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No.029 / 思い出横丁の占い


裏路地の一角に、その店はあった。

厚手のカーテンで間仕切りをし、表から中は一切見えないようにしてあるが、路上に設置されたA看板に、「占い」の文字がでかでかと表記されていた。

店の前に数人の行列が出来ていたので、メバエとメモリは最後尾に並んだ。

「どんな占いなんでしょうね」

メバエは頬を高揚させながら言った。

「なんでも、よく当たるらしいのよ。楽しみね」

メモリも興奮を隠せないようであった。


「お次の方、どうぞ」

行列を整理していた店員に呼ばれ、メバエとメモリは店の中へと足を踏み入れた。

店内は暗く、真夏の太陽の下から一気に暗闇に引き込まれた二人は、その場で立ち止まってしまう。

「ようこそ、マダム・レミィの占いへ」

見ると、ろうそくの明かりに照らされて、ベールを目深にかぶった一人の若い女性が円卓の向かい側に座っていた。

「目が慣れましたら、どうぞ、お席へ」

そう促され、「じゃあ、私から」と、メバエがマダム・レミィの真正面の席に着いた。

マダム・レミィは「はじめます」と言うと、タロットカードの束を取り出し、よくシャッフルした後で一枚一枚、円卓の上に丁寧に並べ始めた。

すべてのカードを並べ終えたところで、マダム・レミィは一呼吸置き、「それでは、カードをめくります」と言って、今度は一枚一枚、時間をかけてカードをめくり始めた。

すべてのカードがめくられると、マダム・レミィは再び一呼吸置き、「でました」と静かに告げた。

メバエとメモリは思わず顔を見合わせる。

マダム・レミィは、メバエの方に視線を向けて、次のように告げた。

「本当の気持ちに気づいてください。本当は、愛する人を求めてやまないはずです。寂しいなら、寂しいと言って他人に弱さを見せることも大切です」

マダム・レミィの神託はまだまだ続くようであったが、メバエは内心、「だめだこりゃ。完全に外れてら」と思って聞いていた。

「――最後に、一年以内に、あなたは運命の相手に出会います。けれど、その相手とは、永遠に結ばれることはありません」

最後までなんだかなーと思ったメバエは、早々に「あ、はい、どうも」とお礼を言うと、主役をメモリに譲った。


「では、お隣のお嬢さん」

マダム・レミィは再びタロットカードの束を手に取ると、それをよくシャッフルし、円卓の上に丁寧に並べ始めた。

そしてすべてを並べ終え、それらをめくり終えると、「でました」と言って、静かにメモリに視線を投げた。

「次の冬、突然の大きな波が、あなたを吞み込みます。そして、あなたは……」

そこまで言って、マダム・レミィは口をつぐんだ。

メモリは思わずメバエの顔を見やった。

「ああっ!おそろしい!」

マダム・レミィはそう言うと、その場で顔を両手で覆った。

「ちょっと!失礼じゃありませんか!」

思わずメバエが怒鳴る。

「いいわ、メバエ。もう店を出ましょう」

そう言ってメモリはメバエを制すると、ゆらゆらと立ち上がり、顔面蒼白のまま、店を後にしたのだった。


「なんだか悪かったわね、変な空気になっちゃって」

メモリはリンゴジュースをストローで飲みながら、そうつぶやいた。

歩行者天国に戻ってきた二人は、開放スペースに設けられたテラス席で向かい合っている。

テーブルに設置されている大きなパラソルが真夏の日差しを遮ってくれて、二人の上には濃い影が出来ている。

「メモリ先輩が謝ることじゃないですよ。気にしちゃだめですよ」

と、メバエが言う。

「でも、当たるらしいのよねぇ、あの占い。メバエの占いも面白かったわよね、特に後半」

「全然!私、恋愛しないから、外れも外れですね」

メバエは面白くなさそうに、音をたててストローをすすった。

「スリープの後遺症でか、学園の生徒は、仲間意識は強くても、恋愛感情を抱くことは稀なのよね」

と、メモリが苦笑いをしながら言う。

「一生このVRで過ごすんですよ?結婚も疑似出産も出来るとはいえ、なんかむなしいんですよね。恋愛に関心なんか持てるかっつーの」

いまやメバエの目は半開きで宙をにらんでいる。

「学園時代からつきあっている子はいたけどね」

メモリはそう言って柔らかく微笑んだ。

「ですね、うちの学年にも私が気づいている中でも一組はいました」

二人の間に、沈黙が流れる。

「メモリ先輩、ひょっとして今、好きな人います?」

メバエは苦笑いをして、なかば疑う形でメモリに尋ねた。

「えへへー」

「えーっ!?」

蒸し暑さが肌で感じられるこの日の午後であったが、その熱は二人のテンションを更に高くしたのであった。


「結局、メモリ先輩ったら、なーんにも教えてくれなかったのよねぇ」

その日、家に戻り、メバエは風呂上りの柔軟をしながら、ルナにそんなことを報告していた。

「でもよかったじゃない、人生初の占いだったんでしょ?どうだったの?感想をきかせて」

絨毯の上で身を丸めながらルナが尋ねる。

「確かに人生初だったけど、でも正直がっかり。全然当たらないんだもの。ドキドキしたのは最初だけね。まぁ今後、どうなるかは誰にも分からないけどねー」

そう言ってメバエは上半身を伸ばす。

「楽しみじゃない」

「そうね」

柔軟を続けながら、メバエは今日あったことを反芻する。

色々あるけど、なんとか社会人としてもやっていかなくちゃね。

そう決心をしなおして、話を聞いてくれたメモリ先輩への感謝の念を強くする。

しかし、こんな平和な夜は、今年を最後にもう二度と来ないということを、この時のメバエはまだ知らない。

メバエは嬉々として、ルナを相手に今日の報告を続けるのだった。


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