No.002 / クラス萌黄
しんと静まり返った講堂の中に、メバエの凛とした声が響く。
9時から始まった入学式は、新入生代表のスピーチを迎えていた。
メバエはスピーチをしながら壇上からあたりを見下ろす。
すぐ目の前には、「クラス萌黄」の、メバエをのぞく9名の新入生の顔が並ぶ。
スピーチの内容は誰でも考えそうな、いわば決まりきった文言で構成されている。
それをこなしながら、メバエはなんとか目の前の彼らの顔と名前を一致させようとしていた。
出席番号1番:ショユウ・ユウス。長身で細い目が特徴的で、長い黒髪を首の後ろで一つにまとめている。表情は穏やかな笑顔である。
出席番号2番:ナミカゼ・シノギ。こちらはユウス以上の長身で、ラグビー部のように体格に恵まれている。顔の堀りが深く、背中まである金髪をオールバックでなびかせている。その様はまるで獅子のようである。
出席番号3番:フミあや。大きな目が特徴的な、メバエよりも小さな女の子である。薄茶色の髪をショートボブにしており、前髪は眉の下できれいに切りそろえられている。ぱっと見の印象はリス。
出席番号4番:カチ・まね。下がり目にきれいな弧を描いた眉に、左頬の泣きボクロが特徴的。腰まである長い金髪の癖毛も印象的だ。背はメバエよりも高い。お姉さまといったふう。
出席番号5番:ショウメイ・アカシ。とろんとした目と太い眉が特徴的な、大人しめの少女。薄茶色の髪の毛は眉の上で短く切りそろえられており、残りは首の後ろで小さくまとめられている。背はメバエより若干高いか。
出席番号6番:カシャク・セキ。メバエの学生寮のルームメイト。金髪ショートカットで勝気な性格が目元によく表れている。背はメバエより高い。
出席番号7番:シュゴ・エンゴ。ユウスより一回り背の低い男子。どこかの音楽家のように、強い癖のある黒髪が目元から背中まで及んでおり、その下からのぞく目がまた猫のように大きい。
出席番号8番:私、ジガ・メバエ。
出席番号9番:ジョメイ・スクイ。メバエよりは背が高いものの、エンゴよりは一回り小さな少年。大人しそうな顔をしている。薄茶色でストレートの髪の毛は眉の下できれいに切りそろえられ、残った髪の毛も首の後ろで一つにまとめられ、そのまま腰まで伸びている。几帳面な印象。
出席番号10番:カタク・写香。背の高さはユウスくらいか。体格は細め。若干癖のある黒髪を女子のショートボブみたいにきれいにまとめている。顔は薄く大人しめな印象。
何もなければこれから2年間、同じ「クラス萌黄」として肩を並べる面々だ。
まずは各々の情報と印象をインプットしておきたい。
メバエがその作業を終える頃にはスピーチもそろそろ山場を迎える頃合いであり、改めて壇上から見下ろすと、9名の生徒と数人の先生方がそろって緊張した面持ちを並べていた。
せっかく同じクラスになったんだもの。みんなで仲良く過ごしたいわね。
メバエのその思いは、ある意味では達成され、ある意味では実現しないのであるが、この頃のメバエはまだ知らない。
このクラス萌黄の10人が、互いのかけがえのない戦友になるということも、もちろんこの時、誰一人として知らない。
長い長い物語は、まだ始まったばかりなのである。
この時のメバエはただ、多くの学生がそうであるように、新しく始まる学生生活を、一新入生として、晴れ晴れとした気持ちで迎えていたのである。




