面々が集まり、乾杯のコールが鳴り響いた。


「おお、久しぶりメバエ!今、どうしてんだ?」

真っ先に声をかけてきたのは、2年間あらゆる順位を争った、ナミカゼ・シノギであった。

相変わらず腰まで伸びる金髪をオールバックでなでつけ、めぐまれた体格に、今日着ているタキシードを総合するに、さながら気品ある獅子の王者といった風格である。

「シノギ!久しぶりね!相変わらずネノクニ総研で雑用係よ」

メバエは面白くなさそうに言った。

社会人になってからもクラスも萌黄のメンバーとは、たまに連絡は取り合っている。

互いになんとなくどんな仕事についているかは把握しているものの、具体的に日々どんなことに悩み、奮闘しているかは知らぬ仲である。

「そういうシノギは?」

メバエは片手に持ったワイングラスに口をつけながら問うた。

「俺も相変わらず本島獣医チームで下っ端としてこき使われてるよ。まだ何にも任せてもらえねぇ。俺こそ雑用係よ」

そう言ってシノギは手に持っていたワイングラスをがばとあおった。

「シノギったら、そんなこと言って、こないだドラゴンの出産で大活躍したって言ってたじゃない」

そう言ってシノギの後ろから顔をのぞかせるのは、幽世エンタープライズの営業部の事務をしているフミ・あやだ。

「雑用係と言えば、私こそそうよ。事務の雑用なんだから、それこそ本物よ」

と、あやは口を尖らせる。

その後ろから、カシャク・セキとショウメイ・アカシが顔をのぞかせ、

「あたしたちは二人とも変わらず、株式会社イザナギで広報やってるわ。仕事にもだいぶ慣れてきたって感じ」

「カシャクさんは覚えが早いから。こないだも社内会議のプレゼンで大活躍してね」

「アカシだって、こないだ上司から褒められてたじゃん。仕事が丁寧だって」

と漫才のような近況報告が展開する。

「私と写香は幽世エンタープライズで、やっぱり雑用係よ」

と、向かいの席からカチ・まねが言う。

「僕は総務部、まねさんは経理部で、部が違いますけどね」

と、写公が変わらない静かなしゃべりでまねと目くばせをする。

「ユウスは芸能人だっけ」

とまねが水を向けると、オードブルに口をつけていたショユウ・ユウスが、「ん?そう。カグツチって事務所で働いてる。名前は『東雲しののめ 朝日あさひ』よろしくね」と、ウインクを飛ばした。

「で、残ったスクイ君は、幽世中央病院で医師と」

テーブルの隅っこの方で皿をつっついていたスクイに、メバエの視線が注がれる。

「まぁ、幽世ランドで怪我人なんて出ないから、もっぱら研究してるんだけどね」と一言丁寧に述べた。

同窓会はその後、バー「ベガ」で二次会、カラオケ「アルタイル」で三次会へとなだれこみ、ほどよく酔ったクラス萌黄のメンバーは、日付が変わる数十分前に、無事解散と相成ったのだった。


00:13。

カウントダウンの時計の針が進む。

解散したクラス萌黄のメンバーは、自分たちの後方に、それぞれ黒い影がついてきているのを知らない。

「そのとき」が、刻、一刻と迫っていた――。


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